土井
 

トントン

「あの、土井先生。奥様がみられてますよ」
「私の奥様!?小松田くん、中に入ってちゃんと事情を教えてくれ!!」
「はい」

そう言って、小松田くんは私の自室へと入ってきた。私も一年は組のテストの採点を止めた。驚いた拍子に採点間違えなどをしたら大変だし、目を背けたい点数ばかりだからだ。
だが、それにしても……どこのだいつが、そんな事を言ったんだろう。流石に二度も花房まきのすけが同じ事をするとは思えんし、第一それだったら小松田くんがまきのすけだと、私に伝えるはず……。

「あの……土井先生?」
「ああ、すまない。じゃあ、その人物の特徴とか分かる事を話をしてもらえるかい?」
「はい。顔は傘でお隠しになっていたんで、分からなかったんですけど……門をノックされた際は、"土井半助の妻です"と名乗られて、入門表には名前とお名前を書いていました」
「……ありがとう、小松田くん。彼女はれっきとした私の知り合いだ。妻なんかではないけど。それで、今どこに?」
「えっとですね、一応食堂にお通ししておきまし」

私は小松田くんが言葉を言い終わる前に自室を飛び出し、食堂へと向かった。全く、何故彼は入門表に名前を書いた人物は全て信じ切ってしまうのだろう。それ故に、マニュアル事務員と呼ばれているんだろうけど……。




「名前!!」
「あ、半助。どうしたの、そんな怖い顔して……うぐっ!!」
「お前は……いつも、いつも」

私は名前の首をしっかりホールドし、絞め技をかけた。無論、殺す勢いでやっている。何故なら、こいつには反省の色が伺えられないからだ。だから、お仕置きの意味も込めて。

「土井先生、辞めないと奥さん死んじゃいますよ!!」
「食堂のおばちゃん、良いんですよ……ってこいつは私の奥さんなんかじゃありません!!」
「あら、そうなの?」
「そうですよ!!信じて下さい……あっ!」

しまった、おばちゃんに気を取られてた内に名前はスッと抜け出し、私が絞めていたのは名前じゃなく木片となっていた。くそ……どこに行った名前のやつ。

「すみません……おばちゃん。嘘を言っちゃって。でも、」
「別に良いのよ。ちゃんと名前ちゃんの気持ちは分かっているから」
「おばちゃん!」
「なぁにが、おばちゃんだ。名前行くぞ」
「ちょ、襟掴まないでよ。じゃあ おばちゃん、また夕食の時に」
「はい。待ってるわね」

名前の服の襟を掴み、引きずりながら食堂を後にした。さて、こいつを何処に連れて行くか……自室だと、山田先生にご迷惑をかけるかもしれない。だとしたら……。




「なんで火薬倉庫蔵?」
「火薬委員会の顧問をやっているから、出入りは自由に出来るんだ」
「そっか、半助は火薬得意だもんね。失敗は多々あるけど」

余計なお世話だ……と言いたいところだが、抑えておこう。でないと、本題からどんどん逸れていってしまう。落ち着くんだ、土井半助。

「あのな、名前」
「ん?」
「いい加減、私の職場が変わる度に来ないでもらえるか。お前が来るせいで、私は迷惑しているんだ」
「ごめん……半助がそう思っているなんて知らないで、何度も来ちゃって。じゃあ、さっさと帰るね」
「ああ、早く帰ってくれ」

名前は無言で、物音も立てずに火薬倉庫蔵を出て行った。彼女が何故、私の元へ現れる理由は知っている。私と彼女は幼馴染であった。しかし二人とも戦争で親や家族を亡くし、互いが就職するまで一緒に居たんだ。だから名前は心配なんだろう''私が何かあったら"、と。私だって同じ気持ちだ。しかし、毎度私の奥さんだと言われるのが嫌なんだ。だから、ああ言った。まぁ、もう名前が来なくなって清々するが、何と無く寂しいが気がするのは心に留めておこう。私は一人、火薬倉庫蔵を後にした。




「おはようございます、土井先生」
「おはようございますー」
「あ、山本先生に……名前!?な、何故お前がここに!!」
「いやー、私も今日から忍術学園の先生なんだよねー」
「はぁ!?どういう事ですか山本先生!!」
「私がスカウトしたのよ。この前、彼女が学園に来た時」
「ってなわけで、宜しく。土井先生!」

名前の宣言により、更に私は胃炎に悩まれるのであった。


fin.





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