ライン

夕日の赤




「ふぅ・・・。」

夕日が染め上げる生徒玄関でルカは小さく息を吐いた。
優しく吹いている風がどこか肌寒い、そろそろ冬が近くなってきた証拠だ。
日も短くなって、時刻もまだ五時前だというのに太陽が放つ朱色は微かに暗い。


「姉さん・・・まだ終わらないよね。」

ルカの双子の姉―マティウスは放課後臨時の委員会が入ったのでいつも傍らで共に帰路につくその姿が今日はない。
遅くなるそうだから先に帰れと言われているし、僅かに後ろ髪引かれるけれどそうしてても仕方がないので静かに立ち尽くしていた足を進ませる。

が、少し進んだところで

「ありゃ?ルカ?」

「へ?」


思いもよらぬ方向から声をかけられて立ち止まる。
聞き慣れてきたその声の方へ視線を向けると声の主は大きな瞳をぱちくりと瞬かせてこちらを見ていた。


「何?あんた一人なの?」

「え、あ・・・うん。
そうだけど・・・どうしてそんなところにいるのイリア?」


イリアは本来座るべきでない学校のオブジェの台座の縁に腰かけていた。
学校鞄は無造作に脇に置かれていて、暇そうに足をぶらつかせている彼女がこんなところにいる理由がわからなくて首を傾げる。
するとイリアは少しだるそうに口を開いた。


「たいした理由じゃないけど。
一緒に帰ろうと思ってたルビアが何でも急に用事ができたらしくて、それなら別の奴と帰ろうかな〜?と思って誰かを待ち構えてたの」

「へぇ・・・。」

イリアの答えにルカは「イリアって普段ルビアと帰ってたんだ・・・あぁそういえば二人っていつも一緒にいるもんな・・・」などとどこかずれたことを考えていた。


「そうだ。あんた一人なのよね?」

「へ?う、うん」

「なら一緒に帰らない?」

「あ、うんいぃうええええぇぇぇぇぇっ!!?」

「なんよいきなり!ビックリさせないでよね!」

「えええええあのあのあのあうえあう・・・。」


イリアからの申し出にルカは顔を真っ赤にして動揺する。

これは学校中に知れ渡っていることだが、ルカはイリアに絶賛片想い中。
そんな彼女からの言葉に最初は驚いて、すぐに嬉しくなったけど同時に自分なんかにいいのかという迷いも生まれて。
現在ルカはせめぎ合う感情に引きずられて情けない格好を進行形で想い人の前に晒していた。

一方イリアはルカのあまりの挙動不審さに内心少しイラついていた。
たったの一言にこうまで大袈裟なリアクションをとられるとは思っていなかったし、
それにちょっと嫌な気分。


「なぁ〜に〜?ルカちゃんはそんなにあたしと帰るのが嫌?」

「そっそそそそそそんなことないですっ!!
ただあのぼっぼぼ僕なんかがその・・・あの・・・。」

「なんなの?帰るの帰らないの、どっち!」

「ひいっ!か、帰ります!帰り・・・ます。」


半泣き状態で「帰る」と言う彼の言葉を聞き「決まり。」と呟いてオブジェから飛び降りるイリア。
その際ふわりと翻ったスカートにルカの目がいく。


「ほら。早く帰りましょ?」

「う、うん。」


さっさと歩き出すイリアを小走りで追いかけ彼女の隣・・・ではなく半歩後ろについてルカも一緒に歩き出した。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


とはいえ急きょ一緒に帰ることになったこの状況では会話のネタがなくお互い無言。
しかもルカの方は姉以外の異性と一緒に、ましてや二人きりで歩く経験など初めてで頭が軽くパニック状態だった。

何を話せばいいんだろう?
そういえばイリアってどんな話をするのが好きなんだろう?
そもそもイリアの好きなものって何だろう?


迷いと疑問が駆け巡りどんどん話題を見失っていくルカ。

結局、その後イリアの方が話しかけてきて彼の思考は全て無駄に終わった。




「じゃああたしこっちだから。」

何度目かの分かれ道でイリアが鞄を振りながらそう言う。ルカはそれに「うん。」という言葉しか返せなかった。


偶然が重なって一緒に帰ることになった帰り道。
ルカは彼女に申し訳なさを感じていた。

きっと、僕以外の人と一緒に帰っていたらイリアはもっと楽しい気分になれていたはずだ。
自分には到底人をそんな気持ちにすることなんてできない。

俯きながら彼女の足が自分の帰路と違う方向へ向かうのを見ていた。



「ルカ。」

不意に名前を呼ばれて顔をゆるゆると上げる。
イリアが立ち止まってこちらを見ていた。


「またね。」

素っ気ない別れの挨拶。けれど立ち止まってまで言うような言葉ではなくて少し不思議な気分になる。


「うん・・・また、明日。」

小声だけどそう返した。

するとイリアが僅かに口元を綻ばせた。

沈む夕陽が辺りを薄く照らす帰り道で、ルカがイリアは笑ったのだと認識した頃には彼女は既に背を向けて歩き出していて。
暫くその場で去っていく背中を呆然と見ていた。



++++++
中途半端に書いてあったものを無理矢理終わらせてみた。

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