ライン

純粋心



一日の半分が過ぎた午後、宿屋の一室で彼が本を読んでいるところに少年は訪ねてきた。


「ねぇ、コンウェイって好きな人いる?」


そして伏せ目がちにそう言ったのだった。



「好きな?」

文字へ向けていた顔を上げ、コンウェイは不思議そうに銀髪の少年―ルカ・ミルダを見る。
その視線が気まずいのかルカは戸惑いながらも小さく「うん」と言って首肯した。


「好きなとはどういう意味の好きなんだい?
“友人”として、なら君もそれに含まれるんだけど」

「へ?・・・あ、あの・・・そうじゃなくて・・・その・・・」

「・・・“恋愛”として、かな?」


コンウェイの確認にもう一度ルカが首肯。
実は今のやり取りに必要性はない。
最初からルカの質問が“恋愛”としての好きな人を聞いてきたことぐらい分かっていた。
が、あまりにもルカらしくなかったため少しからかいたくなっただけだ。
実際コンウェイの間接的な友人としてルカのことも好きという言葉に慣れてないルカはかなり恥ずかしがっている。

多分彼のこういうところが面白くて、同じく旅の仲間の紅色の髪の少女と緑の髪の青年は毎日のように彼を構い倒しているのだろう。
もっとも、ルカが泣くまでいじりにいじる二人の惜しみ無き情熱に同意することは出来ないが。


ふむ、と考えるような素振りを見せコンウェイは一応開いていた本を閉じた。

「好きな・・・ね、まぁ僕だってそれなりに生きてきたからそんな想いを抱く女性も一人はいたと思うけど」

「えと、どんな人?」

「さぁね」


さらりと流す発言にルカが肩をがっくりと落とす。
翡翠の双眸が明らかな落胆の色を覗かせているあたり相当期待していたらしい。
むしろなぜそこまで聞きたがったのか首を傾げたいところだが彼の事情を彼が思っている以上にこちらは知っているので深く追及しないが・・・。


「逆に聞くけど、ルカは誰が好きなんだい?」

「・・・へ?・・・・・・えっ?!」


みるみる内に紅潮していくルカの頬。

少年は気づいてないだろうがコンウェイは今「好きな人がいるか?」ではなく「誰が好きか?」と聞いた。
明らかに確信を持った問いかけから分かるようにこの質問にもまた意味はない。
ルカの想い人など旅の仲間なら全員・・・いや若干一名は除くが皆知っている。
青い髪の聖女様曰くルカは必至で隠しているらしいのだが分かりやすすぎる態度にその努力も虚しく、緑の髪の青年にいたっては少年の知らないところで二人をくっつけようと当人以上に躍起になっている部分があるとかないとか。

とうとう耳の方まで彼自身の想い人である少女を連想させるように真っ赤にし視線を彷徨わせるルカ。
返しが率直過ぎたかとコンウェイが不安を抱くと、案の定自分から質問したのだからどうにかして返そうと必死なルカの瞳にじんわりと涙が滲んでいるのを見てしまったと思った。
何とか持ち直させようと策を模索し・・・。


バタンッ!

「コンウェイー!」


ノックもなしに突然開く扉と、部屋の空気にそぐわぬのほほんとした声と、一変した状況にルカがハッとしたのはほとんど同時。
それが好機と判断したのだろう、ルカは「ごごごごごごごめんなさいっ!!」と勢いよくコンウェイに頭を下げると一目散に部屋から飛び出していった。
その背中を新しく部屋に入ってきた少女がきょとんとして見送る。


「・・・ルカ、どうかしたか?」

「ちょっとね」


扉を見つめていた顔がコンウェイに向けられる。
ルカよりさらに白さが際立つ銀髪が揺れ爛々と輝く琥珀色の瞳は不思議そうに瞬きを繰り返していた。





「うぅぅ・・・・・・」

「・・・何やってんだお前?」


スパーダは神妙な顔つきで階段の影にうずくまっている見慣れたソレに話しかける。

「うぅ・・・うぇぇ・・・・・・」


大分落ち込んでいるだろう丸くなった少年はそんな呻き声で返事を返してきた。

またイリアに何か言われたか?誰かにからかわれたか?

彼が落ち込みそうな選択肢をあげてみるがいかんせん多すぎて原因に確信が持てない。


「・・・お前今隠れてるつもりだろ?残念ながらめっちゃ目立ってんぞ?」

「・・・・・・」

「とりあえずこっちで話そうぜルカよぉ」


階段の影に向かって話しかけてる俺も恥ずかしいんだよと半ば無理矢理襟首を掴んで立ち上がらせる(立たせた瞬間に軽くゴッという音がしたのは無視)。
予想通り顔を真っ赤にして目を潤ませていたルカの背中をぽんぽんと叩きつつスパーダは座る場所を探すため歩き出した。




(ハァッ?相談しといて自滅しただぁ?お前は馬鹿かっ!)
(うえぇぇ・・・・・・)




++++++
あのね、コンウェイ氏が書きたかったの。
あとイリアが好きすぎるルカくんが書きたかったの。
でも本当はルカ→イリ+コンキュが書きたかったりしたけどコンキュ思いつかなかった。

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