dust box | ナノ



◆sneke2 ※レグリ特殊設定パロ
2013/12/10 19:01

さて、突然だがここで僕の住んでいるところを紹介しておこう。
僕が住んでいるのは東都と呼ばれる場所だ。僕の国ジパングでは最も大きな都市で、東州カントーと西州ジョウトに別れている。僕はカントー出身だが現在の職場及び住所はカントーとジョウトの境目に位置している。電車や地下鉄、州営バスなど交通網は発達しているが仕事柄車を運転することが多い。百年ほど前に世界中を巻き込む大きな戦争があって、土地が荒廃しそれまでのテクノロジーの多くが破壊されてしまったから、良い土地を優先的に農地に回したこともあって建物は大きくてもせいぜい十階建て前後。東都から東に十数キロ行ったところには旧テクノロジーの遺産である馬鹿でかい建物が乱立する街の廃墟があるけど過去のテクノロジー解明と崩壊を防ぐために一般人は立ち入り禁止になっている。一般人は、と但し書きが付くが実際のところ政府もどうやって手をつけたらいいのかわからなくて完全な立ち入り禁止区域に近い。それでも潜りこもうとするやつもいるのでいつも警備隊がまわりをうろうろしていて中々に物々しい雰囲気を漂わせている。
戦争の時にたくさんの兵士が必要だったから成人年齢は十五歳。戦争は終わったものの、それが引き継がれて今に至っているので今も成人年齢は十五歳。だから僕たちも十五歳で学校を卒業すると、すぐに働きに出る。

そして僕たちの勤め先は東都治安維持対策庁という場所だ。つまるところ日々住民の平和を守る公務員でなのである。そしてその治安維持対策庁には大まかに分けて二つのセクションがある。一つは人災対策部。文字通り、人が起こす犯罪ー窃盗だとか殺人だとか強盗だとかそれこそ小さな罪から大きな罪までーを取り締まるところ。交通ルールの取り締まりなんかもこの部がやっていて、先ほど述べた旧市街の警備隊もここから出ている。もう一つが僕たちの所属している未確認災害対策部。通称特殊警邏隊。人災対策部に比べて少々規模は小さいが精鋭揃いと言われている部署で、年がら年中人員不足を嘆いている。僕とコトネがまだ若輩者ながらここに配属されたのは僕たちの採用試験の実技成績がずは抜けて良かったことと、この人員不足が大きく関係しているらしい。コトネに関しては本人の希望もあったとか。僕はどちらでも構わないと思っていたのだけれど、未確認災害対策部は例年あまり新人をとらない部署であるので恐らく配属されるだろう人災対策部で交通ルールの整理でもしたいな、と思っていたから辞令がおりたときはもう驚いた。よくわからないままに配属されて目の前の仕事をひたすら頑張ってるこなして三年目。今は何だかんだこの仕事も嫌いではない。雨の日なんかはとても憂鬱だけど、元々体を動かすことは好きだし、晴れの日は結構元気に仕事していたりするのだ。仕事内容にもよるけれど。

「レッドさん、今日どの子連れてきます?」

デスクの中から非常食という名前のおやつを出しながらコトネが話しかけて来る。デスクワークもあるけれど、それよりも現場に行っていることが多い僕たちにとってデスクというのは書き物も出来る収納場所といった意味合いの方が強い。
パンを一枚食べ損ねて満腹になれなかった彼女は非常食(おやつ)のチョコレートバーをもそもそと口にしながら資料に目を通してやっぱり飛べる子がいいですかねえと呟いた。それにつられるように僕も自分の資料に目を向ける。再生紙に黒のインクで印字された「翼を持つ竜属性」の文字。
この文字が示す通り、僕たちの仕事は大抵人間ではない生き物が相手だ。百年前の戦争の遺産。生物兵器として利用するため研究されていたキメラたち。混乱を極めた終戦期に研究所から逃げ出して野生化したそいつらが人間に害をなす場合に捕獲なり討伐なりの方法で問題を解決したり調査をして上手く人間と共存していける道を探るのが僕ら治安維持対策部の主な仕事だ。過去の遺産である廃墟に住まうものも多く、機械で一斉に攻撃して撃退、というわけにも行かないからこの部署に配属される者にまず求められるのはキメラ相手に動き回れる機動力や体力。捕獲、と言ったように必ずしも殺処分命令が出るわけじゃない、というか殺処分命令が下ることはごく稀であるし現場では不慮の事態が起こりやすいから機転がきくことも重要事項だったりする。それからもう一つ、この部署には大きな特徴がある。過去に捕獲されたキメラを原則一匹、討伐のサポート役として連れて行くことができるのだ。もちろん連れていけるキメラには条件があって、生物として安定していることと、キメラ調教師によって人間の言うことを聞くように訓練を受け、審査をクリアしていることが必須だ。ちなみに現在、東都で確認されている“生物として安定したキメラ”は251種類。他の地方に行けばもっと沢山の種類がいるらしいが見たことはない。安定したと判断されてもフィールドワークで確認されただけで捕獲されてないものもいるし訓練を受けて審査をクリアしたものはさらに少ないから、僕たちが連れて行くことのできるキメラは50種類ほどしかいない。そのうち僕の職場で飼育されているのは30種類ほど。これは結構多い数字じゃないかと思う。所長のシロナさんが研究者でもあり、研究施設が併設されているからその関係だろう。
どの子を連れて行くかとコトネに聞かれて真っ先に頭に浮かんできたのはNo.25だった。電気を操るネズミなのでピカチュウと呼ばれている。ウマが合うというか、この署内にいるピカチュウは僕によく懐いてくれていて連携も取りやすい。それにキメラの中では小さめで可愛い姿をしているので連れて行っても現地の人が過剰に怯える確率が低いので助かるのだ。しかし今回の相手は空を飛ぶようだし、コトネの言うとおり飛ぶことのできるキメラを連れて行くべきだろう。竜属性にはピカチュウの電気もききにくいからその点でも不向きだ。だとすると選択肢は一つしかない。僕と連携が取りやすくて空を飛ぶことができるキメラ。

