土門
『ねぇ、土門くん』
「ん?なに、名前さん」
『何で私、土門に追いつめられてるのかな…?』
今日、私が入っている吹奏楽部はいつもより早く終わった。
他の部活はまだ活動中なわけで、サッカー部もその一つ。
だから、校舎を出たら必然的にサッカー部のメンツが目に入るわけで…。
他の部員の皆は即座にファンの部員に手を振り、私も何となく振ったら土門くんに気づかれた。
すると彼は、凄まじい勢いで私の方へ向かってきて、なんか怖かった私は逃げて現在に至る。
流石に、男子でサッカー部員には逃げられないよね。
「いやー、だってさ名前さんって、めっちゃ可愛いからつい」
『わ、私!?私なんて全然』
「ううん、十分可愛い。だって俺、いつも授業中に名前さんの事を左斜め後ろから見てたから」
左斜め後ろ…?
ああ。確かに土門くんは、私の左斜め後ろの席だ。
だけど、授業中の私が可愛いってどういうことだろ。
大して皆と変わった事はしてないんだと思うんだけどな。
土門くんは、私が疑問に思っていると気づいたみたいで、また口を開き始めた。
「例えば、理科の時にする欠伸とか。数学で数式を答える時に、シャーペンのノックする所を唇に当てながら、考えるところとか」
『えっ…私、そんな事をしてるの…?』
「いいや、まだあるぜ」
『いい!!言わなくて!!』
"そりゃ残念"と土門くんは言ったけど、私からすると凄く恥ずかしい。
もう、自分でそんな変な事をしているなんて知らなかったから、今にも顔から火が出そうだ。
それに、見られていたなんて…。
『私、もうお嫁にいけない』
「何言ってんだよ名前さん」
『だって…』
「大丈夫。ちゃんと俺がもらってあげるから」
『…土門くん。ありがとう』
最初は変な人だな、と思ったけど、土門くんって凄く優しいんだな…。
今だって、私の事をフォローをしてくれたし。
やっぱり、人は偏見で判断しちゃいけないよね。うん。
「ということは…さ、名前さん」
『ん?何、土門くん』
私が一人で納得をしていると、目の前には照れて頬を真っ赤にした土門くんがいた。
何でだろ。私何か変な事言ったかな?
「俺と付き合ってくれるって事で良いんだよな…?」
『ぇ?……えぇ!?ちょっともう一回言って!!』
「だって、俺が"お嫁にもらってあげるから"って言ったら、名前さんは"ありがとう"って」
確かに私は"ありがとう"と言った。
でも、それは別に付き合うとかそう言う意味じゃなくて、感謝の気持ちを込めたもの。
だから返事じゃないのに、土門くんはどうやら返事だと受け取っちゃったみたい。
「それに、俺に手を降ってくれたから、俺に気があるのかなって。だから今日こそ、告白をしようと思って、追いかけたんだ」
『別に私は何となくだからね』
「でも、俺…凄く嬉しかったんだ。好きな子に手を降ってもらえて。だから、お友達からで良いんでお願いします」
ビシッと音がなるような速さで出された右手。
そして90°で曲げられた腰。
サッカーの時や、普段の時の土門くんとは違う一生懸命な姿に、心そして体も動かされ私は彼の手を握りしめた。
「名前…さん」
『友達からなんだから、土門くんの事、たくさん教えね』
「…っ、ああ!!約束する!!」
―キューピッドも驚く結末。
「ひとまず、今はもっと席が近くなりたいよな…」
『確か、来週席替えするらしいよ』
fin.
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