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好きでいること以上を望んではいなかったのに

どうしてこうなったんだろうとふと考えることがある。俺とレッドは幼馴染でライバルで親友で、誰よりもお互いをわかってる。そう思っていたのに。

「っつ…グリーン…いくよ…」
「あ、あ、レッド、うあっ…!」

ずんっと奥の方をつかれて目の前がスパークする。体内で何かが飛び散った感覚。それが何かなんてわかっているけど。

レッドと体の関係を結んでどれくらいたつだろう。数えきれないくらいくらい体を重ねた。確かに俺は男しか好きになれない人種で、しかもレッドが好きだったけど、レッドはそうじゃないってわかってた。だってレッドの初恋はナナミねーちゃんだ。幼馴染の俺は当然そんなこと知っている。だから俺は、叶わない思いを告げてこの関係が変わってしまうくらいなら、この恋心を墓場まで持って行こうと決めたのだ。それなのにどうしてこうなってしまったんだろう。好きも愛してるもないまま、俺たちは身体を重ね続けている。


***


俺たちの関係が変わったあの日、俺はいつもみたいにシロガネ山に食料を届けに行って、早く下山しろよな、なんて聞き入れてはもらえない小言を言ったりなんかして。ピカチュウとイーブイは相変わらず仲よさそうに遊んでて、本当に何も変わらない日になると思っていたはずなのに……
話すこともなくなって沈黙が訪れたとき、あいつが急に爆弾を落とした。


「グリーンってさ、男にヤられるのが好きなの?」


何故だか不機嫌そうなレッドに、俺は上手く言葉を返せなかった。何でばれたんだろうとか、気持ち悪いって思われてるかなとか、嫌われてしまったかなとか、色々訳わからなくなって、うーとかあーとか、そんな言葉しか出てこない。うまく隠してたつもりなのにどうして。焦る俺を前にレッドは淡々と話しを続ける。

「この前、きずぐすりが切れたから、タマムシまで買いに行ったんだ。夜でもあそこなら営業してるから。そうしたら君が、君が知らない男とホテルに入っていくのが見えた。ねえグリーン、あの男となにをしてたの?」

かあっと顔が熱くなる。見られてた、見られてた。よりにもよってレッドに!
だって仕方ないだろう。俺だってそういうことに興味はあるんだ。でも一番好きな人に思いが通じることはないってわかってたから、適当な男を捕まえて一夜の遊びに興じるしかないだろう。レッドのバカ野郎。そんな責めるような目で見ないでくれよ。やめろ、やめろ、俺をそんな目でみないでくれ…やめてくれ!


「お前には関係ない…俺がどこで誰となにしてたって、お前に口出しする権利はない!」


レッドの視線に耐えきれなくて俺が叫ぶとレッドはさらに不快そうに顔をゆがめる。
本当にどうしてこんなことに。
ああ、もうレッドと会うことすらできないのかな。実はこうやって山頂に食料届けに来てレッドと話すの、好きだったんだけどな。ヒビキやコトネが来ることもあるけど大抵はふたりきり。レッドを独占出来たみたいでちょっとだけうれしかったのにな。
でももう終わりだ。きっと気持ち悪いって思われた。ホモとふたりきりとか、まじ勘弁って思うよな。泣きそうになるのを必死で我慢して立ちあがる。帰らなきゃ。これ以上傷ついたらもう立ち直れない。いや、もう駄目かも。でも、さよならを言わなくちゃ。

「…悪かったな、きもちわりーだろ。もう来ないから安心しろ。食料はコトネとかヒビキに届けさせるから……じゃあなレッド、さよなら」

声が震える。ヤバい、涙でそう。でもダメだ。せめて洞窟を出るまでは耐えなきゃ。かっこわるいとこ見せたくねえもん。

レッドの顔を見ないようにしてお別れを言って、走り出す…




…つもりが何故か前へ進めない。
レッドが俺の腕を掴んで逃走を阻止している。


「待ちなよ。ねえ、あの男は恋人?」
「違うし…たまたま会って、気があったから一回だけ…連絡先もしらねーもん」


相変わらず不機嫌そうなレッド。なんでそんなこと聞くんだろう。興味本位?それとも聞き出して俺を叩きのめしたいのか?

