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ずっと一緒にいよう

※一部年齢操作


はじまりの町マサラタウン。
そこにある自宅でグリーンは暇を持て余していた。遊び相手がいないからだ。祖父は研究所で仕事をしているし、姉のナナミは用事があって出掛けている。そこでグリーンが一人で留守番をしているというわけだ。

「ひまだなー…ねーちゃんはやくかえってこないかなぁ…はやくレッドんとこあそびにいきたいんだけどなぁ…」

リビングの椅子に腰かけて、ぶらぶらと足を揺らしながらテレビのチャンネルを次々と変える。しかし今の時間帯だと子供の興味を引くような番組はやっていない。
このあたりにはレッド以外にグリーンと年の近い子供はいない。ちょこまかと動き回り生意気な口をきくグリーンとおとなしいレッドは対照的な性格に思えるが不思議と仲はよく、いつも一緒に遊んでいた。
大抵は活動的なグリーンがレッドの家に行き、レッドを連れ出すのだがナナミが帰って来るまで家を出ることが出来ない。それゆえ誘いに行くこともできずに家でじっとしているしかなかった。
しかし遊びたい盛りのグリーンには退屈で退屈でしかたがない。
しばらくはテレビのチャンネルをひたすらいじってみていたがそれにも飽きたグリーンはチャンネルをぽいっと投げ出し椅子から降りた。何か面白いものはないかと部屋の中に目を走らせる。机の上や椅子の下、部屋中をぴょこぴょこと駆け回り、テレビの裏を覗いたとき、見たことのない本を発見した。好奇心にかられて手に取ってみると、表紙には白いふわふわのドレスを着た女性と白いタキシードの男性が幸せそうに笑っている絵が描かれていた。装丁からして少女向けの本のようだ。

「ねーちゃんのかな?ひらがなでかいてあるしよんでみよう」

普段はポケモンの本や乗り物の本など男の子向けの本ばかり読んでいるが、することがないため少女向けの本でも何となく面白そうに思えたのだ。
ひょこっと椅子に座りなおしてグリーンはページをめくり読み始めた。

それはよくある話だった。幼馴染の男女が幼いころに結婚の約束をして困難を乗り越えて大人になって結婚する話。まだ幼いグリーンにはわからない表現もあったが主人公の二人がお互いを一番大切に思っていることは理解できた。意外と面白く、わからない言葉は飛ばしながらもグリーンは最後まで読み進めた。そして物語の最後は花嫁が一番好きな人とずっと一緒にいることができる幸せを噛みしめるところで終わりを迎えた。
読み終えてほうっと息をつく。体のこわばりをほぐそうと椅子から下りてグリーンはうーんと伸びをした。そしてそのまま床にぺたんと座り内容を思い返す。

「けっこんっていちばんすきなひととずっといっしょにいれるのか…おれはだれとけっこんしようかな」

一番一緒にいたい人。そう考えたときに一番にうかんできたのは無愛想な幼馴染、レッドの顔だった。ナナミやオーキド博士も好きだけれど、レッドと遊んでいるときが一番楽しい。レッドとずっと一緒にすごす…一緒にポケモンを見に行ったり、絵を描いたり、水遊びをしたり、帰る時間を気にせずに遊ぶことができる。それはとても素敵なことのように思えた。想像すると楽しくなってきてグリーンはぴょんと立ちあがった。

「きめた!おれレッドとけっこんする!はやくレッドとやくそくしてこよう!………ってねーちゃんまだかえってきてなかった…」

がくりと肩を落としまた座り込む。早くレッドに会いに行きたくて仕方がない。待ちきれなくて本を抱えて部屋の中をうろうろと歩き回る。

―まだかなまだかな。いますぐレッドにあいたいな。それでけっこんのやくそくしてずーっといっしょにいるんだ。

部屋を10周はしたころにガチャリと音がして「ただいまー」というナナミの声が聞こえた。
急いで方向転換して駆け足で玄関に向かう。

「おかえりねーちゃん…ってレッド!?」

そこには姉の後ろに隠れるようにしてレッドが立っていた。何だか不安そうな目でこちらを見つめている。不思議に思っているとナナミがにこにこしながら口を開いた。

「うふふふ…レッドくん、グリーンが遊びに来ないからさみしくなってきちゃったんですって。よかったわね、グリーン」
「そうだったのか!なんだよー、もっとはやくきてくれればたくさんあそべたのに!」
「…………いつもグリーンがきてくれるから、まってたらきれくれるかとおもって…でもこなかったから…あそんでくれないのかとおもって…」
「ばかだなー!そんなわけないだろ!」
「……よかった、きらいになったのかとおもった…」

