ライン

灰白色の猫と一緒に


・・・ん?

街の中心街を歩いている途中ふと何か気配を感じて立ち止まる。
幸い今は人の往来が少ない時間なので誰かとぶつかってしまう危険はなかった。


「この気配は・・・。」


勘の赴くがままの方向へと進路を変える。
一歩、二歩、三歩。
誰も好んで近寄らないであろう狭い脇道へ。


「・・・。・・・・・・?」

微かに聞こえた誰かの話声。
足音を立てぬよう気を付けながら、静かに声のした脇道のある空間を覗き込んだ。
そこには・・・。




「・・・ん?」

ゆっくりとしゃがみこんでそこにいるであろう生き物を驚かせないよう注意する。

物陰にいて見えないが確実に、いる。


「ほら、怖くないよ?」

おそるおそる右手を伸ばす。
指を軽く動かして誘うこと数秒。すると・・・。


ふにゃ〜ぁ。


愛らしい鳴き声を上げ物陰から灰白色の毛を持つ猫が出てきた。
差し伸べられている指に鼻を擦り寄せてクンクンと匂いを嗅がれる。

暫くすると猫は小さな体を手に擦り付けてきた。どうやら警戒を解いたらしい。

強く刺激しないよう両手でゆっくり抱え込むように持ち上げる。
胸に抱くと宙に浮いた尻尾が右に左に振られている。
毛を優しく撫でると喉をゴロゴロと鳴らしてくれた。
それが嬉しくて思わず綻ぶ。



「お前は此処を住処にしてるの?」

にゃー。


「ちょっと違うみたいだよ?」

「へ?」


自分とは違うテノールの声が背後から響いてきたのに驚いて勢いよく振り返る。
そこには見たことのない身なりの青年が立っていた。




声がした所にいたのは幼い少年だった。
こちらに背中を向ける形でしゃがみ込み僅かな隙間へ手を伸ばしていた。

ふにゃ〜ぁ。

そんな伸びのある鳴き声と共に灰白色の猫が姿を表す。
感じた気配はどうやらこの猫のものらしい。


『でもまさか先客がいたなんてね。』

さてどうしようかと考えながら少年と猫を観察する。

暫くして懐いたであろう猫を少年が抱き上げる。
見るからに優しく毛を撫でながら彼は穏やかな声で猫に話しかけた。


「お前は此処を住処にしてるの?」

にゃー。

どうやら少年の問いかけは見当違いらしい。が、それが少年に伝わるはずがないので。


「ちょっと違うみたいだよ?」


と声をかけると少年がすごい勢いで振り返る。
大きい群青の瞳は驚きで見開かれて、体も強ばらせていた。
まぁいきなり見知らぬ人間に話しかけられた反応としては正しいだろう。


にゃー。


猫がこちらに向かって鳴き声をあげる。
何とも簡切な言葉に思わず笑って「へぇそう。」と返すともう一つにゃーと鳴かれた。


「・・・あの。」

おずおずと少年が話しかけてくる。視線を向けると如何にも半信半疑な眼を向けられた。


「・・・誰と喋ってるんですか?」

「キミが話してると思ったものとだよ。」


また驚いて目を見開く少年。
するとそのタイミングで猫が身動ぎをした。
少年は慌てて猫が落ちないように支える。
そろそろ行きたいようだ。

「さて、キミはどうしたい?」




黒髪の青年は薄い微笑を顔に浮かべてこちらを見てきた。
思わず息を呑んで身を固くする。


にゃー。

猫がこの場にそぐわぬ声で鳴いた。
しかも青年を真っ直ぐ見つめて。
すると青年もそれが可笑しいみたいに笑った。


「へぇそう。」

にゃー。


青年の声に反応するかのよう猫がもう一声。まるで会話してるみたいに自然な流れなので思わず。

「・・・誰と喋ってるんですか?」

口に出して聞いてしまった。普段の僕なら考えられないような行動だけど青年の方はまるでそれを予期していたみたいに、
「キミが話してると思ったものとだよ。」
と返してきた。

まるでここの猫と話をしてると思われてもいい言動。
目を丸くしていると突然腕の中で大人しかった猫が身動ぎをした。
驚きながら慌てて猫が落ちないように支える。

するとそれを見ていた青年がいきなり「さて、キミはどうしたい?」とか言い出した。

「彼はいつものお気に入りの場所に行きたいみたいだけど。」


猫が肯定するみたいににゃ!と鳴く。
だけど僕の腕から降りて行くようには見えない。


「別にボクが代わりに連れていったっていいんだよ?」


こちらの心を読んでいるかのような言葉。
わかりきってるなら聞かないでほしいとか思いながら僕は静かに立ち上がった。


肩に乗った猫は上機嫌で尻尾を振った。






++++++
ネコ好き二人に共演してもらいたんもんです。
何処かに落ちてませんかジーニアスとコンウェイ。

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