dust box | ナノ



◆コウジュン×3
2012/07/29 23:19

【コウジュン】

ふわふわのスポンジと真っ白なクリーム、それから大きくて真っ赤ないちご。
目の前に置かれたそれをフォークでざくっと切り崩して口に運ぶ。
当然ながら甘い。甘すぎる。
ミルクも砂糖も入れていない紅茶を甘さを流し去るように一気に飲み干して目の前の人物を見れば満面の笑みで甘い甘いそれを頬張っていた。そうだ、彼は甘いものが好きだった。

大きく開けられた口に飲み込まれていくショートケーキ。口の端にクリームがついていて彼の子供っぽさが際立った。
可愛いな。子供とはこうあるべきかもしれない。
じっと観察していたら視線に気づいたのか彼がこちらに目線を向ける。キラキラと輝く瞳。僕にはこの輝きはないだろう。

「コウキ、ケーキ食べねぇの?」

一口食べたきり放置された皿を指さして不思議そうに言う。

「お腹いっぱいなんだ、食べてくれる?」

彼の方に差し出すと更に目が輝く。ああ、眩しい。
彼は嬉しそうにいちごにフォークを突き立てる。ざくりと銀色が赤いつやつやしたものに吸い込まれた。それが彼の唇に触れ、咀嚼される。

「ね、ジュン、おいしい?」

「ん?おいひいよ」

「そう、良かった」

うん、良かった。ケーキだっておいしく食べてくれる人に食べられた方が幸せだ。何よりジュンの幸せそうな顔をじっと観察する時間が増えたのが僕には嬉しい。
手を伸ばして彼の口の端のクリームを拭い取り、自分の口に運ぶ。舌の上でとろりと溶けたそれはやっぱり甘い。彼はというといちごみたいに真っ赤に染めて、何やらぎゃあぎゃあと文句を言ってきた。ああ、ごめん、恥ずかしかったんだね。でも怒っている彼も可愛い。
たまには甘いケーキも悪くはない、そう思いながら紅茶に手を伸ばした。



END




【コウジュン】

シンオウ地方は寒い。最も北に位置する地方ゆえ、他の地方に比べると夏は過ごしやすいが冬は準備を怠ると死ぬほどに寒い。死ぬというのは例えでなくリアルに凍死するという意味である。
そんな寒い地方の中でもどちらかというと北の方にコウキは別荘を持っている。とある変わった大人からもらったこの別荘をコウキは気に入ってよく泊まり込んでいた。そして今回が別荘で過ごすはじめての冬である。主に夏に使っていたのか、別荘には暖房器具が少なかったため、今日近くの町に買いに行ってきた。買ったのはレトロな石油ストーブ。ストーブの上にやかんを置いてお湯を沸かせる古き良きタイプのものである。
まだ少年であるコウキが運ぶには重たいそれをゴウカザルに持ってもらい、がちゃりとドアをあけると暖かい空気が冷えきったコウキの頬を撫でた。

「あったかい…?」

あり得ない事態に困惑する。だって朝ここを出るときには暖房器具は全て電源を切って来たのに。誰かが侵入したのだろうかと警戒しながら玄関先にストーブを起き、身軽になったゴウカザルと共に足音を消して部屋の中を探る。ジリジリと部屋の中を進んでいると、ソファーの裏側から物音が聞こえた。

ゴウカザルと顔を見合わせおそるおそる覗き込んでみれば、そこには見慣れた金髪の少年の姿があった。

「なんだ…脅かさないでよもう」

詰めていた息を吐き出して、こつんと気持ち良さそうに眠るジュンの額をつつく。起きる気配のない彼に気をよくしたコウキは指をスライドさせ、ぷにぷにと柔らかな頬の感触を楽しんだ。
しかし彼は何でこんなところで寝てるんだろう。ソファーの上の方が暖かいのに。

「そうだ、このまま床に置いとく訳にはいかないよね」

ジュンの首の下と膝の裏に手を差し込んで体を持ち上げ、ソファーの上に横たえた。その際力が足りなくてプルプルと手が震えたのはご愛嬌だろう。ジュンとコウキの体格はまだそんなに変わらない。
たった数歩、ジュンを抱えて歩いただけで疲れはてた事実に己の未熟さを感じたが、焦ることはないと言い聞かせる。成長期は二人ともまだ来ていないのだ。これから自分はまだまだ大きくなる。
部屋が寒いことを心配してか毛布を持ってきてくれたゴウカザルにありがとうと声をかけ、一緒に玄関先に置いてきたストーブを回収に向かう。
まさか一番最初に幼なじみのために使うことになるとは思っていなかったけれど、何故か暖かい気持ちになった。



END





【コウジュン+ヒカリ】

コウキとジュンが付き合いはじめた。それを聞かされたのは、昨日のこと。


―ヒカリちゃん、僕、ジュンと付き合うことになった。

―そう。よかったね、おめでとう。

―ありがとう、ヒカリちゃんのお陰だよ。

―あら、私は何もしてないわ。ちょっとジュンをつついたくらいよ。それより二人とも幸せになりなさいよ。誰が何と言おうと私はあなたたちの味方だからね。

―本当にありがとう、ヒカリちゃん。ヒカリちゃんが幼なじみでよかった。

―ふふっ…私も二人が幼なじみでよかったわ。二人とも大好きだもの。


そう言ったのはもちろん本心から。本当に私は二人が大好きだし幸せになってほしいと思っている。誰が反対したって私は二人の恋の味方をする。幸せになってほしいから。

そして今、私はコウキの別荘に遊びに来ている。目の前にはにこにこと幸せそうにジュンを抱きしめるコウキと、いつも通りの台詞を吐きながらも満更でなさそうなジュン。

「もう!なんだってんだよコウキ!離れろっ!」

「いいじゃない。ジュンとくっついていたいんだもん」

「だ、だって…ヒカリも見て…っ!」

「あら、私は二人が仲良くしてるの、楽しくて好きよ」

「〜〜〜っ!」


真っ赤になってしまうジュン。可愛いわね。コウキが惚れたのもわかる気がするわ。
幸せいっぱいの二人を見て微笑む私の胸中なんて、二人は知る由もないだろう。


二人の幸せを願ってる。
誰よりも願ってる。
だって大切な大切な幼なじみだもの。


けれど。


二人の幸せの中に私の場所がないことが、胸にちくりと突き刺さった。



END





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