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紅桃-実行・納得・種明かし-
『アイツが?』
『そうよ、キーッ!ムカつく〜〜・・・!』
ギリギリと歯ぎしりをする凪沙。
紅苑はもう一度杏架に近づく彼を観た。
背中しか見えないが体つきから相手は男性。
身長は目測で紅苑より低く、六十五、六といったところ、まだ若そうに見える。あくまで、背面を見た紅苑が出した予測に過ぎないが。
『へいっ!クーちゃんゴー!いてこませ!』
『随分早いな・・・いいのか?』
『全然いいッス!むしろ行っちゃって!』
『・・・わかった』
凪沙が急かすので紅苑は予定よりいくらか早く民家の影から歩み出た。
見れば杏架が相手の問いかけに首を傾げている。
どうやら早まった予定も都合が良かったらしい。
数歩離れた場所からその背中に声をかける。
「すまない」
「えっ?」
紅苑の声に相手は振り返った。
まだ幼さの残る顔立ち、短く切り揃えられたブラウンの髪に同色の瞳が不思議そうに揺れる。
・・・どう見ても凪沙が騒ぐようなムカつく感じの人間には見えない。
「誰?俺に・・・用?」
「いや、そちらの少女が俺の連れだったのでな・・・」
打ち合わせ通りの言葉を口にする紅苑。
すると少年は「あぁ」と頷いて杏架に一瞬視線を向けた。
「そうだったのか、良かった迷子に見えたから心配で声をかけてみたんだけど・・・もう大丈夫だな」
物腰柔らかな対応、微笑みまで浮かべて見せる彼に紅苑は胸の内で首を捻る。
何故なら彼の印象が凪沙から聞いたものとかけ離れていたからだ。
杏架も同様らしい、首を傾げる反応はどうも困っていたわけではなかったようだ。
黒い青年と桃色の少女が困惑していることも知らず少年は紅苑と杏架の間から退く。
「じゃあ俺はこれで・・・」
「今だあぁぁっ!!」
立ち去ろうとした矢先あがる叫び、同時に少年の目が険しいものになる。
「なっ・・・!なぎ、」
「くらえ!積年の恨み!」
カチリという小さな金属音―ボウガンの作動する音に紅苑は焦る。
本気で射つのか!?
当たったら一大事なんてものではない。
阻止しようと体が動くが、遅すぎる。間に合わない。
ヒュンッ
空を割く音
駄目か・・・!
しかし結果は予想と違っていた。
「ひっっ・・・!!」
ガツッ!!
小さな悲鳴、針が固いものに刺さった音。
ボウガンの針は少年の頭上、そのすれすれを飛び背後の壁に突き刺さっていた。
外した・・・?
少年の様子を見ると彼も数秒遅れで自らの背後を確認する。
そして深々と突き刺さった針に顔を真っ青にした。
「あ゛ーーっ!!外したーっ!」
「・・・っ!・・・っな!あっぶねぇなぁ!馬鹿野郎!!」
凪沙の絶叫、少年の悲鳴。
大声の不協和音に紅苑は顔をしかめる。
と、同時に襲撃された少年は逃走を開始した。
素早い状況判断である。
あれは慣れていなければできない。
そう、慣れていなければ。
「あっ!あの人行っちゃうよ!」
「そりゃいかん!追うぞキョーちゃん、クーちゃ」
「待て、凪沙」
紅苑の制止。
凪沙がわかりやすく不機嫌になる。
「なぁにクーちゃん!早くしないと逃げちゃうよ!」
「その名前は本当に力が抜けるな・・・まぁいい。凪沙、お前に一つ聞いておきたいことがある」
「聞いておきたいこと?」
「どうしたの紅苑さん?」
「さっきの一発は最初から当てる気がなかったんだな?」
「へ?」
驚愕に彩られる表情。
そこから紅苑は自らの問いかけに間違いはないことを確信した。
「当てる気がなかった・・・ってどういうこと?」
「言った通りだ。凪沙には最初からその気なんて無かった、だろう?」
「ちょちょちょ・・・ちょっとお待ちよ
何で私に当てる気がないなんて言い出したわけ?てか私叫んじゃったよね?「外した!」って、なのに」
「寸分違わず狙い目に射ち込めるほどの名手が外すまぐれは考え難い」
「へ・・・、え?」
「さっき射ったコレ」
ちょいと軽く先程突き刺さった針を指差す。
「コレが今刺さっている高さ、最初俺に射ち込まれた高さと全く同じだ」
そう言って針が残る壁のすぐ隣に立つ。
それは彼のちょうど顔の高さに位置していた。
間違いで射ち込まれ、紅苑が受け止めたのとほぼ同じ高さに。
「そ・・・それが何で私が外した理由になるの?」
「最初から奴の頭すれすれを狙ってなければ、二回も俺の顔ぴったりの高さにはこないと思うが?」
「・・・偶然じゃない?」
「だから事の真偽をお前に確認したんだ、俺の考えはあくまで予想だからな」
沈黙。
数秒間、時間が止まったかのように長く感じられる間の後、彼女は深く大きな溜め息を吐いた。
「クーちゃんったら探偵?将来の夢が気になっちゃう」
「さぁな」
小さな嘆息。
けれど顔には僅かに笑みが浮かんでいた。
「仕方ないなぁ、巻き込んだし・・・謝りついでにお話ししますか?」
++++++
相手カワイソス。
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