dust box | ナノ



◆snake1 ※レグリ特殊設定パロ
2013/12/08 17:41

!注意!
近未来っぽいなんだかよくわからない世界観な特殊パロです。グリーンが人外。続く予定ですが現在は未完結。手放しでハッピーエンドと言える終わりにはならないと思います。何でも許せる方向けです。









ベランダに蛇がいた。
いや、蛇と言うには少々奇妙な形をしているものだ。その生き物は滑らかな皮膚に覆われた二本の腕と硬い鱗に守られたにょろりと長い下半身を有している。蛇の下半身に人間の上半身。雨に濡れながらも重力に逆らう茶色の髪の毛、形のいい耳、すっと通った鼻梁、薄い唇は血色が悪いが寒さゆえだろう。しかし、その人間の頭の中で目だけが異質だった。榛色と言うのか、透き通った薄い茶色の瞳孔は縦に長く、これが異形のものであることを示している。
今は雨季だ。異形の生き物――上半身を見る限り性別はオスであるようなので便宜上蛇男と呼ぼう――がじっとしているベランダにはしとしとと雨が降り続いている。今朝カーテンを開けた時にはいなかったはずだ。いたら気付かないわけがない。と、言うことはこの生き物は自分が仕事に行っている間にどこからか侵入したのだろう。さて、どうしたものかとしばらく観察していたが蛇男に動く気配はない。もしや死んでいるのか。だとすればどうやって死骸を処理すべきだろう。あまり生活が楽ではないのだ。処分費にいくらかかるのか、考えただけでめまいがする。
おそるおそるベランダに近づき、レースのカーテンをざざっと開く。掃き出し窓は開けない。急に襲ってくる危険性もある。生態が知れない生き物とやり合うのは仕事だけで十分だ。リスクは負いたくない。
ガラス一枚を隔てて化け物と対峙する。蛇男に動く気配はない。やはり死んでいるのかと思いながら手にした懐中電灯でその目を照らす。すると今までぴくりともしなかった蛇男がその二本の腕を使ってゆるりと起き上がったではないか。眩しさを感じたのか、目を細めて蛇男がこちらに顔を動かす。そうしてはじめて真正面からそいつの顔を見ることになった。一つの鼻、一つの口、二つの耳、二つの眉、雨に濡れてじとりとしながらも天を向く茶色の髪の毛。人間のものではない二つの目。
異形の生き物の顔の造作は不気味なほどに整っていた。


***


じじじじ、とけたたましい音を鳴らす目覚まし時計の音で目を覚ます。携帯端末を目覚ましに使うことが世の中の主流らしいが、自分は電子音よりもこういった旧時代の遺物のようなアナログの時計の音を気に入っている。
眠い目をこすりながらベッドから抜け出しカーテンを開け放つと昨日と同様にしとしとと降り続く陰気な雨。そして昨日と変わらずベランダに転がる蛇男。昨日と違う点があるとすればくるりと丸まり、目を閉じているところだろうか。どうやら眠っているらしい。夜のうちにどこぞやに行ってくれることを期待していたのだがそう上手くことは運ばなかったようだ。実に残念である。ため息をつきたい気持ちを抑えてカーテンを閉める。得体のしれない生き物に見られているかもしれないと考えながら着替えや食事をしたくなかった。コーヒーを淹れるためにやかんを使ってお湯を沸かしていると携帯端末がピロリンと電子音を響かせる。職場からの連絡メールだ。
曰く、急に1件依頼が入ったので前倒しで出勤してほしい、特別手当は支給する。
つまり手当が出るほど面倒くさい依頼が舞い込んできたということだ。ああ、憂鬱だ。この雨も、急な仕事も、そしてあのベランダに転がる奇妙な生き物も。
時間がなくなったのでドリップコーヒーの予定だったのをインスタントコーヒーに変えた。久しぶりに使うインスタントの粉は酸化し香りも飛んでいて、まるで泥水でも飲んでいるようだった。





「レッドさーん、おはようございます!」

「おはようコトネ。早く来てるってことはコトネももしかして」

「レッドさんもですか?新しく依頼が入ったから早く来てほしいってメールが入って。おかげで朝ご飯のパン、いつもより1枚減らす羽目になっちゃいました」

「僕もコーヒー淹れる時間なくてインスタントにしたらまずくてまずくて」

「毎朝ドリップしてるんでしたっけ?私はインスタントに慣れてるんで気になりませんけど毎朝美味しいの飲んでたらインスタントはうげえってなりそうですね」

「しばらく使ってなかったから劣化して余計にね……」

仕事場について、後輩のコトネと話しながら事務室に向かう。3つ下の彼女とはまだお互いティーンエイジャーの時に出会って、それなりにウマがあったため何だかんだとつるむことが多い。職場まで一緒になるとはさすがに思っていなかったが仕事の際に信頼できる人物が側にいて悪いことはない。むしろとてもありがたいと思っているし、彼女の方もそう思っているらしい。
ぐだぐだと食べ物の話をしながら歩いていればすぐに事務室にたどり着く。無機質な扉を開くと目の前に広がるのは通い慣れた事務室。整然と並べられているはずの机の上が書類やら装備品やら通信機器やらでごちゃごちゃとしていて雑然とした雰囲気を漂わせている。向かいあうように配置されたオフィス用のデスクが2列、一番奥には所長の机。そしてその、この部屋で最も責任あるその机について困ったように柳眉を寄せている美人さんが僕たちのボスであるシロナさんだ。コトネ曰く、体の線が綺麗に上品に強調されるようにデザインされているすごくセンスのいい黒スーツ、に身を包んだ彼女は手にしている書類にじっと目をやって何やら考えこんでいる様子だったが僕たちが入室したのを見つけると、すぐにその顔ににこりと笑みを浮かべた。こう言うところに大人の余裕みたいなものを感じるのは僕がまだ子供だからだろう。年齢的にはこの年で立派に成人として扱われるものに達しているはずなのだが、大人になったという実感が薄いとでもいうのか、僕はどうしてか自分がいつまでも少年であるような気がするのだ。

「おはよう、レッド、コトネ。突然呼びだしちゃって悪かったわね」

黒い手袋で覆い隠した細い手を組んで申し訳なさそうに彼女は言う。唇を彩る落ち着いたピンク色のルージュがとてもよく似合っていると思った。

「大丈夫ですよー。何かまた大変そうなものが出たんですか?」

「そうなのよ。それで急遽ワタルとダイゴに行ってもらったの」

「ワタルさんとダイゴさんって確か今日西区画の方に行く予定でしたよね。っていうことは」

「そう、二人には急で申し訳ないんだけどワタルたちが行くはずだった西区画の方に回ってもらいたいの。資料はこれよ。あと1時間で出発するから準備してちょうだい」

「了解しました!けど1時間ですか。中々きついですね……」

資料を受け取ったコトネはざっと目を通して不安げな顔をする。いつも強気な彼女らしくない様子だ。確かに職場の中でも実力派として皆に一目置かれているあの二人が受けるはずだった任務ということで不安になるのもわかるが……と思いながら資料に目を通して納得した。今回の任務はいつも以上にハードなものになりそうだ。怪我ひとつなく二人で帰ってこれるといいと願いながら、僕とコトネは任務へ赴く支度をするべく自分のデスクへ歩いて行った。



続く



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