004

(ミカサ的考察)


「今何だって?ジャン」

私の正面に座るエレンが、そのとなりに座るジャンに詰め寄った。かしゃんとジャンのスプーンが皿の上に落ちる。またいつもみたいに喧嘩になりそう。

「いや、だからナマエさんの想い人の話だよ。つーか、掴むな!」

そう言ってエレンの手を振り払うジャン。その弾みでエレンの腕がコップに当たってぐわりと傾いたそれを、咄嗟に支える。あぁ、と私のとなりでアルミンがほっとしたような声を漏らした。

「何でそれ…ジャンが知ってんだ」
「噂だよ。けっこう皆言ってんぞ。お前とナマエさんがそんな話をしてたのを誰かが聞いたって」

エレンが絶望したような顔をする意味がよく分からなかった。
ミカサ知ってた?とアルミンが言う。私は首を振った。

「誰だよ……、俺、内緒だよって…」

エレンが何かぼそぼそ喋ったけど、聞こえなかった。

「で、どんな人なんですか?ナマエさんの想い人って」

ごくりとパンを飲み込んだサシャがエレンに言う。食事に夢中で聞いていないのかと思っていたけど、ちゃんと聞いていたらしい。

「俺も知らねぇよ。つーか、ナマエさんが言ってたのは想い人じゃなくて憧れの人な!」

諦めたような、投げやりな感じでエレンが言う。エレンとナマエさんの間で何かあったのだろうか。少し気になる。


翌日。班員と共に立体機動の訓練をするナマエさんを見掛けた。聞くところによると、元々駐屯兵団だった彼女は立体機動を行う機会がそこまで多くなかった為、調査兵団に入ってからかなり訓練したそうだ。そのかいあってなのか、彼女の動きはものすごく滑らかで無駄がない。

ふと思う。こんなふうに強い彼女のような人が憧れる対象というのは、いったいどんな人なのだろう。
back