愚か者の行く末
グリーンは優しい。
それは僕に対してだけではない。
誰に対してもだ。
グリーンは、優しい。
なんだかんだと言いながら困っている人がいたら助けるし、ポケモンには自己犠牲的な愛を捧げている。
でもグリーンは愛を受け入れない。僕は昔からずっと彼を愛してるのに彼は受け入れない。
「どうして、グリーン。僕は君が大好きなのに…」
「お世辞はいらない。そうじゃなきゃ勘違いだ。お前がオレを好きだなんてあり得ない。信じない。信じられない」
「…信じてくれなくても僕には君だけだよ」
「……言ってろ、ばか」
どうしてグリーンは僕を受け入れてくれないんだろう、なんてことはもう考えるのをやめた。いや、考えないようにした。だって虚しくなるだろ。物心ついてこの方ずっと彼を思っているのに通じない。とても哀しい。悲しい。だから僕はただ、伝えるだけで満足だと思い込もうとした。
でもね、そろそろ限界なんだ。君を僕のものにしたい。君に恋い焦がれる時間が長すぎて、僕の純粋な心は歪んでしまったみたいだ。それを自覚しているあたり僕はたちが悪いと思う。でもね、グリーン、君が悪いんだよ。君が僕を惑わせたから。
「…グリーン」
「ああレッド。少し待ってくれ。こいつの手当てが終わってないんだ」
グリーンの手元には傷ついたポッポ。オニスズメにやられたんだろう、つつかれたような傷がある。そいつはグリーンの腕の中で苦しそうに息をしていた。グリーンの慈愛に満ちた目が注がれている。……僕はそんな目で見つめて貰ったことないのに。だっていつも彼は僕を見るとき……
「……グリーン…」
「よしよし、もう大丈夫だからな、ほら、1日休めばきっと良くなるぞ」
「ポー…」
「ははっ、お前なつっこいな」
グリーンの手に刷り寄るポッポに殺意が湧く。僕だってグリーンに甘えたいのに。ずるい。ずるい。ポッポが妬ましい。ポケモンに焼きもち焼くなんてバカみたいだと思うかな。でも僕は本気で悔しかった。グリーン、グリーン、僕のグリーン。僕だけのものになってよグリーン…
「……グリーン…」
「ん、ああレッド。何か用か」
視線はポッポに向けたまま喋るグリーンにイライラする。何で僕の方を見てくれないの。僕よりポッポが大事なの。
「……愛してる。僕のものになって」
「…またそれか。その冗談は聞きあきたよ。用がないなら帰れって。オレもけっこう忙しいんだからさ」
相変わらず僕の方に視線はこない。聖母のような顔つきでポッポを撫でている。ねえ、こっちを向いてよ、なんて念じてみても通じる訳がない。
無性に悲しくなってきた。衝動に任せてグリーンを引き寄せ口付ける。一瞬驚いたように目を見開いた彼。ああ、可愛いね。舌を差し込もうとしたところで思い切り突き飛ばされた。バランスを崩して床に倒れ込む。見上げると心底軽蔑したような目とぶつかった。
「いきなりなにするのさ」
「それはこっちの台詞だ…嫌がらせがしたいなら帰れよ」
「嫌がらせ、ねぇ…」
「…それ以外に何がある?」
やっぱりグリーンには通じない、届かない。哀しいな。悔しいな。グリーンのせいで僕は罪を犯さなきゃならなくなっちゃった。
ズボンのポケットからソレを出す。電源を入れるとジジッと音がして青白いスパークが生まれる。それを彼の首筋に……
バチッ
くず折れる彼の身体を優しく受け止める。力を失った身体は暖かくてぐにゃりとしていた。閉じた瞼に口付けを落とす。
「グリーンがいけないんだからね…僕を愛さないから」
そう。グリーンが受け入れてくれれば僕はこんなことしなくてすんだのに…。
グリーンの体を運ぼうとしたらポッポが騒ぎ出した。恩人の危機を感じ取ったようだ。中々賢いポケモンだ。うまく育てることができるならきっと将来強いピジョットになるだろう。
それをグリーンが見届けることはもう叶わないけど。
「悪いね、グリーンは貰って逝くよ」
「ポ〜ッ!ポポッポ〜ッ!」
「………黙れ」
睨み付けるとポッポはピタリと動きを止めた。怯えたように縮こまっている。
「…賢い子は好きだよ」
グリーンは賢くなくても好きだけど。僕の愛を拒むなんて愚か者だ。だからこんなことになっちゃうんだよ、グリーン。君は本当にバカだ。そんなところも愛しいけれど……
いけない、早く移動しなければ。誰も気付かないうちに早く…
さあ、一緒に眠ろう。
真っ白な雪の下で。
END