▼ 06
『南沢、お前に月山の10番は渡さない』
「そう言ってられるのも、今のうちだけだと思ってろよ。悲劇のヒーローさん」
『お前が言うな、この落ちこぼれ野郎』
俺は今から南沢と月山の10番をかけて、1体1を行う。まだ医者から本格的にサッカーをやって良いと許可をもらってないけど、知ったこっちゃない。俺は10番を守らなければ駄目なんだ。それで、サッカーをする事が難しくなったとしても……諦めなきゃ絶対にサッカーは出来る。
そもそも、何故俺が南沢と試合する事になったのは今から十数分前の事だ。
「合格だ、南沢」
「ありがとうございます」
流石は元雷門サッカー部、南沢の入部テストはあっという間に終わった。寧ろ南沢自身が本気でプレイしていたら、もっと早く終わっていたんじゃないか?そんな風に感じるほど、南沢は手を抜くというか平然だ。
「それで監督。俺の背番号っていくつなんですか?」
「南沢には20番に入ってもらおうと思っているんだが、どうだ?」
「何で20番なんですか?俺は武田さんから、エースストライカーを月山が必要としているって聞いたから付いて来ただけなんですけど」
「だが、背番号のことは一切話していないぞ私は」
「じゃあ、その10番は誰なんです?ここには居ないみたいだけど」
南沢は周りを見渡しながらそう言った。確かにここには10番のユニホームを着ている奴が居ない。だけど、ここには月山の10番が居る。何故なら……。
『俺が月山の10番だ』
「……やっぱりな」
『やっぱりってどういう意味だ』
「別に?何もねえよ、去年のHRで自分からキーパーに突っ込んでいって、怪我をした近藤名前くん?」
『っ、てめぇ……』
「事実だろ?言って何がおかしい」
『お前には関係ないだろ!!』
俺はこの憎たらしい顔に殴り掛かろうとした。だけど体は動かなくて不思議に思った俺は後ろを向くと、司が俺の手首を握って首を振っている。フィフスセクター幹部の幹部の目の前で下手な事をしてしまったら、廃部させられるどころか学校そのものの存在が危うい。だから俺は、司の手を解きその場に留まった。
確かに南沢が言っている事は間違っちゃいない。あの試合はフィフスセクターが点数指定をしなかった試合だ。だから相手の学校と本気で試合が出来るからこそ、絶対に勝ちたかった。そんな試合の延長戦ラスト1プレイ、しかも同点の状況でボールを自分が持っていたら、迷わずこのボールを相手ゴールへと入れるだろう。ボールは見事相手ゴールに入り、月山は勝つことが出来た。
だけど、その代わりに俺はサッカーを出来ない体になってしまい、次の試合に月山は敗退した。でも俺はあの行動に後悔なんてしていない。自分の意思でやった事だし、どうにすればサッカーも出来るようになるかもしれないからだ。
そうとは分かっているはずなのに……南沢が言っていることが癪に障った。ただ単に南沢の言い方が馬鹿にしていたからなのかもしれない。だけど、改めて現実を現実を突きつけられた事の方が大きい気がする。
「ひとまず、背番号の事はまた後日話すことにする。良いな二人とも」
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