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こんなにも君が好きなのに


「っつ…グリーン…いくよ…」
「あ、あ、レッド、うあっ…!」


ぐっと腰を進めてグリーンの中に欲望を放つ。
同時に腹に液体が飛び散る感覚。ああ、グリーンもイったんだ。
愛だとか恋だとか、そういうものをはさまない、欲望を吐き出すためだけの行為。
それでもいいと思っていたのに、終わった後はなんだかとてもむなしい気持ちになる。
グリーンの体内に収まっていた体の一部を引き抜いて、事後処理を始める。
好き勝手させてもらってるから、なるべく負担をかけたくないんだ。
そんなこと思うならしなければいい話だけど、ダメだ。我慢できない。
きっとこの体だけの関係すら終わってしまったらグリーンは僕に会ってくれなくなってしまう。それは耐えられないことだった。



一通り処理を終わらせて、気を失ってしまったグリーンを見つめる。
頬には涙の跡。悲しくて泣いたのかな。


「君はきっと僕のこと、恨んでいるだろうね」


グリーンが起きないのをいいことに、くちびるとくちびるを触れ合わせる。
はじめにダメだと言われた行為。
でもさ、いいじゃない。どうせこれだって初めてじゃないんでしょ。
そう思うとむかむかが止まらなくなってきた。
悔しい気持ちをぶつけるように、何度も何度もキスを繰り返す。


「グリーン…」


ねえどうして。どうしてきみは僕を好きになってくれなかったんだろう。
何で通りすがりの男と一緒に寝たりしたの?
僕は君のことがこんなに好きなのに…



***



最初にグリーンのことが好きだと気がついたのはいつだっただろう。少なくとも初恋ではないことは確かだ。僕の初恋はナナミさんだったから。仕方ないじゃない。近くにきれいなおねえさんがいたらそっちを好きになるだろう。僕は元々男が好きなわけではないんだし。
でもいつの間にかグリーンのことが好きになってた。
いつからかは明確にはわからない。でもきっと、きっかけの一つとなったのは旅の途中でシオンタウンで会ったとき。泣きそうな顔をしながら相変わらずの上から目線で突っかかってくるグリーンに、何故か僕はときめいてしまったのだ。

幼なじみで、ライバルで、親友で、男であるグリーンに。

それはグリーンに対しての裏切りのように思えた。
ずっと一緒にいて、友だちだと思っていたはずの僕からそんな気持ちを向けられていると知ったらグリーンはどう思うだろう。
軽蔑する?嫌いになる?そんなのは嫌だ。この気持ちは絶対に隠し通さなければならない。グリーンとずっと一緒にいるために。

でも気持ちを抑えるのはだんだん難しくなっていく。
旅先でグリーンに会うたび胸が高鳴って、とても嬉しいのに苦しくなる。
もっとグリーンに近づきたい。触れたい。キス、したい。
好きだ。僕はグリーンが好き。

でも僕がそんなこと考えてるなんて知らないグリーンは無邪気にバトルを挑んでくる。
そのうち気持ちを押し隠すのに限界を感じるようになった僕はチャンピオン戦の次の日、グリーンから逃れるように誰にも行き先を告げずマサラタウンを後にした。


そしてシロガネ山に腰を落ち着けて3年、会わなければこの気持ちも次第になくなるだろうと思っていたのとは裏腹に僕の中でグリーンを想う気持ちは増していく。

「どうすればいいんだろうね、ピカチュウ。これじゃいつまでたってもマサラに帰れない」
「ぴぃか、ぴかっちゅ!」
「…帰るつもりないだろって?」
「ぴかっ」
「一応、僕に勝てる人が現れたら山を降りるつもりではいるんだけど」
「ぴっかーぴかちゅぴぴかちゅちゅ!」
「ああ、うん、そうだね、山を降りるのと帰るのは違うね…薬とか買いに今も降りてはいるしね…」

わかればよろしいというようにぴかっと一声鳴いて肩に乗ってくるピカチュウ。
ごめんね、寒い思いをさせて。これは僕のわがままだ。誰か、僕より強い人が現れるまでこの山を降りない。それは頂点としての意地に見せかけて、臆病な僕が故郷に帰らないための言い訳なのかもしれなかった。



