畏れと安らぎ




額に感じた冷たさと共に意識が浮上する。今日3度目の起床である。まだ眠気がとれなかったが、ふと体に違和感を感じると急速に俺の脳は覚醒した。体中を支配していた痛みがなくなっており、普通に動けるまでに体は回復していたのだ。まさかあれは夢だったのだろうか、と疑いもしたが体に巻かれている包帯がこれが現実だと知らしめる。とりあえず布団に座るように起き上がると初めて俺は自分が制服でなく着物を着ていることに気付いた。冷えた手拭いが額から布団の上へと落ちる。一人部屋にしては広い畳の部屋には手拭いを濡らす為にある水の入った桶以外何もなく殺風景だった。下の方から騒ぐ声が聞こえたのでここはきっと2階なのだろうと思っていると、どたばたと階段を駆け上がる音が聞こえてきて、その足音はだんだんこの部屋に近づいてきていた。そしてこの部屋の前で止まり、襖が開かれる。足音が軽かったので、もしやと思っていたが案の定10歳くらいの黒に近い茶色の髪の少年だった。ポンチョのようなものを着ていて年相応に見える。起き上がっている俺を見て、純粋な笑みを浮かべた。

「お兄ちゃん起きたんだ!怪我大丈夫?痛くない?」

「怪我…、あぁ大丈夫だ」

「そっか、良かったぁ!あ、お兄ちゃんちょっと待ってて」

少年はそう言って少し興奮気味に部屋を出て行ったが数分とかからぬうちに、お粥の入った鍋を持って戻ってきた。そして少年が部屋に入ってすぐに後ろから黒髪の女性も同じように部屋に入る。女性は足元まである長い髪を頭の下の方で結び、黒を貴重とした服を着ている。右手には煙が出ているキセルを持っていた。

「早い目覚めだな。おい、名は?」

「つ、露木霙…」

「私は如月咲夜(きさらぎさくや)。で、こいつは昴(すばる)」

「よろしくね、霙お兄ちゃん!」

「貴様には話がある。飯食ったら下に来い」

咲夜は名前と用件だけ言うと、部屋から去っていった。俺は思わず息を深く吐く。自分でも知らないうちに呼吸を止めていたようだ。もし少しでも動いたら殺されるようなそんな気がしたから。俺に突き刺さっていた視線はそれほど恐ろしかった。あれが所謂殺気なのだろう。俺はもう一度息を吐く。昴は俺のその様子を見て咲夜に続いて部屋を出ようとした足を戻し、俺の近くに座りこんだ。

「…お兄ちゃんびっくりしたよね。でも咲夜はね、ちょっと言葉遣いが悪いだけで本当は優しいんだよ!だから嫌いにならないであげて!」

俺の咲夜を恐れる態度を見て、咲夜の良さを必死に話す昴の姿は何とも健気だった。俺は分かったよ、と言って頭を撫でる。昴は満足げな顔をして俺を見てから下で待ってるね、と言って部屋から出て行った。それを見送った後、俺はお粥を食べ始めたのだった。






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