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しあわせまんぷく計画

18歳になってレッドとグリーンは同棲をはじめた。相変わらずトキワジムリーダーを務めつつ、祖父の後を継いでポケモンの生態研究も行うようになったグリーンと、シロガネ山から降りて来て再びチャンピオンになり、現在リーグに努めているレッド、二人とも多忙で中々会えないことが多かった。そこで、それなら一緒に住めば家で顔を合わせる機会が増えるし、と同棲を始めたのだ。
最初のうちは衝突も多かった。というか家事の出来ないレッドに対してグリーンが腹を立てることが多かった。元々世話焼きなグリーンだが、研究とリーダーの仕事、両方をこなしつつ家事まで一手に引き受けるのはきつかったのである。しかし地道にレッドに家事を仕込み、レッドも一通りの家事ができるようになると衝突も減少した。今では二人で分担して家事を行っている。

今日はたまたま二人の休日が重なり、居間で何をするわけでもなくごろごろとしていた。ソファに腰掛けて本を読むグリーンに対し、レッドは床に敷かれたカーペットの上でピカチュウと戯れている。時刻は11時半、もうすぐお昼の支度をしなくてはならない。

「ねえグリーン、今日のお昼どうする?」

「んー、昼飯なあ。何か食べたいものあるか?」

「特にないなあ。グリーンは?」

「俺も特にない……冷蔵庫の中、見てみるか」

本にしおりを挟んでローテーブルの上に置くとグリーンは立ち上がってキッチンへ向かい、レッドもその後を追う。

「えーと、今すぐ食わないとヤバいもんはないな。野菜は常備してるもの以外はピーマンとホウレンソウ、肉ならベーコンとハムがあるけど」

「あ、待って。こないだのハンバーグ種、冷凍してまだ残ってなかった?」

「そういえばそうだな。そろそろ食わないとヤバいか」

「だね。じゃあ今日はあれにしようよ」

「お前ほんと好きだな」

「いいじゃん。おいしいんだからさ」

二人で笑いあって、必要な材料を冷蔵庫から出して調理台の上に置く。レッドが大きな鍋とフライパンを用意しているうちにグリーンが冷蔵庫の側の箱の中から玉ねぎを出してくる。

「ほい、レッド。よろしくな」

「ちょっとちょっと!今日はグリーンが玉ねぎ担当じゃないの?」

「だって俺この前ハンバーグの時にみじん切りしただろ。目ぇ真っ赤になってただろ」

「僕だって昨日長いもすったけど。すごく手がかゆかったんだけど」

「玉ねぎと長いもは別ですー」

「ちぇっ……仕方ないな。ほら、貸してよ」

レッドはグリーンから玉ねぎを受け取って皮をむき、まな板の上に乗せて半分にした後薄くスライスしていく。一方グリーンは大きな鍋に水と塩を入れて火にかけた後、解凍したハンバーグの種をスプーンを使って器用に一口大に丸めていく。

「そういえばこれってにんにく入れたっけ」

「入れなくてもまあイケるけど入れた方がウマいよなあ」

「……やっぱり僕が切るわけ?」

「だって包丁持ってんのお前じゃん」

「はあ……はいはい。手に匂いが染みつくからあんまり好きじゃないんだよな」

レッドはため息をつきながらも冷蔵庫からにんにくを出して来て一片だけをみじん切りにし、小さな器に入れるとグリーンに渡す。フライパンにオリーブオイルをひいて先ほど丸めたハンバーグ種を転がしながら焼いて外側を固めたグリーンはバットの上にそれをあけるとオリーブオイルを少し足してにんにくを炒め、香りが立ってきたところで玉ねぎを投入し、玉ねぎがしんなりしてきたらトマト缶とトマトペースト、水を入れて、ハンバーグ種を再び戻して煮込み始める。そして一段落ついたグリーンがレッドの方を見ると、レッドは真剣な顔をしてニンジンと格闘していた。

「何してんだレッド?」

「サラダ用のニンジン切ってる……どう?結構細く切れたと思わない?」

「おー。お前にしちゃあ細く切れたじゃん」

「まあね。自信作だよ」

「バーカ、それは完成した料理見て言えよ」

「それもそうだね。あとパセリも刻む?」

「この前パセリは使い切らなかったか?」

「いや、まだ少し残ってるよ」

「じゃあお願い」

「はいはい」

「はいは一回!」

「はーい!……ふふっ、グリーン、お母さんみたいだよ」

微妙な顔をしているグリーンににやりと笑みを見せ、レッドはパスタストッカーから二人分のスパゲッティを出し、沸騰した鍋の中に投入する。キッチンタイマーをセットしてグリーンに火加減を任せるとパセリを刻む作業に戻る。細かく切ったパセリが手にはりつく感触が気持ち悪くてレッドは眉をよせた。この料理は包丁を持つ方が大変ではないかとグリーンに抗議の目線を向けたらお湯がぐらぐら煮えたぎる鍋とソースがふつふつと湯気をたてるフライパンに囲まれて暑そうにしていた。シロガネ山にこもっていたレッドにとって暑さは鬼門だ。包丁を使う方で良かったと安堵の息をついて一気に残りのパセリを刻む。
そうこうしているうちにキッチンタイマーがピピピと音をあげ、パスタの出来上がりを知らせた。グリーンはパスタトングを使ってパスタを器用にお湯から掬い上げ、フライパンにうつしてソースと混ぜ合わせる。

「おいレッド」

「わかってる」

以心伝心。グリーンの意図をくんだレッドは食器棚から赤と緑のラインの入ったパスタ皿を取り出す。二人が同棲を始めたときにグリーンの姉のナナミが「赤と緑のラインなんてあなたたちのために作られたみたいね」とプレゼントしてくれた食器類の中の一つだ。

「僕は大盛りね」

「バーカ、俺も大盛りだって」

「グリーンのより肉多めでお願い」

「わかった。肉少なめな」

「グリーンのいじわる!」

ぎゃあぎゃあと軽口を叩きながらレッドの用意した皿にパスタと具を盛り付ける。ミートボールスパゲティの出来上がりだ。レッドの方も先ほど切ったにんじんとレタスをサラダボウルに盛り付ける。
これに添えるため冷蔵庫からパルメザンチーズとタバスコ、フレンチドレッシングを用意して食卓の上に置き、グラスにアイスコーヒーを注げば今日の昼食は完成だ。

「うん、なかなか良い出来だな」

「そんなことより早く食べようよ」

皿とグラスを美しく食卓にセッティングし、一人悦に入るグリーンをせっついて席に座らせ、二人で手を合わせる。同棲を始めたときに二人で決めたルールの一つだ。おいしくごはんを食べるための最低限のルール。

「「いただきます」」

今日も二人で他愛ない話をしながらレッドとグリーンは食卓を囲む。好きな人と食事をするという幸せを感じながら。


END






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