アリスとうさぎのひみつのお茶会
※赤緑♀+主♂N♀前提
ぽかぽかとあたたかい小春日和。
Nとグリーンはオーキド研究所の庭で二人きりのお茶会を開いていた。
オーキド博士は学会の発表があり出かけている。ナナミもコンテストに参加するため家を空け、博士の助手も発表についていかなければならなかったため丁度ジムが定休日だったグリーンが留守番を買って出たのだ。そこにカントーに遊びに来たと、Nとその恋人であるトウヤから連絡が入ったためここに招いたのである。
Nとは恋人であるレッドと共にイッシュ地方に旅行に行った時に知り合った。その時Nの恋人であるトウヤとも仲良くなり、以来連絡を取り合っている。
レッドとトウヤは仲が悪いらしく顔を合わせてはいつもケンカしている。そして今回も言い争いが発展し、研究所の広大な庭の一角でバトルをしている。いつもならそれを応援しに行くけれど、今回は遠慮した。せっかく来てくれたNとゆっくり話したかったのもあるし、Nがカントーのポケモンにとても興味を持っている様子だったからだ。
庭に設置されたテーブルの上には陶器のティーポットにそろいのティーカップ、それからハイティ―スタンド。3段あるうちの一番下にはきゅうりとたまごのサンドイッチ、二段目には焼きたてのプレーンスコーンとたっぷりのクロテッドクリームとブルーベリージャム、一番上にはチーズケーキといちごのタルトというブリティッシュスタイルのアフタヌーンティーだ。もちろん全てグリーンの手作りである。
マナー通りに一番下のプレートに手を伸ばし、たまごのサンドイッチを一口食べたNはおいしいとにっこりほほ笑んだ。かわいらしい笑顔を見てグリーンの顔にもほほ笑みが浮かぶ。自分の作ったものをおいしいと言ってもらえるのは幸せなことだ。
「たくさん作ったから遠慮しないで食べろよ。あいつらの分も別にとってあるから」
「ありがとう。グリーンはすごいね。ボクはあまり料理ができないんだ」
トウヤのママに少しずつ教わってはいるんだけどね、まだまだトウヤの方が料理は上手なんだ。
ちょっと困ったようにNは笑い、ぱくりとまた一口、サンドイッチを口にした。それを見ながらグリーンもきゅうりのサンドイッチを口にする。マヨネーズの塩気とときゅうりの食感がいい感じだ。
「初めから何でも上手くできるやつはいないだろ。オレもはじめてつくった卵焼きはしょっぱくて焦げててちっともおいしくなかった。これから上達していけばいいんじゃないか」
「うん、トウヤもそう言ってくれる。でもやっぱり好きな人にはおいしいものを食べてもらいたいでしょう?レッドは幸せだね。だってこんなにおいしいものを食べさせてもらえるんだもの」
「……だと、いいな」
「ふふっ、きっと幸せだよ」
照れたようにそっぽを向くグリーンが可愛い。耳まで真っ赤になっている。
ああ、家庭的な女の子っていいな。ボクはちっともそういうことが得意じゃないから。
プラズマ団の王として女神たちに身の回りの全てのことを任せてきたNは家事に触れたことがなかった。掃除も洗濯も炊事も気がつけば誰かがやってくれている生活が普通だった。だからトウヤと付き合い始めて、トウヤの家に行った時、トウヤの母親が料理を作る姿を見てなるほどこうして食べ物は作られているのかと奇妙に納得した記憶がある。
そんなことを思い出しているうちに一番下の皿は空になっていた。香りのいい紅茶を飲み干すとすかさずグリーンがおかわりをついでくれる。それにありがとうと声をかけるとどういたしましてと返してくれた。そんなことが何故だかひどく愛おしい。
「どうしたんだ、じっと見つめて。俺の顔に何かついてる?」
「ううん、何でもない。ね、スコーンも食べていい?」
「ああもちろん。スコーン食べたらケーキも食べてくれよ?自信作なんだから」
「それじゃあ絶対に食べなきゃね。グリーンの作るお菓子はおいしいからたくさん食べすぎて夕飯が食べれなくなっちゃいそう」
「それは困るな。夕飯もちゃんと用意するつもりなんだから」
「夕飯も作ってくれるの?」
「もちろん!腕によりかけて作るから楽しみにしてろよ?」
それはたのしみだね、と返してスコーンを手に取る。まだほんのりとあたたかい。手を使って真ん中から二つに割り、とろりとしたブルーベリージャムをかける。グリーンの方を見るとクロテッドクリームをつけた上にジャムを乗せていた。
自分もああすれば良かったかなあ、もう半分はそうしよう。
食べようと口を開いたところで足元に何かが触れるのを感じ、Nはうひゃあと声を出して驚いてスコーンをとり落とす。幸い皿の上に落ちたので食べられそうだがジャムが落ちた衝撃で少し飛び散ってしまった。机の下をのぞくとポケモンが一匹、じっとNを見つめていた。茶色の体毛に首周りのふわふわとした白い毛、ピンと伸びた二つの耳、イッシュでは見たことのないポケモンだ。
「N、どうし……あ、イーブイ」
「イーブイ?この子のこと?」
「うん、そう。オレのポケモンだよ」
おいで、イーブイ。
グリーンがそう声をかけるとイーブイはブイッと嬉しそうに鳴いて膝の上に飛び乗った。グリーンがまだ何もついていないスコーンを差し出すと嬉しそうに食べている。
「イッシュにはいないだろ、こいつ」
「うん、はじめてみた。あとでお話したいなあ」
もしゃもしゃとスコーンを咀嚼し終えたイーブイはグリーンの膝から飛び降りて、今度はNの膝に飛び乗った。そっと手を伸ばすとブイブイと鳴いて体を摺り寄せてくる。
「へえ、そいつあんまり俺以外に懐かないのに珍しいな……何て言ってる?」
「ちょっと待って……うん……へえ、そうなんだ……ああ、確かにね……ふふふっ……ああ、わかったよ……ねえグリーン」
「何?何だって?」
きらきらと目を輝かせてイーブイの言葉を伝えてもらえるのを待っているグリーン。柔らかそうな茶色の髪と、宝石みたいな緑の瞳が太陽に照らされてきらきらと輝いている。ああ、やっぱりかわいいな。なるほど確かに、これならわかる。
「レッドといつもちゅうしててずるいってさ」
「なっ!そ、そんなにたくさんしてねえし!イーブイお前何言ってるんだよ!」
慌てるグリーンを横目にイーブイはブイブイと楽しそうに話を続ける。グリーンには何を言っているのかわからないけど、Nの相槌を聞いてレッドとの生活について話していることがわかった。しかもどうやらかなり赤裸々に語ってしまっているようで。
「イーブイストップ!!ストップ!Nもこれ以上聞いちゃだめ!」
「いいじゃない。ボクは楽しいよ、ねえ、イーブイ」
「ブイー!」
ぽかぽかとあたたかい昼下がり。
二人の恋人がバトルのあとの殴り合いでボロボロになって帰ってくるまで、女の子だけのお茶会はまだまだ続く。
END
to窓ちゃん(とりあえず。)
お誕生日おめでとう!!