そう言って表情を和らげるレッドにグリーンは嬉しくなって手を引っ張ってナナミの後ろから引っ張り出す。いきなり引っ張られて一瞬びっくりしたようだったが、レッドも嬉しそうにグリーンの方に歩み寄った。幸せそうな二人を見てナナミもますます顔をほころばせる。

「あらあら、二人とも仲良しね」
「うん!なかよし…ってそうだ!」

突然大きな声を出してレッドの方に向き直った弟にナナミはびっくりする。レッドの方もびっくりしているようだ。しかしグリーンはそんなことなど気にせずにレッドに向かって目を輝かせて言った。

「なあレッド!おおきくなったらおれとけっこんしよう!それでずーっといっしょにいよう!」
「けっこん…ってなに?」

唐突に言われたレッドは意味がわからずに首をかしげる。結婚の意味を理解していないらしい。ナナミはグリーンが抱えている本に気付き、納得がいったようだった。

「ほんにかいてあったんだ、いちばんすきなひとどうしはけっこんするんだって、けっこんするとずっといっしょにいることができるんだって!なあレッド、おれとけっこんしよう!」
「…ずっといっしょにいれるの?」
「うん!」
「…じゃあぼくグリーンとけっこんする。ずっといっしょにいたいもん」
「じゃあやくそくな!ゆびきりしようぜ!」

そう言って小さな二人は無邪気にゆびきりを始めた。




***




「…なんてこともあったよね」
「あー…あったあった。あの後確か姉ちゃんが赤と緑のモールで指輪作ってくれてさ、結婚式ごっこやったよな」
「覚えてるよ。ナナミさん、あの頃から器用だったよね」
「さすが姉ちゃんって感じだったよな」

今日はトキワジムもメンテナンスのために休みだった。久しぶりの休日、グリーンとレッドは特にどこかに出かけるわけでもなくグリーンの部屋でごろごろしていた。相棒のピカチュウとイーブイも日向で寄り添って寝ている。そのかわいらしい姿を眺めて癒されていたらレッドが急に昔の話を持ちだしてきたのである。
「懐かしいなー…でも急にどうしたんだ?」
「…何となく、思い出してね…僕たちも大きくなったしさ、結婚しようか?」
「えっ!?」

目を丸くするグリーンにレッドはくすりと笑って手を伸ばす。頬に触れようとしたら顔を真っ赤にしたグリーンに「いきなり何言ってるんだお前は」と頭をはたかれた。

「だって約束したじゃない…」
「でも男同士は結婚できないだろうが!」
「籍を入れようって言ってるんじゃないんだよ、結婚しようって言ってるんだ」
「同じだろうが!」
「違うよ」

真剣な目をしたレッドに見つめられてグリーンはぴたりと動きを止める。澄んだ赤い瞳に吸い込まれそうな気がしてなんだかくらっとした。レッドはグリーンの手を取って語りかけてくる。

「結婚は一番好きな人同士がするものでしょ。ずっと一緒にいるための約束だよ。法律に認められなくてもいいはずだ。入籍とは違うと僕は思ってる。…ねえグリーン、結婚しよう」
「…でもお前、すぐにふらふらどこかに出かけたまま帰ってこないだろうが…ずっと一緒にいるわけじゃないじゃん…」

目をそらしてぼそぼそと呟くグリーンを見て、寂しい思いをさせていたことに気付く。シロガネ山からは降りてきたけれど、やはりレッドはマサラタウンにとどまらない。新しいポケモンとの出会いを求めてあちこちを飛び回っている。しかもその間ほとんど連絡がなく、たまに思いついたように帰ってくるからタチが悪い。おかげでいつもグリーンは心配ばかりしている。レッドが強いことはわかっているし、そうそう危険はないと理解してはいるけれどそれでもやはり心配なのだ。

「ごめんね、グリーン。今度からなるべくこまめに帰ってくるよ」
「あと、連絡ももっとよこせ。ポケギアちゃんと充電しろ」
「…善処する」
「お前なぁ…」

はあっと一つため息をつく。グリーンだってレッドが旅に出ることをやめさせたいわけじゃない。もちろん近くにいてくれた方が嬉しいけれど、レッドのやりたいことまで制限したくはないのだ。でも、寂しくなったときに声すら聞くことができない状況は少しきついものがある。

「2週間に一回は必ず連絡しろよ……寂しいだろうが」
「!!」「それとさっきの答だけどな…いいぜレッド、結婚しよう。離れてても心はずっと一緒だもんな」
「グリーン…!」

感極まってぎゅっとグリーンを抱きしめると、グリーンもレッドの背中に手をまわしてくる。そしてちょっとだけ離れてどちらからともなくキスをした。結婚指輪も誓いの言葉もないけれど、二人にはそれで充分だった。


「ね、グリーン、愛してるよ」
「…俺も愛してる、レッド」


END






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