柳生
 

普段眼鏡をかけている人が、ふとした時に眼鏡を外したとしよう。それは、とても新鮮な感覚に陥ると思う。それが、異性なら尚更。

今、私はそれを体験している真っ最中だ。何故なら…。


「…名前さん、どうかされましたか?」

『な、何でもないですよ!!』


柳生くんが、眼鏡を外していたからだ。理由は下校中突然の雨にみまわれ、私は傘を持っていなかった為、適当なところで雨宿りしていたら、後から柳生が雨に濡れて現われた。そこで柳生くんは、雨で視界が悪くなってしまった眼鏡を拭いていて、そこに居合わせた私は、普段見る事の出来ない柳生くんの素顔を見てしまった。

今はもう眼鏡を付けていて、普段の柳生くんと変わらない姿だけど、また見れるんじゃないかという淡い期待で、何度もチラチラと見てしまっている。

だとしても、チラチラと見過ぎちゃっているよな……。柳生くんへの受け答えもおかしかったし。絶対、おかしい奴だって思われた。(いや、普段から思われてるって言った方がしっくりくる。)

でも、それ程までに眼鏡を外した彼はカッコいいんだ。(眼鏡の柳生くんもカッコいいけど)キリッとした目元に、優しいそうな雰囲気を漂わす眉。また彼の事をチラっと見てみた。すると、タイミング良く目線があってしまった。


「あの、私の顔に何か付いていますか?」

『…え?』

「先程から名前さん、チラチラと視線を私の方へ流してくるので、もしやと思ったんですが……やはり私の考え過ぎですよね。勘違いなんて、見苦しいところを見せてしまってすみません」


まさか、ここで柳生くんがそんな事を言ってくるなんて思ってなかった。だけど…ここはある意味チャンスだ。だって、柳生くんをチラチラと見続けてしまった事が、顔にゴミが付いていたという何もおかしくない、怪しまれない理由になったからだ。

でも、ここで私が彼の良心に甘えてしまったら、最低な人間だろう。柳生くんではなく、私が見苦しい。

そんな事をするんだったら私は……


『ゴミなんて付いてないよ、柳生くん』

「えっ……では、名前さん。何故私の事を見ていたのですか」


おっと……ここはどう答えれば良いんだ。さっきのは勢いで言った部分もあるし……。ってかさ、柳生くん本当は知ってるんじゃないかと思ってきた。私が柳生くんを見ていた理由を。

となると、非常に渡しの立場が厳しいぞ。雨はまだ止みそうにないから、この場所から離れるわけにはいかないし。逃げたとしても、絶対に追いかけてきそうで、ある意味怖い。かくなる上は……


『秘密』

「誑かさないで下さい」

『だって、教えたくないんだもーん。あ、柳生くんこそ、よく私がチラ見してた事を分かったね。もしかして柳生くんもチラ見してたんじゃ……』

「……」


柳生くんは顔を真っ赤にしながら黙りこんでしまった。ははん、なるほどねー……そういう訳か。カッコ良いという存在だった彼がが、今では私にとって可愛いという存在でしかない。悪趣味であるが、そんな柳生くんをもっと見てみたいと思った私は、彼をからかってみる事にした。


『ねぇ、何で柳生くんは私の事チラチラ見てたのかなぁ?』

「べ、別に良いでしょう!!」

『だって、凄く気になるし……じゃあ、柳生くんがチラ見してた理由を教えてくれたら、私言っても良いかな。柳生くんをチラ見してた理由』

「えっ……」

『どう?悪い条件ではないでしょ?』


今私は相当悪い顔をしているだろう。多分、B組の仁王くんが詐欺する時と同じ位……いや、それ以上に。
柳生くんからの答えを待っていると、雨はもう止みかけていた。多分、ここでタイミングを逃しちゃうとまた降られて、今度こそ帰られなさそうだな……。柳生くんの決心はまだ、つかなさそうだし。


『柳生くん、今日はいいや』

「えっ?」

『だって、雨止んだじゃん。だから今帰っちゃわないと帰れなくなっちゃうし』

「で、でしたら!!私と帰りませんか?家までお送りしますので」

『えっ、でも悪いって。家の方向も違うわけだし』

「女性一人を帰らさせるなんて事、私には出来ません!」






ー究極の二択。
(カッコ良いのか可愛いのか、どっちかにしてよ)





fin.








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