「…グリーンは男ならだれでもいいの?とんでもない淫乱だね」
「〜っ!だったらなんだってんだよ!」
「……じゃあ相手が僕でもいいってこと?」
「はあっ!?ふざけんな!お前だけはごめんだね!離せよ!帰る!」
「ほんと短気だね、グリーンは。いいじゃない、僕もさ、興味あるんだよね、そういうこと。でもほら、ここだとどうしようもないでしょ。コトネに手を出すわけにもいかないしね」
「あったりまえだろーが!コトネに手ぇ出したらぶっ飛ばすぞ!」

とんでもないことをサラっと言ったレッドに目をむく。もしかしてコトネに対してずっとそんな気持ちを持ってたのかこいつは。ちょっと生意気なところもあるけどコトネは大切な妹分だ。遊び半分で手を出す奴なんて許さない。キッとレッドをにらみつける。するとレッドはそれを鼻で笑って流した。くっそ、ムカつく。

「だからさ、グリーンが相手してくれればいいじゃない。慣れてるんでしょ。それに誰でもいいなら僕でもいいはずだ。グリーンも相手を探す手間が省けるしちょうどいいと思わない?…コトネの身の危険も減るよ」

レッドの相手をする。あいつの性欲処理のために、あいつに抱かれる。
幼馴染で、ライバルで、親友だと思っていた、あいつにいいように使われる。
そう考えるとすごく悔しくて目の前が真っ赤になりそうだったけれど、同時にちょっとだけ、本当にちょっとだけ、期待してる自分がいる。だって俺はあいつが好きだから。

「…ほんとに、コトネには手を出さないんだろうな?」
「約束するよ」
「………わかった。でも、キスはするな。絶対にだ」

そう言うとレッドは一瞬キョトンとした表情を見せた。無表情がデフォルトなのに珍しい。それからまたすぐに無表情に戻って「まあ、いいよ」とだけ言って、あいつは俺を押し倒した。


***


「…グリーン、グリーン、起きて」

冷たいものを頬に当てられて目が覚める。
触ってみるとそれは自動販売機で売ってるあのおいしいみずだった。
どうやら行為が終わってすぐ気を失っていたようだ。

「おれ、どれくらいねてた?」
「五分くらい。たいしたことないよ」
「そっか…」

カシュっと音を立ててプルタブを開ける。つめたい水が火照ったのどを冷やしてくれて気持ちがいい。あれ、でもレッドはどこからこれを手に入れたんだろう。俺は持ってきてないはずなのに。

「疲れてるみたいだし、泊って行けば?」

ぎゅっと抱きしめられる。俺が寝ている間に着替えたのだろう、レッドはズボンだけ履いていて、上半身は何も着ていなかった。俺は何も着ていなかったから、肌と肌が触れ合ってレッドの体温が直接伝わってくる。こんな寒いところにいるから冷たいと思ったのに、とても暖かい。そのままずっとこうしていたいけれどそれはダメだ。ずっとくっついていたら期待してしまう。

「いや、帰る。明日も早くからジム開けなきゃなんねーしな」
「………そう」

ふっと体温が離れる。側に落ちていた上着を拾ってレッドは洞窟の奥に姿を消した。
いつもそう。泊るかと聞かれて俺は否と返す。そしてそれを聞いたレッドは暗闇へと消えていく。


「…いつまでこんなこと続けるんだろうなぁ」


脱がされた服を拾い集めながら、俺の視界はだんだんぼやけていく。きっと、レッドが飽きるまでこの関係は続くのだ。そして飽きてしまったらそこで終わり。そうなったらもう、レッドとの関係は「他人」だ。幼馴染にも、ライバルにも、親友にもきっともう戻れない。幼いころはレッドのことなら何でもわかると思っていたのに、いつの間にかちっともわからなくなっていた。なあレッド、お前は今何を考えてる?


「どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ…」


俺はただレッドが好きなだけだったのに。
レッドの側にいれたらそれでよかったのに。


体を重ねるごとにむなしさは増していく。レッドの体温が残る毛布に顔をうずめて、少しだけ泣いた。



END






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