text | ナノ




植物を育てるような

トウヤたちの通う学校では試験が終わると採点のための休みがある。生徒たちはテスト期間中にたまったストレスを発散するために遊びに出かけて行き、哀れな教員たちは休む間もなく答案用紙と格闘する。もちろん生徒であるトウヤも幼馴染たちと出かけるつもりでいたのだが、ここのところの急激な気温の変化にやられたのか熱が出て寝込む羽目になってしまった。
自室のベッドに横たわってボーっと天井を眺める。朝からずっと寝ているのでもう眠気はどこかに行ってしまっていた。しかし熱はは下がらない。ため息をついて寝返りをうつ。
暇だ。
暇で暇で仕方がない。
しかし、早く治すには寝るのが手っ取り早いのだ。だから退屈でも我慢しなければならない。もう一度寝返りを打ったところでトントン、とノックの音が聞こえて、誰か来たなと返事しようとした瞬間ドアが開く。


「トウヤ、起きてる?」

「トウコ!」


入ってきたのは双子の妹のトウコだった。トウヤとトウコは2卵生双生児だがとてもよく似ている。まだ性差がはっきりしない頃はこっそり入れ替わったりしたものだ。さすがにもうこの年になって入れ替わることは難しいが、それでも2人の顔はよく似ていた。
トウコはベッドに近づいてきてトウヤの顔を覗き込む。


「ノックするようになったのはいいけどさ、返事するまで開けるのは待てよ」
「ああ寝てるかと思って。悪かったわね」
「俺が元気な時も待たないだろ」
「まあいいじゃない。あたしとトウヤの仲なんだし」
「………」


全く反省の色が見えない。これ以上言っても無駄だと判断したトウヤは口をつぐむことにした。目線で促すと、トウコはデスクから椅子を引っ張ってきてベッドの前に座った。


「Nのことなんだけどさ…」
「Nがどうかした?」
「いつあんたと付き合うの?」
「いつって…向こうがその気になったらだろ」
「いつその気になるのよ?」
「向こう次第」


トウコは大きくため息をつくを話にならないというように首を振った。トウヤはそれを見てちょっとムッとする。


「早くものにしないとそのうちトンビに油揚げかっさらわれるわよ」
「大丈夫だろ、たぶん」
「たぶんってあんたねえ…早くくっついてくれないと困るのよ。あたし3か月以内に付き合いだすに3000円賭けてるんだから」
「…いつからそんな賭けを」
「今日から。とにかく!このペースで行くと1年以上に賭けたフウロさんの一人勝ちだわ。あたしの3000円どうしてくれるの?」
「フウロさんまで…」


もう笑うしかない。なんというか、どうして自分の周りにはパワフルな女性しかいないのだろう。トウコもフウロさんも…ベルだってああ見えてしたたかだ(トウヤは知っている。チェレンを落とすために彼女が色々と策を練っていることを)。


「まあ賭けのことは置いといてもさ、もう何年目よ、あんたの片思い。そろそろ花を咲かせてやらないと根っこが腐っちゃうわよ」
「そんな植物みたいに…」
「恋なんて植物みたいなものよ。いつの間にか種がまかれてて、好きって気持ちを吸収してどんどん育っていって、思いが通じたら花を咲かす。そういうものなの」
「思いが通じなかったら?」
「そこで終わり。あとは枯れるのを―気持ちがなくなるのを待つだけね」



そこで終わり―自分の恋は花を咲かせられるのだろうか?Nはトウヤのことを好きでいてくれる。でもそれは友だちとしての好き。一体何才なんだと言いたくなるようなピュアでイノセントな彼は恋愛感情というものをおそらくまだ理解していない。



「思いが通じなかったら枯れるのを待つだけ、か…」
「ってベルが持ってた小説に書いてあった」
「…おい」


自分の言葉じゃなかったのか。非難するような目を受け流してトウコは足を組み直す。


「いいじゃない。トウヤはNのことを好きすぎるんじゃないかってたまに思うのよ。水分過多で今に根っこが腐っちゃうような気がするの」
「枯れるんじゃなくて?」
「根っこが腐るの。お兄様思いの優しい妹ちゃんはお兄様がヤンデレ化しないかどうか心配してるのよ」
「どこに優しい妹がいるんだ、どこに?」
「ここに」


ふんぞり返るトウコにトウヤはまたため息をついた。
でもトウコが言うことも間違っていないかもしれない。今はまだNがトウヤと同じ気持ちを返してくれなくてもいいと思っている。彼のペースで恋を知っていってくれれば。
でももし彼が自分に恋愛感情を向けてくれなかったら?
自分は彼を忘れられるのだろうか?
諦められるのだろうか?
彼を傷つけるような行動をとってしまわないだろうか?




―わからない。そんなこと。




いつの間にかトウコは椅子を片づけていた。そろそろ夕飯の準備を始める時間だ。なんだかんだで家族思いな彼女は母親の手伝いに行くのだろう。

ふと思いついてトウヤは妹を呼びとめた。




「なあトウコ」
「何よトウヤ?」
「お前はさ、好きな人いないの?」
「そうねぇ…」




クスッとトウコはいたずらっぽく笑う。




「カツラ先生とかアデク校長とかいいわよねぇ…」

「マジかよ…」





どうやらお兄様思いの優しい妹はかなり年上の男性がお好みであるらしい。


「レンブ先生やシバさんみたいなガタイのいい人もいいけどやっぱりロマンスグレーっていいわよねえ。うっとりしちゃう。あ、トウヤ、ちゃんと寝るのよ。邪魔して悪かったわね。夕飯になったら起こしてあげるからゆっくり休んでね」


そう言い残してトウコは部屋を出て行った。部屋に沈黙が降りる。トウコと話していたせいかさっきよりも体力を消費したらしく程よい眠気が襲ってきた。
明日、元気になったらNに会いに行こう。今日は会えなかったからちょっとさびしい。
恋が花を咲かせられるかなんてわからないけど、最後まで諦めないでいよう。
そんなことを考えながらトウヤは眠りに身を任せた。


END






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -