「名前、ちょっと良いかしら」

『瞳子姉さん。別に大丈夫だよ』

皆との夕飯も終わり、自室に戻ろうとしていたら瞳子姉さんに呼び止められた。別にこれと言った用事は無かったので、俺は姉さんに付いて行くことに。

瞳子姉さんは移動中、何も話さなかった。廊下には二つの足音が聞こえるだけ。何か重大な事を話すんだろう……俺にはこの時点で感じられていた。だって、そんな大事な話じゃなかったら、あの場で話してるだろうし。

「さぁ、名前。入って」

『うん』

この部屋は父さんの書斎だ。警察に家宅捜索以降、この部屋には誰も入っていないせいか、荷物とかの位置は全く変わっていない。あの頃と一緒のまま。それによって、記憶が鮮明に戻ってくる。嬉しかった思い出、辛かった思い出……色々な思い出一つ一つが。

そうすると体が震えてきた。別にこの部屋が嫌いなつもりはない……けど体は拒否反応を出してるみたいだ。俺は瞳子姉さんに気づかれないように、そっと手首を掴んで震えを抑えた。

「それで名前、話何だけど」『何?』

「今度、父さんと面会が出来ることになったの」

『そうなの?』

「ええ。だから私の他に、ヒロトと貴方も連れて行きたいと思ってる」

『ヒロトは何て言ってるの?』

「ヒロトは行くと言っていたわ」

『そう……』

正直な気持ち、父さんとは会いたい。けど、父さんは俺が行くことを喜ぶんだろうか。ここは血縁者である瞳子姉さんと、お気に入りだったヒロトが行った方が良いんじゃ……。

「名前、もう周りのことを考えなくて良いのよ。自分のやりたいことをやりなさい」

『姉さん、』

俺はハイソルジャー計画が始まってから、常に周りの意見を尊重してきた。そのほうが物事は上手く回るし、争いは起こらない。でも、今はそんな計画は無くなった。だから自分の意見を尊重しても問題ないのに、それが出来ずにいたんだ。

でも、姉さんは俺の意志で行動していいって。それが、どれだけ俺にとっては嬉しい事か分かるよりも先に、嬉涙が頬を伝ってきた。

『俺……父さんに会いたい。たくさん話したい。だから、一緒に……連れて行ってください』


―貴方が居たから俺は居る。
(待っててね、父さん)


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