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隠れた瞳は空の色 ‐最終話-




「ねぇ春ちゃん。私ね、降谷君のこと好きになっちゃったの」
「僕も凛のこと好きなんだ」
「だから私達付き合うことになったの。ごめんね、春ちゃん……」



「――おい! 小湊! 小湊、起きろ!」

 目を開けると慌てた表情の前園先輩が僕の顔を覗き込んでいた。

「お前、大丈夫か? 偉いうなされとったで! 今日は休んだほうがええんとちゃうか」
「そんなにうなされてたんですか、僕……。すいません前園先輩」
「いや、俺は別にええんやけど、ほんまに大丈夫なんか?」
「はい。ちょっと嫌な夢見ただけなので……。起こしてくれてありがとうございます」
「あ、あぁ。んじゃ俺は先に行くからな。無理すんなや」
「はい」

 どうやら相当うなされていたらしい僕を前園先輩がゆすって起こしてくれたようだった。
 それにしてもなんてリアルな夢だったんだろう。

 あの夢のせいで今日の朝練はボロボロだった。切り替えようって何度も試みたけどどうしてもあのリアルな夢が引っかかって、もし本当に降谷君とライバルになってしまったら。僕はどうすればいいんだろう……。

 それから朝の授業も集中出来ず凛と降谷君を見てはため息が出た。
 そしてそのまま昼食の時間になって、僕はいつものように三人で向かい合って食べていた。

「ねぇ、僕わかっちゃったんだ」

 昼休み、ちょうど凛がトイレに行ったとき降谷君が話をきりだした。

「何がわかったの?」
「……凛を見ると胸のあたりがおかしい理由」

 もしかして、自覚したのかな……。そうすると今日見た夢は、正夢――?
 だけど僕が思っていたものとは全く異なった、予想だにもしないことを降谷君は言いのけた。

「凛ってさ、しろくまに似てない?」
「……えぇ!?」

 好きだって自覚したんだと思ったのに、彼から出た言葉は突拍子のない『凛がしろくまに似てる』というもので肩肘張ってた僕がなんだかバカらしくなってしまった。

「……それ、凛に言った?」
「ううん言ってない」
「言ってあげると喜ぶんじゃないかな?」
「そう……かな。じゃあ言ってみる」
「うん」
 
 なんだろう。凛のことが好きって言ってる訳じゃないから喜ぶとこなんだろうけど、何故か負けた気がするのは。
 ほんと、降谷君の天然っぷりは計り知れないな。なんて感心してしまった。

「何なに? なんの話?」

 トイレから戻った凛が僕たちの会話に加わった。

「えっとね、降谷君が凛に言いたいことがあるんだって」
「何? 降谷君」

 降谷君に向いて今か今かと彼の発言を待つ凛がどんな反応を示すのか興味があった。

「凛ってさ、しろくまに似てるよねって話してたんだ」
「私がしろくまに!?」
「そう」

 喜ぶよって言ったけど実際どうなんだろう。
 凛は目を大きく見開いて口をポカンと開けている。それから嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「私あんなに癒し系じゃないけど、でもありがとう! すっごく嬉しいよ」
「……よかった。怒られるかと思った……」
「好きな動物に似てるって言われて嬉しくないわけないよ」

 心底嬉しそうに喜ぶ凛に降谷君も嬉しそうに微笑んでいる。
 なんだろ、この天然二人組。見てて飽きないな。
 そんなこと考えて食後にお茶を飲んでいたら、凛が僕に「春ちゃんこの後何か予定ある?」と訊いてきた。

「特に予定はないけど、どうしたの?」
「ちょっと相談があるの。後で屋上に来てね」

 そう言い残して凛はどこかへ行ってしまった。多分屋上かな? なんて暢気に考えてた。すると降谷君が「行かなくていいの?」と廊下を指差した。

「そうだね、ちょっと行ってくるよ」
「うん、頑張って」

 降谷君の言葉は気になったけど、凛をあまり待たせても悪い。僕は自然と小走りになっていた。
 階段を駆け上がって屋上に続く扉を開けた。フェンスに凭れたまま凛が僕に気がついた。

「どうしたの改まって相談なんて」
「……うん」

 返事をしてしばらく黙っていた彼女が大きく息を吸って一拍置いてそして叫んだ。

「私、春ちゃんのことが好きなの!」

 まさかの展開に度肝を抜かれた。だって凛は僕のこと兄妹くらいにしか思ってないって勝手に思い込んでいたから。

「ちょ、ちょっと待って! いきなり過ぎない?」

 慌てる僕に近づいて、目の前で立ち止まった彼女が続ける。

「いきなりじゃないよ。――前に春ちゃんがなんで青道なんだって訊いたでしょ?」
「うん……」
「それはどうしても春ちゃんのこと忘れられなかったからなの」
「ちょっと待って、それって――」
「無理行ってこっちに来たのも全部春ちゃんのそばにいたいから……春ちゃんが誰かの隣にいる未来はどうしても考えたくなかった。私が今こうしていられるのも春ちゃんのお陰だから」

 そう言って眉を下げて微笑んだ彼女はあのときの儚さが蘇っていた。

「……僕も凛がずっと好きだった。凛が僕の前から消えたあの日、もう二度と会えないんだって思ってた……。なんで気持ち伝えなかったんだって後悔ばっかりだったよ」
 
 吹き抜けた風が僕の前髪を攫って、クリアになった視界が凛の姿をはっきりと捉えた。
 彼女は泣きながら微笑んでいた。
 そして僕は彼女に近づいて、抱きしめた。

「凛に嫌われるのが怖くて、僕はずっと嘘ついてたんだ……」
「……嫌うわけないのに……」
「うん。やっと言えた……ずっと好きだよ……これからも凛だけ」
「……私も春ちゃんが大好き。……ありがとう……」

 凛が僕の前髪をあげて、背伸びして僕のおでこにキスをした。
 僕の視界の彼女の姿は今度は涙で歪んでいた。


Fin.




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