もしも、の例え話
もしも、今ここに僕がいなかったら。
世界はどう廻っていたのだろう?
もしも、僕が生まれた処が今の両親の元でなければ。
今ごろ僕はどんな生活を送っていただろう?
もしも、僕が学校に行っていなかったら。
今ごろ僕の交友関係はどうなっていただろう?
もしも、僕が今見ている夢を見ていなかったら。
僕の生活はどんな風に変化していただろう?
もしも、僕が異能者・・・転生者でなかったら。
どうなっていただろう?
もしも・・・。
もしも、僕の前世がアスラでなければ・・・どうなっていただろう?
「そんなの分かるわけないじゃない。」
不機嫌な眼差しで唇を尖らせた君は言う。
「この話のどこが面白くてそんなこと言い出したのよ。」
「面白くは・・・ないけどさ。
でも、不思議な気持ちにならない?」
「どんな?」
「だってさ、もしも今言ってきた出来事が一つでも違えば僕らはこうして一緒に旅をしていなかったかも知れないんだよ?」
君が眉をひそめた。
僕の話の意味が分からなかったからではない。
君の不機嫌だった瞳が目に見えて不安気なものへと変わる。
「やっぱり・・・あんた後悔してるの?」
「なにが?」
「・・・あたしに・・・ついてきたこと・・・。」
少し前にも一度、同じ問いかけをされたことがある。
あの時と同じように、君は綺麗な顔を歪ませて斜め下に俯いた。
形のよい唇が小さく震えているのも、あの時と同じ。
僕はそんな彼女の手を握った。
僕よりも少しだけ小さい、女の子の手を。
そしてゆっくりと言い聞かせるように話始める。
「違うんだよ。イリア。
僕はそんなことを考えて君に話をしたかったわけじゃない。
それに前にも言っただろう?
僕は君が僕を必要としてくれる限り一緒に居るよ。」
ゆるゆると君が顔を上げた。
紅い大きな瞳には、頼りない僕の姿が映されている。
もう一度、君の手を握る。
すると同じように君も握り返してくれた。
「じゃあ・・・じゃああんたは、なにが言いたいわけ?」
未だ僅かに声を震わせながら、それでもいつも通りの君が再び問いかけてくる。
僕は小さく、本当に小さく笑って答えた。
「あのね・・・?
今の例え話は、それだけ重なった“偶然”のうえで僕たちがこうやって一緒に旅をしていることって・・・実はすごい事なんじゃないかな?って言いたかったんだ。
イリアはそう思わない?」
君の手を握ったまま首を傾げて問いかける。
君は一瞬目をぱちくりと動かしたけど、すぐに口を開いた。
「そう、ね。まぁ考えてみたらそうかも?」
「でしょう?」
「でもさぁルカ。」
「なに?」
「あんたが今言ってきたさ・・・全ての出来事って・・・全部“偶然”なの?」
「・・・と言うと?」
「いや・・・普通はさ、“運命”とかそんな言葉を使わない?」
「・・・イリアって“運命”を信じる?」
「いや。別に、わりと・・・信じない派。」
むむむ・・・と唸りながら難しい顔で考え込む君。
どうやら自分の考えにぴったりな言葉が見つからないらしい。
「僕はちょっと信じてるけどなぁ・・・“運命”。」
「あらあら〜。ルカちゃまはロマンチストですこと〜。夢見がちなのね〜。」
「そんなんじゃないんだけど・・・・・・。
う〜ん・・・じゃあ“偶然”じゃなくて“奇跡”・・・とかは?」
「それはもっと嫌かなぁ」
「どうして?」と尋ねると君の視線があっちにいったりこっちにいったりと空中を泳ぎ回る。
なんとなくなんだろう。
だけど僕の“奇跡”という言葉にはっきり「嫌」と言うのだから何か些細でも理由があるはず。そう思って僕は再び君に問いかける。
「どうして“奇跡”じゃ嫌なの?」
「・・・だってさぁ・・・なんか。」
「うん?」
「なんか・・・全部を全部“奇跡”って言っちゃうと・・・すごくその全部が軽くなっちゃう気がしない?
全てがその一言で終わっちゃうなんてなんだか寂しくない?
・・・よく分かんないけどさ。」
「ううん、よく分かった。」
どう形容するか悩む君の姿を見ながら僕は静かにその考えを肯定する。
確かにどんなことでも一言でくくるのは寂しく感じる。
「そう考えるとさ、“奇跡”って言葉は少しだけ物足りない気がするね。」
「そうでしょ?それにさ・・・。」
「それに?」
「あたしたちがこうして旅をしてることをさ、“奇跡”だなんて言いたくないでしょ?」
「・・・そうだね。」
君が、笑って。僕もつられるように笑った。
もしも、僕が、
彼女と出会えていなければ。
きっと僕の人生は今この時のような温かさを知らないまま過ごしていたと思う。
だから僕はこうして君と共に居られるこの時間が。
今はなによりも、愛しいのです。
++++++
とりあえずアレだ、ルカイリが書きたかった。
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