***



それからしばらくして僕はグリーンと再会する。
コトネとヒビキが僕の居場所を教えたようだ。どうやら僕の知らないうちにグリーンはトキワジムのリーダーに就任していたらしい。久しぶりに会ったグリーンは昔と同じようで違っていた。のびた身長、シャープな顔立ち、しっかりとした、大人に移行する途中の、男と少年の間の体。

「ははっ…久しぶりだな、レッド、こんなとこにいたんだなぁ…」
「グリーン…」

どうして来てしまったの。僕は、僕は君と会いたくないからここにいるのに。君を傷つけたくないから…君との関係を壊したくないから…

そんな僕の気持ちに気付かずに、グリーンは度々食料とか防寒具とかをもって訪ねてくるようになる。
グリーンと洞窟で二人きり。
それはグリーンに対して恋心…というかこの頃にはもう欲望を抱いていた僕にとって苦しいひと時だったけど同時に嬉しい時でもあった。好きな人と一緒にいられることがこんなにも嬉しいことだなんて思っていなかった。ここにいる間はグリーンを独占できる。グリーンは僕のことしか見ていない。それはとても素敵なことのように思えた。想いを伝えられなくても、これだけで少しは報われたような気になることもあった。心のそこでくすぶっている欲望にはふたをして見ないふりをすることにして、僕はグリーンに接していた。



でもある日。
たまたまヤマブキシティにポケモンたちのための薬を買いに行ったとき、僕は見てしまった。
グリーンが知らない男と一緒にホテルに入っていくところを。



目の前が真っ赤になって僕の中で何かがはじける音がした。



***


その後シロガネ山にやってきたグリーンに無理やり迫って、今は身体の関係を持っている。好きだということは伝えないまま。嫌がるグリーンをコトネをダシに使って押し倒した。
ごめんね、グリーン。僕はひどいことをしてるね。君にとって僕は幼なじみでライバルで親友だったはずなのに、僕はそれを裏切った。でもね、君だってひどいよ。僕がこんなに君のことを想っているのに、君はきっと女の子と付き合うんだろうっておもって我慢していたのに、僕以外の男と寝るなんて。


「グリーン、愛してる」

グリーンが起きているときには絶対に言えない言葉を唇に乗せる。
だって今さらどの面下げて言えっていうんだ、こんな言葉。
こんな関係になって、きっとグリーンは僕のこと、嫌いになったと思う。
仕方ないけど、やっぱりつらい。

最後にもう一度だけ、唇と唇を重ね合わせる。
想いはきっともう通じることはないけど、せめてこれだけ、君が寝ている間だけでも恋人っぽいことをしてみたい。君はダメだと言ったけど、ごめんね、許して。



「…グリーン、グリーン、起きて」

頬に雪で冷えたおいしいみずを押し当てる。
行為の最中、泣いてしまうことが多いグリーンのために買っておいたものだ。
起きてきたグリーンに、寝ていた時間を聞かれてつい、5分くらいと答えてしまう。…やましいこと、してたからね。
水を飲んでいるグリーンを何とはなしに眺める。ああ、やっぱり、綺麗だな。
どうしても抱きしめたくなって、ぎゅっと抱きつくと、グリーンはちょっとだけ驚いたように体をふるわせた。抵抗は、ない。

「疲れているみたいだし、泊って行けば?」
「いや、帰る。明日も早くからジム開けなきゃなんねーしな」
「………そう」

答はわかっているけど、どうしても諦められなくて毎回聞いてしまう。そして毎回その答えに悲しくなるのだ。バカな僕。
グリーンが帰ってしまうところが見たくなくて洞窟の奥に逃げ込む。
…泣きそうになんて、なってないから。
視界がぼやけているのは、気のせいだから。


いつもそうだ。行為に及ぶたびに悲しくなる。けれど僕はもう、とまることなんてできなかった。グリーンと僕を結び付けてるものは、もうこれだけ。

こんなにもグリーンのことが好きなのに、もう伝えることはできない。
あのとき体を要求してしまった自分の愚かさが嫌になる。


「グリーン、好き、大好き、愛してる…」


つぶやいた言葉は冷えた空気に消えていった。


END






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