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紅桃-作戦・命名・疑問-




つまりこういう事か。

先ず杏架という純粋な子供でそのムカつく奴とやらを誘き寄せる。
そこで俺が話しかけて驚かせたら、凪沙がトドメに一発見舞う・・・。


「つまりこういう事か」

「お兄さんそれ二回目よ」


凪沙のツッコミに紅苑は苦い顔を更にしかめる。
なんというか・・・凪沙作この作戦は誰がどう考えても。

「・・・間が抜けるな」
「ちょっと、何か言った?」
「なんのことだ?」


つい口から出てしまった言葉を誤魔化して凪沙からの視線を受け流す。
出会い方もそうだが、この少女の思考の極端さというか発想と実行力に、少々呆れた。
・・・というか本当にそのボウガンを使うらしい辺りが危ない気がする。


「よーし!凪沙さんのためにー頑張ろー!」
「いよっ!その意気よ!頑張ろー!」

「ちょっと待て」


盛り上がる二人に制止をかけると片や不思議そうな視線を。片や不機嫌な表情を向けてくる。


「・・・杏架」
「はい?」

「お前はこの作戦に疑問を抱かないのか?」
「え?ううん、別に」

「・・・・・・」
「二対一ですよお兄さーん、いい加減覚悟を決めちゃいなヨー」


紅苑はやる気のない自分の未来を想像し、小さく嘆息した。




「さーてさて、作戦に取り掛かりましょ〜・・・の前に!皆様に授けたいものが凪沙さんから有りまーす!」

「は?」
「ふに?」


「凪沙ちゃんのドキドキ★野郎ぶっ飛ばし作戦(仮名)」の準備のため店を出た紅苑達だったが、直ぐに言い出しっぺの凪沙が変なことを言い出した。


「授け・・・?ハッ!まさか・・・!」
「何だ?知ってるのか杏架?」

「まさか・・・凪沙さんは女神で作戦実行する私達に伝説の武器を授けてくれる、とか!」
「いやいや、お嬢ちゃん」
「それはない、絶対に」

二人からの否定に瞳を輝かせていた杏架が、落胆し項垂れた。
どうやら相当期待していたらしい。


「なんだぁ・・・」

「いや〜・・・こっちはそんな期待ができちゃう貴女にビックリだわよキョーちゃん」

「・・・?きょー?」


刹那、まるで獲物を捉えた獣の如く瞳を煌めかす凪沙。
その唇からは「ふっふっふ・・・」と怪しげな笑みが溢れ出す。


「くいついてくれるのを待っていたぁ!そう!その通りよ杏架!今日から貴女のあだ名は“キョーちゃん”!今決めたわ!」

「キョー・・・ちゃん!」


再び瞳を輝かせ始める杏架。
待て、お前は何に感動している。


「そしてぇ!紅苑お兄さんにはぁ〜“クーちゃん”!」

「ちゃん・・・!?」
「クーちゃん!」

「そして私は“ナーちゃん”です!よろしくぅ、キャハッ★」
「ナーちゃん!!」


ばちこーん★とポーズまで決める凪沙。パチパチと拍手を始める杏架。
その状況に紅苑は何度目か知らないため息を吐いた。

「さぁ気を取り直していきますか!キョーちゃん!クーちゃん!」

「うん!行こうクーちゃん!」

「・・・・・・杏架」

“紅苑さん”から“クーちゃん”に変わった自分の呼び名
・・・ちゃん付けがとても切なかった。





『・・・本当に来るのか?』
『来る、奴は絶対に』

とある民家の影。
互いに聞こえる程度の小声で言葉を交わす紅苑と凪沙。

二人の視線の先では、杏架がキョロキョロと辺りを見渡している(ちなみに演技)。

客観的に見れば、今二人はどう考えても杏架を狙う変質者そのものだ。
実は行動に移す前に紅苑はそのことを指摘したのだが、不安は見事に杞憂へと。

何でも、今隠れさせてもらっている家の主と凪沙は顔見知りで、つい先ほど隠れる許可をいただいていた。
普通はもらうものではないとツッコミたかったが、相手が即OKを出してくれたため口を挟めなかった。
それだけでなく、凪沙は隠れていることが狙いの人間以外にバレると直ぐに事情説明。するとされた方は、いかにも納得したといった表情で去っていくのだ。

周りの対応から考えると、どうも凪沙の行動は日常茶飯事のようで、次いで誰も凪沙が狙っている人間に対して何も言わないということは・・・見当がついているのか。

今、何の因果かこうして家の影に隠れている俺は正直、訴えたい。

『いつものことなら俺と杏架がいる意味はないんじゃないのか?』

と、だがそんな訴えが頭によぎった瞬間、

『シッ!来たわよ!』

と言う凪沙の声、に意識を切り替え閉口するしかなかった。

影から僅かに覗いてそこにいるであろう杏架に視線を戻す。

確かに視線の先で、初めて見る人間が今にも杏架に話しかけようと近づいているところだった。




++++++
凪沙と杏架がハイテンション。

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