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奇跡の完成




「お疲れ様」
「そちらこそ」


気持ちの良い陽射しの下、労いの言葉を互いに掛け合う。

あの大会で運命的に彼女と出会ってから数ヶ月。

オレ達はこうして会っては互いを高め合うために定期的にバトルに興ずる。
今日はオレの実家の庭でバトルをした。

コトハは凄い。素直にそう感じる。
ポケモンへの指示のタイミング。全体の流れの把握の早さ。そしてその流れを自分のものにする力強さ。

その全てに強く惹かれる。
戦う度に胸が高鳴る。
嗚呼、この時間が堪らなく好きだ。オレは充実している。今までの退屈な時間が嘘みたいに。



「それにしても」


休憩時間、庭に立つ大木の木陰に腰を下ろしながら、前々から気になっていた疑問を口に出す。


「どうして君はあの日男の格好をして出場を?」
「あの日だけじゃないわ、いつもそうよ。
だってそうしないと相手が本気を出してくれないんだもの」
「成る程」


確かに二人くらいの階級の男性となると「女性には紳士であれ」が心情だから、本気なんて(例え彼女より格下だったとしても)出してこないだろう。


「だからこその男装か」
「そう。ありのままの私と本気でやり合ってくれるのなんてトウヤぐらい」
「それはどうも」


クスクスと笑い合う。

満たされている。
今、純粋にこの時間を“幸せ”だと感じた。


けれど、遠くからゴォーン、ゴォーンという鐘の音が聞こえてくると空気は一変。


「あ・・・もうこんな時間・・・」


彼女の笑顔がサッと曇る。
あの鐘のなる時間に彼女はいつも帰らなければならなかった。

お互いもっと一緒に居たいのになんて不条理な、と思いたくなるが年頃の娘を別の邸に、しかも同年代の少年の元へ遊びに行かせるなど常識で考えれば、大分甘い。
本当なら二人とも結婚前に異性と共に居ることが許される身分ではないのだ。

それが許されているのは、素質に恵まれ過ぎた子供を持った親達のせめてもの情け。


それでも、その時間でさえ永遠ではない。
分かっているから、辛い。満たされた後のとんでもなく寂しい別れの時が。


「・・・次はいつになるかな」
「さぁ・・・君のお父様が決めることだから、オレ達には分からないよ」
「・・・もしかしたらこれが最後かも?」


くす、と寂しげに笑うコトハの姿に胸が締め付けられる。

もっと一緒に居たい。

思いは同じなのに、古い仕来たりがそれを許さない。

足りない。物足りない。もっと、もっと、もっと一緒に・・・。
なぁ、どうしたらもっと心行くまで君と共に居られるんだろう?

家族でも、親類でもない二人が一緒に。




「じゃあ、私そろそろいくね?」


君が立ち上がってオレに背を向ける。
細い、あの強さが収まるには頼りの無さすぎる小さな体。


あの日、強く惹かれた。
嬉しかったんだ、出会えたこと。ずっとずっと会いたかった好敵手の君に。

でもさ、今の二人は本当に単純な好敵手何だろうか?
本当に強さを競うだけの関係なら、離れている時間こそ次会う時に相手を見返すための良いチャンスだと思うはずなのに。
オレそんな風に思えない。むしろコトハと離れている時間が苦しくて、虚しくて堪らない。




『何だ・・・』


本当は分かってた。この気持ちの正体を。
良いじゃないか、例え壊れたとしても、二人は一度運命によって繋がったんだから。
だったら情けない恐れなんて捨てて一度くらい玉砕覚悟で言えばいい。



「コトハ!!」


君が振り返る。
立ち上がって、走って、君との距離を縮めて、オレは君の腕を掴んで、そのままその小さな体を抱き寄せる。


「トウヤ・・・!?」


驚きの声。当然だ、マナーを叩き込まれた少年が少女を抱き締めるなど。ましてや婚礼前の男女がそんなことをするなど、仕来たりが許さない。

それでもオレは君を強く抱き締める。
徐々に彼女の力が抜けていくのが重なった体から伝わってきた。
その代わり「どうして?」、そうポツリと力無く呟くコトハ。


「コトハはさ、心行くまで一緒にバトルをしたりとか・・・したいと思ったことない?」
「心行くまで・・・?」
「そう」
「・・・あるよ。むしろいつも思う。もっとトウヤとバトルしたり、お話ししたり出来たらって。でも・・・」
「だったら、それを叶えてみない?」
「・・・どう、やって?」


君と視線を合わせる。不安そうな君の瞳に写る自分は、ヤケに自信ありげで変な気分だった。
こんなにも心臓はバクバク五月蝿いのに。こんなにも恐れているのに。

コトハ。

退屈な時間をこんなにも掻き乱して、取り払ってくれた女の子。
君とずっと一緒に居たい。叶えられない望みではないはずだ、だって二人とも似た環境で育ったんだから。身分違いより大分良い。



「ねぇ、オレと結婚しよう。
君が好きだ、コトハ」


息を呑んだ君の瞳が大きく揺れた。




++++++
僕が暴走した、これはひどいgdgd。

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