高坂
 

『ごめんね、乱太郎くん。わざわざ保健室まで連れてきてもらっちゃって』
「別に大丈夫ですよ!丁度、保健室へ戻ろうとしていたので」

もう、何でこんなにも忍術学園の低学年の子達は可愛いんだろう。これだから、忍術学園に行くのがやめられない。だって、私の癒しであるわけだし。

と、言っても…今日は別の理由なんだけどね。師匠が腰を痛めたから、忍術学園の新野先生から薬をもらって来るように頼まれたからさ。

「さぁ、着きましたよ」
『ありがとう、乱太郎くん。今度お礼に何か持って来るね』
「わぁ!ありがとうございます!!善宝寺先輩、只今戻りました!」

先に乱太郎くんが保健室に入り、私も入ろうとした。だけど、保健室には二度と会いたくない奴が居たわけで。

「やぁ、名前。久しぶりだね。まさか、こんなとこで数年振りに再会するなんて」
『昆奈門兄さん…』

言っておくけど、昆奈門兄さんが会いたくない奴ではない。(だって、兄さんは尊敬する人物だし…)私が嫌なのは、兄さんに憑いてる奴…つまり。

「よう、名前」
『高坂、陣内左衛門…!』
「幼馴染なんだから、そんなしかめっ面す」

私は保健室を直ちに出た。だから、彼奴の台詞は中途半端に終わっているんだ。ってか、私は彼奴とはもう幼馴染なんかじゃない。数十年前にやめてやったんだ。なのに彼奴ときたら……全て彼奴のせいなのに。

私はあの頃、彼奴に虐められていた。あ、口でのね。だから、私も言い返してたし。だけど…一度だけ、本当にショックを受ける事を言われたんだ。

"小頭と腹違いの兄妹なんだから調子のるな。七光りも対外にしろ"って。

私はこの事を誰にも言わず、そして置き手紙も無しに家出をした。だけど幼かった私は勿論、行くあてなど無く森の中を彷徨っていたら、幻術使いである自然薯師匠によって拾われたのだ。そこで私は幻術を学び、今の私に至るのだ。

なので私はタソガレドキが近くで仕事をしていたら、幻術を使い逃げたりしていた。だけどその、努力は全てパア。まあ、幻術使いだと暴露ていないだけマシかな。

「へぇ…名前、お前幻術使いだったのか」
『な、なんで陣左がここに…あ』
「やっと名前で呼んでくれたな」

しまった…つい油断して名前で呼んでしまった。だって、幼い頃はそう呼んでいたからしょうがないじゃないか。癖ってものはなかなか抜けないわけだし。

『別に良いでしょ…それより何でついて来たのよ』
「お前と話したかったからだよ。でも、お前が幻術使いだったら、全ての話は通るな」
『まって、私は一度も幻術使いだとは…』
「保健委員の皆が教えてくれたぜ」

前言撤回。あの子達は私の癒しなんかじゃない。悪魔だ。

『…はぁ。それで、何で話が通るの?』
「名前に似た女が居る情報を聞いては、そこに行って確かめてたからな。そこでは必ず、毎回眠気に襲われたりしたんだ」
『兄さんから頼まれたのに、失敗するなんて腕がないね』
「いや、それは全て俺の意思だ」
『嘘でしょ…だって、あんたは私の事が嫌いな訳だし』

だから、陣左は私にあんな事を…。それしか考えられない。

「お前、何か勘違いしてるぞ」
『何がよ』
「そのな…俺があんな事を言っちまったのは」
『早く言いなさいよ』
「うるせえな!名前の事が好きだったからなんだよ!」

…え、意味が分からない。陣左が私の事が好き?だから、あんな事を?そう言えば、あの時、こいつは顔が赤かったような…いや、ないないない。あり得ない。

「お前、信じて無いだろ」
『だって、そりゃあ…ねぇ』
「じゃあ、どうすれば信じる」
『謝って』
「え?」
『そうすれば考えてもやらない事もないけど』

私がそう言うと、陣左は一瞬にして両膝を地面に付き、頭を下げ一言"悪かった"と言った。

『…ふふ』
「な、何で笑うんだよ…こっちは真剣だったのにやってるのに」
『いや、大袈裟だなと思って。私は土下座じゃなくて良かったのに』
「だったら、早く言えよ…まあ、良いけどよ」

十数年ぶりに陣左と話したけど、こいつは全く何も変わってなかった。変わったのは体格だけ。

「んで、返事は?」
『何の?』
「言っただろ俺はお前に!」
『だから何!』
「あー…もういいわ。それより、保健室に戻らなくても良いのか?」
『あ、そうだ。私、新野先生に薬をもらいに来たんだった』

危ない危ない。色んな事あり過ぎて忘れるところだった。

『さぁ、戻ろ。陣左』
「言われなくても分かってる」








ー仲直り。
(って言えるのかな?)








FIN




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