月山長編 | ナノ


▼ 07

「ひとまず、背番号の事はまた後日話すことにする。良いな二人とも」

叔父さんは俺たちにそう言った。けど、そんな事で俺の気が収まるはずも無くて……下手に刺激されたら、今にも爆発しそうだ。

だから俺は、叔父さんがあの人を送りに行っている間に行動に移す事にした。それは……。

『おい、南沢』

「ん?何だよ近藤名前くん」

『俺と一対一をしろ』

「それをやって俺が得るものは?」

『お前が勝ったら10番をくれてやる。だけど、負けたら10番は諦めろ』

「名前……それじゃあ!!」

『司は黙ってろ!!これは俺と南沢の問題だ!!』

そうだ、これで良いんだ。ここで俺と南沢以外の奴が関わったら面倒な事になる。それだけは御免だ。俺だけ悪役になればいい。俺だけ処分を受ければいい。

「いいぜ、のった」

『よし……じゃあ先に三点決めた方が勝ち、それで良いだろ?』

「ああ」

「名前!!」

『俺は大丈夫だから、心配するな』

ボールをセンターラインへ置き、俺はサークルのその外へ出た。この勝負は俺たち二人だけ。つまり、どちらかが攻守でもはっきり言って関係ない。だから俺は南沢にボールを譲った。

それにこの勝負、俺はちゃっちゃと片をつけるつもりだ。司には、ああ言ったが正直のところまだキツイところもあるし、未知の領域のところも。だから身体に負担をかけない短期戦を行う事が必要となってくる。

こんな状況は"あの日"以降、全くもってなかった。自分の行動の選択一つで、戦局が180°も変わってしまう。その状況をいかに冷静に耐えた者だけが、ここに立つ事を許される。この空気が俺の全細胞を奮い立たせるんだ。

「黙り込んじゃって、怖気ついたのか?」

『南沢、お前に月山の10番は渡さない』

「……フン、そう言ってられるのも今のうちだけだと思ってろよ。悲劇のヒーローさん」

『お前が言うな、この落ちこぼれ野郎』

この直後、ピッチには一回のホイッスルが鳴り響いた。南沢はドリブルで上がってくるのに対し、俺は立ち止まって左手で右手手首を掴み、こう言ったんだ。

『はぁぁあ!!忠誠騎士ディルムット!!』

すると、体の中から強い力が湧き上がる。そしてそれは全て背中を通じて、大きな化身となって現れた。

サッカーが出来なかった、つまりこいつも出す事が出来なかったから色々心配だったけど……これならいける。南沢に勝つ事が出来る。

俺はそう確信し、南沢へ向かって行った。


「おい南沢、あと一点でお前の負けだ」

「うるせ……黙ってろ」

結果は歴然だった。化身状態の俺からボールを奪えるはずもなく、ただ点数を決められるばかり。ここで南沢がディフェンス技をもっていたら、こんな状況にはならなかっただろうな。こいつはFWだから仕方が無いと思うけど。

俺は次のシュートは化身技で決める。そろそろ、叔父さんが戻ってきてもおかしくない時間だし……それに南沢に核の違いを教えてやる為にも。

再びホイッスルは鳴り、ボールをもった南沢が俺に向かってくる。俺はその南沢を制し、敵陣コートへとかけて行った。しかし、南沢は直ぐに体制を立て直し、ゴール前に立ち塞がったんだ。

「止まれ!!近藤名前!!」

「お前はここで潰す!!」
多分、ここで点を決められなかったら、俺は南沢に負ける。それほど化身は体力を使うんだ。

だから俺はこのシュートに全力を注ぎ込む。絶対に止められないシュートにする為にも。

俺は無駄な力を抑え、一点に集中させる。そしてシュートモーションへ入った。だけど……。

「お前ら、何やってるんだ!!!」

戻ってきた叔父さんの一喝で、試合は中断。そして、そのまま俺は意識を落とした。


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