虚空と影




いつの間にか2人に置いていかれていた俺は1人で虚しく登校した。学校に着くと既に1時間目が始まっていて、階段を登りながら校庭を覗くと3年生が体育をしていた。先生に見つかるととても面倒なので授業が行われている教室をなるべく避けて、音をたてないよう自分のクラスである3階の一番奥の3-4教室へ向かった。運良く廊下で先生と鉢合わせすることも無く安心して教室の扉を開けると教室にはある女子が1人。クラスメイトの小室珠凛(こむろしゅり)だった。

「み、みみみみみ霙くん!?」

「え、あ、霙だけど。…そんなに驚かなくても」

「あ…えっと・・・ごめんね。お、お、おは、おは、よう」

「…大丈夫か?」

「う、うん大丈夫。大丈夫だよ。全然平気」

そう珠凛は言っているが熱があるんではないかと思うほど顔が真っ赤だった。実際は霙に会って嬉しさと驚きとで動揺しているだけなのだが。霙は本当に大丈夫かと内心心配になりながらも自分の席にバックを置きジャージを取り出した。その様子を見て珠凛の顔がまた一段と赤くなる。

「そ、そっか体育だもんね!きが、着替えなきゃいけないんだよね!あたしそろそろ行くね」

霙に返答の猶予さえ与えず珠凛は逃げるように走って教室を出ていってしまった。気を利かせてくれたんだなと呑気にそんなことを思いながら俺はジャージに着替え始めようとすると、今日2回目の違和感。また何も聞こえない。無音が世界を支配した。生き物の気配すら感じさせない静寂が俺の周りを、この空間を包む。着替えようと持っていたジャージを投げ捨て、隣の教室に行くと先程まで授業で生徒が、先生がいたのに今はどこにも見当たらない。窓の外を見ても人間という人間が誰1人いなかった。教室は机に教科書やノートが乗ったまま、校庭はボールだけが虚しく転がっている。人だけが綺麗にいなくなっていた。

「またかよ…」

自分は疲れているのだろうか。しかし何度教室を見ても校庭を見てもやはり誰もいない。何がどうなっているんだ。

「誰か、誰か…!いないのかよ…!!」

誰でもいい。誰か見つかってくれ。そんな思いで廊下を走り回っていたがどこを探しても残念なことに、誰もいなかった。俺は一度足を止める。

「くそ!」

何で誰もいない。どうして俺だけなんだ。怒りに任せて思いっきり近くの壁を殴った。すると今一番聞きたくない、不吉な音が聞こえた。朝と同じちゃぷんという液体の音。恐る恐る足元を見てみると予想した通り。朝に体験したことと同じようなことが起こっていた。縄状の影がまた足元に絡みついていたのだ。俺は今までに無いほどに顔を青ざめた。これに飲み込まれたら、危ない。何故だか分からないが、俺は本能的にそう感じた。飲み込まれる前に急いで影を振り切ろうとするが、振り切ることができない。むしろ逆効果で動けば動くほど絡まっていく。誰かに助けを求めようとしたが、誰もいないのでどんなに叫ぼうと無駄だった。しかも今の時間は授業中で朝のような偶然が起こる確率など無に等しい。

「こいつ…離れろ!」

縄状の影は足元から俺を取り込むにつれその太さと長さが増していき、ついに俺の頭まで完全に覆った。覆われると目を瞑っているのかいないのか分からない程の闇が視界を覆った。そして俺は影の中に飲み込まれた。俺を飲み込んだ影は突風が起きると、何事も無かったかのように消えていた。それと同時に周りもまた何事も無かったかのように、活気を取り戻したのを俺は知る由もなかった。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -