夕暮れの再会




お粥を食べ終わった後、俺は言われた通り下に行くことにした。お粥の乗った盆を持って部屋を出て、すぐ右側にある階段を下りた。部屋では襖によって遮られてた騒がしい声が下に近付くにつれて大きくなっていく。そして下に着くと、そこは酒場のようだった。各席で各々騒ぎ立てる男達は活気にあふれている。ふと店の入口に目を向けると外は日が傾いているようでオレンジ色に染まっていた。急に着物の袖を引っ張られる。酔った男達だろうかと振り返るとそこには昴がいた。知り合いがいない中、困り果てていた俺は昴の姿を見てほっと一安心した。

「あ、わざわざ持ってきてくれたんだ!霙お兄ちゃんありがとう!」

「いや…。あぁそういえばこのお粥、昴が作ったのか?」

「ううん、違うよ。かなめお姉ちゃんが…あ!かなめお姉ちゃん!」

あれがかなめお姉ちゃんだよ、と昴が俺の袖を引っ張りながら言う。俺も昴の視線が向いているほうに視線を向けるとそこにいたのは、妖との戦いで俺を助けようと必死に戦ってくれたあの少女だった。少女はこちらに気付くのと同時に駆け寄ってきて、俺の肩を思いっきり掴んだ。

「わ、私が!本当は私が、助けなきゃいけなかったのに逆に助けられちゃって、私…その、役立たずで…ごめん、」

少女は涙目になりながら俺を見上げていた。自分だって怪我が酷いはずなのに俺の怪我の心配ばかりして、お前のせいじゃないのに。そんなことないのにむしろ、俺は。

「俺は…お前がいなかったら絶対あの場で死んでた。だから謝る必要なんて、ない。俺こそお前がボロボロになってまで戦ってるときに何も出来なくて…」

「違う、あれは元々私の仕事だから責任を感じる必要なんてなくて、あの…その…ありがとう」

「…あぁ、こちらこそ。ありがと、な」

少女は肩から手を離す。涙は既に止まっており、優しい笑みを零す。俺も少女につられて無意識に笑みが零れた。

「私、千桜かなめ(ちざくらかなめ)。これからよろしくね」

「俺は露木霙。よろしく」

「で、話は終わったか?露木」

急な第三者の声に驚き振り返るとそこには咲夜が立っていた。身長が同じくらいのはずなのにこの圧倒される雰囲気は一体なんなのだろうか。

「露木、とりあえず座れ。あと千桜も暇だろ、付き合え」

「え、あ、はい」

「はーい」

咲夜に催促され俺とかなめは空いているカウンター席に腰を下ろした。すると急に隣に座っていた男性の手が頭に乗せられた。顔を上げようとするが髪がぼさぼさになるほど思いっきり頭を撫でまわされて出来なかった。ふとかなめの方を見るとかなめは苦笑いをしている。

「そろそろその手を離してやれ、鵲」

「おう、悪い悪い」

誰か救いの手を、と思っていた時、咲夜が一言言ってくれたおかげで俺の頭から手が離れる。そしてやっと手の主を見ることができた。俺よりも大きく体つきも良い男性で、その男性の背には男性の身の丈程の斧と腰には俺が火車を倒す際に使った刀が差してあった。

「少年、怪我はどうだ?」

「え、怪我…?大丈夫ですけど…」

「そうか!良かった良かった!」

「なんで怪我のことを…」

「紹介が遅れたな。こいつは鵲阿孫(かささぎあそん)。勿論妖狩り屋で、火車を追ってた時に傷付いた千桜と気を失った貴様を見つけてここまで運んできたんだ」

あの場所に俺とかなめとあとウズメと俺を主様と呼んだ半透明の男女の4人しかいないのに、気を失った俺はどうやってここまで運ばれたのかずっと疑問だった。かなめは傷だらけだったし、半透明の2人は人に入ることはできるが、人に触れることは出来ないようだったからだ。ならどうやって、と思っていたがこの人のおかげだったのか。

「露木霙です。鵲さん、ありがとうございました」

「いいってことよ、よろしくな霙!あと俺のことは阿孫でいいからな。そんな咲夜ちゃんみたいに堅苦しくなくていいから」

そう言って阿孫は豪快に笑いながら、テーブルに置いてあった酒を一気に飲み干した。酔っているわけではなく根が元々このような性格で、かなりの自由人のようだ。そんな阿孫に突き刺さる視線が1つ。

「…鵲、変な呼び方をするなと何度言ったら分かる」

「いいじゃねぇか、ちゃん付け。親しみがこもってて」

「そんな親しみは必要ない」

未だに鋭い視線を向ける咲夜とそれをもろともせずに笑っている阿孫をよそに、カウンター席の中に入る。咲夜はその後すぐに大きく溜め息をついてから、喋り出した。

「露木霙」

3人の視線が俺を向けられる。咲夜は眉をひそめ、かなめは気まずい顔をし、阿孫は笑うのを止めて何かを見定めるように俺を見る。探りを入れるかのような居心地の悪い視線が行き交う。

「露木、貴様は何者だ」






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