拓也
 

『拓也さん。ちょっと…いいですか?』
「ん?どうしたんだ名前」
『そ…の…』

名前は別に俺に怯えているわけではない。ただ、大の口下手だけなんだ。(そうだと俺は思う)だから俺は話の途中が気になっているが、じっくりと待つ。

『ネ…ネクタイが』
「ネクタイ?」
『…が曲がってて』

名前が言ったとおり、ネクタイを見ると曲がっていた。それに形も歪だ。だから結びなおそうと、ネクタイを手にかけたところ名前の手が俺の手に触れた。

「名前?」
『わ、私に…結ばせてください…』
「だが」
『お願いします!!』

普段めったに自分の意見を強くださないということと、あんな顔をされてしまったら「…分かった。頼む」と俺はそう言うしかなかった。すると名前は満面の笑みで『ありがとうございます』と俺に言ってきたのだ。

そんなに人のネクタイを結ぶのが嬉しいことなのか…。俺には理解が出来ないな。

名前は細く小さな手で、俺のネクタイを解く。そして襟を上げて、ネクタイを結び始めた。だが、俺が下を向いていたので結び難かったようで軽く上を向くと、小さな声で『すみません…』と名前は呟く。別にそんな事を言わなくて構わないのに。

『…でき、た』

その言葉のすぐ後に下を向くと、しっかりとネクタイは結ばれていた。しかも俺が普段 結ぶものより綺麗に形が整っている。

一言 礼を言う為に、名前の顔を見ると、何故か名前は小刻みに震え、目はゆらゆらと揺れていた。

「名前…どうした?」
『っ!…な、なんでも…ないです』
「だが…」
『ほ、本当に…だ、大丈夫なんで』

そう言って、名前は俺のもとから走っていってしまった。去り際に見た名前の顔は、熱があるのではないかと思わせるぐらいに紅潮していたはず…。倒れたら大変だと思った俺は、名前の事を追いかける事にしたのだった。




―鈍感に恋をして...
(はぁ…。拓也さんとお話すると、いつも緊張しちゃうんだよな)
(名前!!)
(た、拓也さん!?)




fin.




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