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トウヤくんの観覧車デート

気温も高く、晴れ渡ったある夏の日、トウヤはライモンシティの観覧車に乗っていた。この観覧車は二人乗り専用なのでもちろん一人ではない。今回の同乗者は細い目に口の回りを覆う立派なヒゲを持ち、屈強な身体つきのやまおとこであった。
何故こいつと観覧車になど乗る羽目になったのかトウヤはずっと考え続けている。先ほどからやまおとこが何か気持ち悪いことを言っている気がするが全て適当に返事を返す。とにかく無事にこの空間から帰りたい、トウヤの心はそれでいっぱいだった。
なるべく目を合わせないように下を向くトウヤの目を覗き込むように身体をかがめながらやまおとこは語りかけてくることをやめない。どんなにそっけない返事をしてもめげないやまおとこにトウヤは疲れていた。

「時に少年、恋人とかいるのか」

ついに来た!と思いながらトウヤは考えていた通りの答えを返す。

「ええ、いますよ可愛い女の子が。すっげー可愛い彼女がいます」

そのまま自分の彼女がいかに可愛いかを普段のトウヤを知る人が見たら驚くような勢いで語り出す。ちなみにトウヤには恋人はいない。語っているのは対やまおとこ用にこの5分ほどで考え出したバーチャル彼女である。

「ハハハハ!そうかァ…少年はマセてるなァ…」

やまおとこはトウヤのマシンガントークを大きな笑い声で遮る。そしてそのまま爆弾発言を落とした。

「女の子もいいかもしれんが男も悪くないんだが、どうだね?」

「えっ、いやあのおれそんな趣味ないんで…」

「ハハハハ。まあまあいいじゃないか少年、ここで会い、ポケモンバトルをし、観覧車に乗ったのも何かの縁、ちょっとばかり深い突き合いをしようじゃないか。なぁに、怖がることはない…わしはネコだからなァ…」

ちょっと顔を赤らめてしなを作って言ってみせたやまおとこにざわりと一瞬にして全身の毛が逆立つ。掘られない分マシかもしれないがこのオヤジに大切なムスコを突っ込みたくはない。しかしここでトウヤは大事なことを思い出す。

「そうだ!オレ男にはたたないんで…」

無理です。そう続けようとしたがやまおとこがポケットから取り出したものを見て凍りつく。

「大丈夫さ少年。この媚薬は副作用がないから安心するといい」

「いや全然安心できないですほんとに心の底から遠慮したいんであの聞いてくださいお願いしますいやちょっと顔近付けんなよなにすんだ止めろって言ってんだろおい止め………ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!!」



***


「お疲れさまでしたーっ」

観覧車担当の職員はいつもの通り、大きく明るい声で客に声をかけて扉をあける。彼は降りてきた客の笑顔を見ることが大好きだった。
しかし今回降りてきたのはやけに機嫌のいいおっさんとまるで燃え尽きたかのように生気のない少年だった。少年は立ち上がる力がないのかおっさんに引きずられるようにして観覧車から降りてきた。思わず「大丈夫ですか?」と声をかけるとおっさんの方が「ハハハハ!大丈夫さ」と返事をした。お前に聞いてねえよ、と思ったもののそれ以上突っ込むのもはばかられたので職員はそこでひくことにした。一瞬少年に恨めしそうな目を向けられた気もするが気のせいだろう。
観覧車前に来たところでトウヤはようやく自力で立てるようになった。やまおとこの腕を振り払い距離をとる。しかしやまおとこはトウヤのそんなそぶりを全く気にせず上機嫌で話しかけてくる。

「少年、なかなか良かったぞォ…わしは夏の間ならいつでもここにいる。また会おうじゃないか」

「…………遠慮シマス」

「ハハハハ!少年は恥ずかしがりやだなァ」

「…………」

豪快に笑うやまおとこに対してトウヤの目は死んでいた。一刻も早くこの場から逃げ出したい。

「おっと、わしはそろそろ行かねばならない。さらばだ少年、また会う暇で……っと、そうだ、少年、一つ聞きたいことがあったのだが」

トウヤの願いが通じたのか一度踵を返したものの、再びやまおとこはトウヤに向き直った。早くやまおとこに離れてもらいたいので「なんすかもう早くしろよ」と投げやりに答える。

「少年、もしかして童貞だったのか?」

「早く去れこの変態カマジジイ!!!」

夏の澄みきった空にトウヤの絶叫が響き渡った。


END






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