仕方ないよ、寂しいんだもん!

※キャラ×文次郎有り



 幼馴染みに恋人が出来た。
 そのことにとやかく言うつもりはない。花よ蝶よと大切に大切に見守ってきた幼馴染みの恋人になった者が、異性ではなく同性であろうとも、幼馴染みが女役であろうとも、幼馴染み――文次郎が幸せならそれでいいと伸一郎は思っている。
 そう、文次郎が幸せなら。つまり幸せでなかったら、伸一郎は躊躇いも無く二人を引き裂いているだろう。
 伸一郎は文次郎の幸せの為なら、どんなことでもしてみせるのだ。

「だから文ちゃん、ちょっと放してくんねえ?」
「バカタレ! 放したらお前あいつ殺しに行くだろうが!」
「大丈夫大丈夫、そこまでしないって」

 ギュウッと腰にしがみつき動きを封じる文次郎に、伸一郎は輝かしい笑みを向けた。心なしか歯が輝いているように見える。

「ちょっと絞めてくるだけだから安心しろ」
「ちっとも安心出来ねえよ!」

 止めてくれ、と懇願する文次郎に、伸一郎は顔をしかめた。畳みに座り胡座をかき、腰にしがみついていた文次郎をそのまま腕の中に収める。
 肩に鼻を寄せ、すうと息を吸う。香る水の香りに体臭、そして――文次郎の恋人の匂い。
 ああ、不愉快だと歯軋りする。

「絶対無理、許さん」
「伸一郎……」
「あの野郎、文ちゃんが俺との約束を蹴ったってのに、文ちゃんを蔑ろにしやがって……!」
「いやだから、急な用事が入っただけだって」
「いーや駄目だ絶対許さない!」

 ダンと握りこぶしを畳みにたたき付ける。
 何故ここまで伸一郎が怒っているか。簡単に言えば、文次郎の恋人が彼との約束を破ったからである。
 久しぶりに出来た休みの日に恋人と逢い引きすることになり、文次郎は顔には出さずとも大層喜んでいた。だと言うのに、当の恋人は急用が出来たと当日にドタキャン。
 しょぼくれた様子で部屋に来た文次郎に、伸一郎の怒りに火がついた。ドンドンと拳を何度もたたき付け、溜まりに溜まった不満を叫ぶ。

「本当は、本当は俺と一緒に鍛練して過ごすはずだったのに! 文ちゃんがどうしてもと言うから! 文ちゃんがあいつを優先したけど我慢してやろうと思っていたけど! 幼馴染みの俺を差し置いて文ちゃんを独占する権利を手に入れたくせしてえぇええ!」
「伸一郎、本音が出てるぞ」
「別れろ文ちゃん! 今すぐあの男と別れるんだ!」
「そっ、それは、嫌だ……」
「畜生可愛い! やっぱあの男ムカつくー!」

 薄らと頬を赤らめ嫌だと首を横に振る文次郎を抱きしめ、伸一郎は血の涙を流す。
 文次郎が幸せならとやかくは言うつもりはない。然し、だからと言って不満がないという訳ではない。
 今までで己を優先していた幼馴染みが、申し訳なさそうにしつつも恋人を優先する態度を見せ。己の言うことに素直に頷いていた幼馴染みが、控え目ながらも反抗するようになり。

「あの野郎俺から文ちゃんを奪いやがってえぇええ!」

 長屋中に響き渡る絶叫に、文次郎は呆れた目をしながら耳を塞いだ。


――――――――
文次郎かわえええええ!!!!
初めて彼氏ができた娘か!!そうか!!ならしょうがないね!!

こきなこさん、すてきなお話ありがとうございましたっ!



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