001

(エレン的考察)


これは人から聞いた話だが、彼女は駐屯兵団から調査兵団へと移ってきたらしい。
訓練兵団を次席で卒業し駐屯兵団に入った彼女は、入団後も訓練を怠ることなく確実に実力を付けていき、駐屯兵団きっての精鋭と呼ばれるようになったそうだ。そして、21歳の時に自ら志願して調査兵団に入団。何度も壁外調査から生還し、現在は班長という立場についている。視力が物凄く良いらしい彼女は、索敵においてかなり重要な存在なのだという。

俺が知っている彼女の経歴はだいたいこんなものだ。とはいえこの情報の中に、彼女から聞いたものはひとつもない。ほとんどはオルオさんがぺらぺらと教えてくれた。調査兵団に移って来る人は滅多にいないから、その経歴は有名なのは有名らしいが。

あと知っていることというか、俺が彼女を見て分かっていることを言えば、彼女は髪が綺麗だ。色素の薄い茶色の髪で、ハンジさんやサシャと同じように纏めている。でもふたりのように真っ直ぐな髪じゃなくて、なんかくるくるしている。
それから身長。そんなに高くないと思う。ペトラさんと同じくらいか、少し低いくらい。
ああ、それから歳は24だそうだ。これもオルオさんからの情報。何であの人こんなに詳しいんだろう。

けどそういえば、どうして駐屯兵団を辞めて調査兵団に来たのだろうか。その理由はオルオさんも知らないようだったし、他の人からも聞いたことはない。


「ナマエさん」
「ん?」

俺は隣で馬の世話をしているナマエさんに聞いてみることにした。

「ナマエさんはどうして調査兵団に入ったんですか?」

彼女は馬を撫でる手を止め、こちらを向いた。

「外に憧れていたから、かな。壁の外に出て、ずっとずっと遠くまで行ったら、そこにはどんな世界があるんだろうって、小さい頃から思ってたの」
「小さい頃から…ですか?」
「うん。だから調査兵団に入りたかったんだけど、勇気が無くて。…死ぬの、怖くて」

彼女は照れ臭そうに苦笑いした。ひとつに纏めた髪が微かに揺れる。

「でも諦められなかったから」

そう言って再び馬を撫でるナマエさん。その横顔は真剣で、思わず見入ってしまった。

「あと、憧れの人がいるんだよ」

調査兵団にね。と悪戯に笑ったその言葉の意味を理解するのが遅れた。憧れの人…。憧れの人?

「え?…え?」
「みんなには内緒ね、エレン」

そう言って馬小屋から出ていくナマエさん。ゆらゆらとひとつに纏めた色素の薄い茶色が揺れる。

「憧れの…人」

物凄く気になった。
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