ライン

素直になれば




「おい!まだ買うのかよ?」
「決まってるじゃない。買ったもの落とさないでよ!」
「・・・はぁ」



朝のヤスカ。
その店通りを、カイウスはルビアの荷物持ちとして共に歩いていた。
なぜ彼が荷物持ちをしているのかというと、昨日の喧嘩が原因だった。

勢い余ってルビアを泣かせてしまったのだ。
彼女がいる有り難さを知った矢先の喧嘩。カイウスは直ぐに謝った。すると、ティルキスが謝罪として、カイウスに何か一つ言うことをきかせれば良いと言い出して・・・こうなった。

宿を出て一時間足らず、既にカイウスの両手は大きめの紙袋で塞がっている。


「ほら、次はあそこよ!」
「・・・へいへい」


カイウスはルビアに気付かれないように、溜め息を吐いた。







「ぐあーっ!疲れたぁー!!」
「もう情けないわね。そこは『まだまだ楽勝だぜ!』って言うのが男の子でしょ」
「お前なぁ・・・袋四つも持たせといて何言ってるんだよ」
「軽いものでしょ?」
「んなわけあるか!」


結局あれから二時間歩き回って、ルビアは満足し、二人は宿に帰ってきた。
部屋に入って直ぐ、カイウスはベッドに飛び込む。
ルビアの方は、そんなカイウスに再度「情けない」と言って部屋の椅子に腰掛けた。

ちなみに他の仲間達の姿はない。出掛けたのだろう。多分、ティルキスがアーリアを誘って外に出たんだ。フォレストはそれを見守ってるはず。


二人きりの部屋。
昨日の今日で微妙に気まずい。
まだルビアの機嫌が良いから、沈黙が苦でないのが救いだが・・・気まずい。




「ねぇカイウス?」

静かに響いた彼女の声に、カイウスは体をビクッと震わせる。
何を言われるのだろう?ちょっと前まで、こんなことなかったのに。最近はルビアの言葉を先読みできない。
一寸先は闇。そんな気分。
それでも呼ばれたからには返事をしないとまた機嫌を損ねかねない。
カイウスはおそるおそるルビアの方を見る。

「な・・・何だよ?」
「ちょっと気になることがあって」
「気になるって・・・何が?」
「昨日のカイウス、やけに素直だったよね」

その言葉にカチンときた。
それでも諸々の文句をなんとか飲み込んで。だけど我慢できない分彼女を睨む。

「・・・素直じゃ悪いのかよ」
「別にそんなこと言ってないじゃない?あ〜あ、やっぱり昨日のは偶然だったのかなぁ?」
「なんだそれ!たまには早くケリつけようと思って・・・謝ったオレがバカだった!」


言い過ぎたと思いながらも言葉は撤回できない。ルビアから顔を逸らして、そのままシーツに埋った。


やっぱオレ、バカだ。


そんな風に自分で自分を攻めた。だからカイウスは、次の出来事に正しく反応できなかった。


「・・・・・・ぷっ、ふふ・・・あはは!ふ、あははは!」


「・・・は?」


顔を上げて再びルビアを見る。彼女は笑いを堪えるように腹を抱えていた。


「なっ、何だよ!急になに笑ってるんだ!」
「だって・・・あはは!カイウスったら本当に、子どもだなぁって・・・くす・・・」
「なんだとっ!!」

ガバッと跳ね起きてルビアを睨む。

「お前なぁ!人が素直に謝ればおかしいわ、撤回すれば子どもだと、バカにしてんのか!」
「あら?『オレがバカだ』って言ってたのどこの誰?」
「ぐぅ・・・!」

二の句が次げず、それでも怒りの勢いで腕ばかりが宙を泳ぐ。
カイウスが一人で暴れているなか、ルビアがふぅと息を吐く。そして、カイウスの姿を見て・・・もう一度吹いた。

「失礼なヤツだっ!!」
「だって子どもっぽ・・・くす、もう、笑わせないでよカイウス」
「笑わせてねぇよ!!」

徐々に荒くなる声。が、不意にルビアが顔を覗き込んできて、彼はピタリと止まった。
もう、と微笑しながらこちらを見上げる少女の顔が、幼なじみのそれに見えない。
なんだか、大人っぽい。
ちょんと、小さな指に頬を付かれる。小首を傾げた見慣れた姿を、不本意にも「可愛い」だなんて思ってしまって。


「・・・こんなカイウスでも、素直になればかっこいいんだから。もうちょっと大人になってよね」


それがトドメだった。
顔がかっと熱くなる。ルビアの顔を見れない。でも逸らせない。


「・・・――――にさ」
「へ?」


ポツリと呟いた言葉を幼なじみは耳ざとく拾う。けれど言葉として聞きとれなかったようで、きょとんとしていた。


「なに?何て言ったのカイウス?」
「なっ何も言ってねぇよ」
「嘘おっしゃい!口が動いたわ、絶対何か言った!言いなさい!」
「言ってない!そ、そんなに寄るな!暑いだろ!」

何もかも誤魔化してそっぽを向く。
意地になって追及してくる少女の姿は、いつも通りの幼なじみのもので。やっぱりさっきのは夢だと、カイウスは自分に言い聞かせた。





そっちだって、素直になればすごく可愛いのにさ


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