002

(ペトラ的考察)


彼女にはいったいどんな言葉が似合うのかと日々考えているけれど、これというものが見付からないでいる。


「おはよ、ペトラ」
「おはようございます、ナマエさん」

廊下ですれ違った彼女は薄手の黒のパーカーを着ていた。きっとこれから朝食を摂ったら、立体機動装置を付けて班員と共に訓練を行うのだろう。
今日のようにパーカーを着ている時もあれば、白や水色のシャツを着ている時もある。けれど首元には決まっていつも小さなシルバーのネックレスが揺れている。

「ペトラはもう訓練?」
「あ、はい」
「がんばってね」
「はい。ナマエさんも」

じゃあね、と結われた髪をふわりと揺らして彼女は歩いていく。あと何年たてば彼女のような"女性"になれるのかな、と思う。


「なぁ、ペトラよ」
「ほんっとやめてくれない?それ」

訓練の休憩中、芝生の上に立て膝で座るオルオが話し掛けてくる。相変わらず兵長の真似らしきものを繰り返す姿は、いっそ哀れに思えてきた。エレンはもう仕方ないけれど、他の新兵には絶対見せたくない。恥ずかしい。

「昨日、聞いちまったんだよ」
「…何を?」

仕方なく話を聞いてあげることにした。聞くまでずっと話し掛けてきそうな気がしたから。

「ナマエさんに想い人がいる」
「はぁ?」

ナマエさんナマエさんと五月蝿いのはいつものことだけど、今何て?想い人?

「それ誰から聞いたの?」
「本人だよ!エレンとの会話で言ってたんだから、間違いねぇよ!」

少し離れたところで、急に名前を叫ばれたエレンが怪訝そうな顔でこっちを見ていた。声が大きい。

「あぁ、畜生誰だよ。あの人に想われるなんて羨まし過ぎるだろ」
「…どうでもいいけど、それ言いふらさないでよ?エレンとの会話盗み聞きしたんでしょ?エレンが喋ったみたいになるじゃない」
「クソ、誰だ。誰なんだよ…」

だめだ、全然聞いてない。
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