005

わたしが訓練兵になる前、育ての親であった祖父母は生きていた。けれど流行り病により、ふたりはわたしひとりを残して逝ってしまった。卒業試験の直前だったわたしは、ふたりを看取ることもできなかった。
墓参りをしたくても、ウォール・マリアを奪還しなければ、わたしの育った村へは行くことができない。

「何を思っている?」
「ん?」

リコが声を掛けてくる。

今わたしはウォール・ローゼの上に立っている。昔からこの場所から見る夕焼けが好きだった。調査兵団に入ってからも、わたしは時間を見付けてはここへ来ている。

「墓参りに行きたいなって」
「そうか…」

度々ここに来るわたしを、駐屯兵団の皆はまた来たのかとか、調査兵団の連中に苛められてんのかと冷やかす。そんなこの空気が好きで、無意識のうちに息抜きに来ているのかと、自分で気が付いた。

「調査兵団に入ってどれくらいになった?」
「三年だね」
「急に調査兵団に入りたいと言い出した時は、気が狂ったのかと思った」
「ひどいなぁ」

同期であるリコとは、訓練兵団時代からの付き合いだ。わたしが調査兵団行きを決めた時、考え直せと説得してくれていたうちのひとりだが、結局わたしはそれを振り切って薔薇の紋章を脱いだ。

「憧れには近づけたのか?」
「あー…、どうかな」

駐屯兵団時代、壁外調査に向かっていく"彼"の自由の翼に憧れたのも、わたしが調査兵団に入った理由のひとつだった。

「離されないようにするのが、精一杯かな」

夕日が沈んでいく。リコのそうかという言葉に、わたしは頷いた。

そろそろ帰らなければならない。最後に夕日を目に焼き付けて、わたしは立体機動装置に手をかけた。
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