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朝の目覚めに紅茶でも


チチチ、という小鳥の囀り。
瞼に感じた光に身動ぎをしてから目を覚ます。


カーテンの隙間から射し込む陽射し。太陽の光特有の温かさが少しずつ体に染み込んでくる。


嗚呼、今日が始まったんだ。


まだ覚醒しきらない頭でルカはそんなことを思った。




「あんたって昔からそんなに低血圧だったっけ?」

そう問い掛けられて首をかしげる。
昔はどうだっただろう?
今と違ってすんなりと体を起こせていただろうか?

うーんと唸りながら思い出そうとしても曖昧な“昔”というキーワードだけでははっきりとしたことを思い出すことはできなかった。


その様子に正面に座るイリアがふぅと溜め息を吐いた。

何で彼女は自分のことでないのに溜め息なんて吐いたんだろう?
正直言うとこれは僕のことなんだから僕が溜め息を吐くところな気がする。



「バーカ。」

と不意にイリアが僕に向かって言った。
多分意味はない。ただなんとなくという気分で言った言葉なんだろうけど僕は気になってしまう。


「・・・僕が思い出せないから?」

「はぁ?あんたイチイチ気にしなくていいわよ。」


スパッと言い捨てられてそっぽ向かれた。ちょっと悲しい。
誤魔化すように先程淹れた紅茶をすする。
柔らかい香りと温かな甘味が体に染み込んできて気持ちが和らいだ。


「・・・相変わらず上品な飲み方ですこと。」

頬杖をついた君が目を細めて僕が紅茶を飲むところを観察する。
「・・・そうかなぁ?」と呟いたらフンッと鼻を鳴らして君はそっぽ向いてしまった。
気を損ねてしまったらしい。



「・・・あの、ごめん。」

「・・・何で謝るわけ?」

そっぽ向いたままの君が不機嫌な声で答える。
“何で”と聞かれても殆ど直感のようなもので謝ってしまったから理由を述べることは出来ない。

「・・・ごめん。」


結局言葉に詰まって言えたのが“ごめん”。
ちらりとイリアがコチラを見たかと思うとやっぱりそっぽ向いて溜め息を吐く。


「意味わかんない。」

「・・・ごめん。」

「もう謝んなくていいわよ。」

「ごめ・・・、あっ。」

「・・・もういい。」


それっきり会話は続かなくて僕は俯く。
いつもこんなことばかり、僕と彼女の会話はどうしても続かなくて、気まずい雰囲気になっての繰り返し。

きっと気の利いたことすら言えない僕のせいだ。

嗚呼、いっそ空気にでもなってしまいたい。そしたらただ君の傍に居られるのに。


僕は小さく溜め息を吐いた。
自分が情けなくって冷えた紅茶を飲もうと手を伸ばす。


カタンッ


机が揺れて何かと顔をあげると紅色の眼前に広がっていた。
イリアが机に身を乗り出したのだと気付いた頃に額に固いような柔らかい温かい感触。

額に額がぶつかった。


「・・・え?」

そんな間抜けな声が唇から漏れる。
瞬間、イリアの顔が勢いよく離れてキッと睨み付けられた。


「目は覚めた?この寝坊助!」


怒鳴って睨んで。

意味がわからなくて惚けた声で「・・・あの、僕起きて・・・。」と言ったら余計睨まれて口をつむぐ。


「バカ!頭良いくせにバカ!バカ!バカバカバカバカバカ!」

「えと・・・ご「卑屈!根暗!弱虫泣き虫!バカ!」


大きな声で喚くように言い放ってイリアは踵を返してどこかに行ってしまった。

「バカ」と言われてしまった。
だけど悲しさは全然無くて。むしろ不思議な気持ちで一杯だった。


彼女は怒っていたのだろうか?
いや、怒っているのなら彼女の事だからもっと色々言って、僕に一つは無茶苦茶な事をやらせたりすると思う。
じゃあ何で。


何でイリアの顔はあんなに真っ赤だったんだろう。

その時の表情を思い浮かべる。すると、なんだか頭がぼぅとして体が僕のものじゃないみたいに勝手に熱くなる。

特にぶつかった額が風邪をひいてしまったように熱い。



手を伸ばして、紅茶の残るカップを掴んで、イリアに「上品」と言われた飲み方で一口すする。

冷めきってしまった紅茶は甘い甘い味がした。





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書き出しが突発だったので内容が完璧にわけわかめ。

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