「僕はリザードンを連れて行こうと思うんだけど」

「レッドさんがリザードンですか。んー、じゃあ私は飛べない子でもいいですかね?」

「まあ、両方飛べないと大変かもしれないけど、片方いるなら大丈夫かな。どの子を連れて行くつもりなんだ?」

「廃墟だし、小回りのきくマリルにしようかと。冷凍ビーム出せるんで、竜属性にも有効ですし」

「いい判断だと思うよ。僕も本当はもうちょっと小回りのきく子の方がいいんだろうけど、この資料だと相手の正確な強さがわからないからなぁ。元々ワタルさんたちに回されるはずだったってことはかなり強そうだけど」

「そもそも竜属性って総じて強いですもんね。耐久力のない子連れてって怪我させたくないです」

「……マリル大丈夫?」

「危なそうだったら回避に専念するので。ここのマリル、すばしっこいですし」

「なら大丈夫かな。じゃあ僕がリザードン、コトネがマリルってことで。装備はいつも通りでいいかな。装備担当も来てるはずだからすぐに出してもらえるはず」

「決まりですね。まず装備の方に行ってからキメラの申請行きましょう!あんまり時間がないです!」

「時間なくてもチョコレートは食べるんだ」

「腹が減っては戦はできませんから!あっもしかして欲しいんですか?申し訳ないことにもうないです……」

「いや僕そんなにお腹すいてないから!」

二本目のチョコレートバーの袋を開けながら立ち上がったコトネと共に二階の装備課で申請書類を出して、車に積み込むようお願いしてから渡り廊下を通って別棟に向かう。別棟の方は研究施設やキメラ用の部屋だけではなく庭なんかもついていてキメラのための建物といった感じだ。多忙な所長に変わって主に管理をしているのはマサキさんという古いジョウトの訛りで喋る男性だ。基本的に気のいいお兄さんなのだが研究にのめり込むあまり過去に一度軽い爆発を起こしたことがあるらしい。その頃には僕はもうここで働いていたのだが現場に出ていたため直接は見ていない。署に戻って来たら既に事態は収束をみせていて、風の噂でたまたま研究所の方に行っていたシロナさんが解決したらしいというのを聞いたのみだ。後日その場にいた研究員たちにどうして爆発したのかを聞いてもよくわからないという答えしか返ってこなかった。嘘がつけない研究員がそっと目を逸らしていたので、何かあまり公にはできないことが起きたことを理解して、そのことは忘れることにした。爆発を起こした張本人のマサキさんは軽傷を負っていたものの翌日には元気に出勤してきていたし、上が隠したいと思っていることを無理に暴くことによる害と真実を知ることを天秤にかけて、害が及ばないことを選択した。まだ十歳ほどの好奇心旺盛だった頃の僕ならば確実に首を突っ込んで行っただろうなぁと、その時に考えて、大人になった部分もあるのだな、と自分で自分の変化に戸惑ったものだった。
そんなことを思い出しながらマサキさんに申請書類を提出してリザードンがいる部屋の鍵を貰う。ピカチュウが会いたがっていた、という話を聞いて可哀想に思ったが今回はリザードンの方が適役なので仕方がない。早く帰って来れたらマサキさんにお願いして少しだけでもピカチュウに会わせてもらおうと考える。早く終わればいいのだけれど。
窓の外ではしとしとと雨が降り続いている。雨の日は嫌いだ。何か嫌なことが起こりそうな気がして滅入ってしまう。
ぐるるる、と唸り声を上げながら甘えるように首を摺り寄せてきたリザードンのあたまを撫でてやりながら、どうか何事もなく帰って来れますように、と心の中で呟いた。


続く



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