text | ナノ




ナツキくんの一夜の過ち

目が覚めたら知らない部屋に裸で寝ていた。
ここはどこだろうとぼんやりした頭で考える。太陽が昇りきっていないせいか部屋の中はまだうす暗い。とにかく明かりを確保しようと体を動かしたところで自分以外にベッドで寝ている人物がいることに気がつく。もしや記憶のない間に女の子でもナンパしてしまったのだろうか。人生はじめてのナンパの記憶がなくしかも床を共にしてしまったなんて。自己嫌悪しつつもどんな女の子が隣にいるのかとドキドキしながら布団をめくる。

そこに寝ていたのは全裸のやまおとこだった。

「−−−−−−!!」

声にならない悲鳴をあげてナツキはベッドから転げ落ちしたたかに頭を打ち付けた。と、同時にどうして自分がここにいるのか思い出す。

***

昨日ナツキはライモンシティの観覧車に向かった。以前ここで出会ったトウコというトレーナーにまた会いたいと思ったからである。ナツキはエリートトレーナーである。それ故自分の実力に少しばかりの自信を持っていたがトウコはそんなナツキのプライドなど粉々にしてしまうほどの強さを持っていた。しかもその後一緒に乗った観覧車でナツキは高所恐怖症であるという弱みを彼女にさらしてしまうこととなる。観覧車を降りた後強がりを言ったナツキに対してトウコはにこりと笑い、「また一緒に乗ろうね」と言ってくれたのだった。その瞬間ナツキは頭上で鐘が鳴り響く音を聞いた気がした。恋に落ちたのである。
さて、そんなこんなでトウコにまた会うためにナツキは観覧車前にやってきた。なんとなく、ここにいれば会える気がしたのだ。しかし期待に反してトウコはそこにいなかった。落胆し、帰ろうとしたところで野太い声に呼びとめられる。

「おおい、待ちたまえそこの少年…いや、青年か」

「はあ、僕ですか」

振り向くとそこには屈強な身体のやまおとこが立っていた。まさにガチムチ、といった肉体にエリートで頭脳派のナツキは身構える。こういったタイプとはあまり関わったことがないのだ。
やまおとこはナツミと名乗り、ポケモンバトルを挑んできた。ポケモンならば断る理由はない。ナツキは二つ返事で引き受けた。
そこまでは良かった、良かったのだ。しかしここからがナツキの悪夢の始まりだった。ポケモンバトルの後、ナツミが観覧車に誘ってきたのだ。可愛い女のことならともかく、ナツミのようなむさいやまおとことは乗りたくない。しかしなんだかんだと理由をつけて帰ろうとするナツキに対し、ナツミは「なんだァ青年、高いところが怖いのかァ」と言ったのだ。これが負けず嫌いなナツキの心に火をつけた。思い返せば素直に認めてさっさと逃げ帰れば良かったのだがすでに後の祭りである。そしてナツキはナツミと共に観覧車に乗りこんだのだった。
観覧車に乗ってしばらくはナツミも大人しかった。しかし高度が高くなっていくにつれて血の気が引いていき、縮こまるナツキを見ていい獲物と思ったのか次第に密着度が上がっていった。さらに明らかに性的な意味を含んだ言葉や目線が増えてくる。
高所に対する恐怖とやまおとこに対する恐怖、さらにやまおとこが発する熱気で観覧車の中はむしむしとしている。

「ハァハァ……ところで青年、恋人とかいないのか」

やけに興奮したナツミの顔を最後に、ナツキの記憶は一度そこで途切れた。

気がついたらナツキはどこかのホテルの一室で服を脱がされていた。ハアハアという荒い息遣いが頭上の方から聞こえる。そして今まで経験したことのない感覚……

「おお、青年、気がついたかァ」

その瞬間、ナツキは再び意識を手放した。

***

「ああああああ僕は、僕は、うわああああ……」

全てを思い出し、何が起こったのかを理解してナツキは嫌悪感に苛まれる。やまおとこを一夜を共にしてしまった。記念すべき脱童貞をやまおとこで果たしてしまった。そのショックをナツキは一生忘れないだろう。ショックのあまり涙すら浮かんでくる。

「うううう……はじめては海の見えるホテルで将来を誓い合った人と共にと決めていたののに……おしまいだ……僕の人生おしまいだ……」

床に突っ伏して打ちひしがれているとのそりと背後で何かが動く気配がした。確認するまでもない、ここにいるのはナツキ以外には一人しかいない。
その一人はむくりとベッドから起き上がると一つ伸びをし、隣に寝ていたはずの人物がいないことを見つけて不思議そうな顔をした。しかしナツキが全裸で床に突っ伏しているのを見つけてにやりといやらしい笑みを浮かべる。

「ハハハハ、少年…いや、君の年なら青年と呼ぶべきかな?昨日は善かったぞォ…君のイチモツは最高だった…」

うっとりと夢見心地なやまおとこに熱っぽい目を向けられナツキは戦慄する。これは、これはヤバい、一刻も早くここから逃げ出さなくては……

「青年、起きぬけのイッパツをやろうじゃないかァ」

「う、わ、うわあああああああああああああ誰か助けてえええええええええ!!!!」

後にナツキはこれ以上怖い経験はなかったと言い、高所恐怖症を克服することとなる。



END






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -