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隠れた瞳は空の色 ‐第一話-




 転校生は私立では珍しいのもあって、初日の休み時間は彼女の机はクラスメイトに囲まれていて、僕はそれを遠くから傍観していた。

 訊きたいことは山ほどあるけど、これからは毎日一緒なんだと思ったらゆっくりでいいやなんて思って、今日も座ったまま器用に寝ている降谷君を起こす。

「降谷君、次移動教室だよ! 起きて!」

 肩を揺らしてやっと目を開けた彼は寝惚けていて「え、もう朝……?」と目をしぱしぱさせている。

「とっくに朝だよ。ほら準備して! 次音楽なんだから遅れちゃうよ?」
「あ、うん……」

 まだ完全には起きてない頭で授業に必要な道具を出して立ち上がった彼を確認して歩きだそうとした時、右側から「春ちゃん!」と声がかけられた。振り向くと彼女が立っていて、「私も一緒に行っていい?」と訊いてきた。

「いいよ。一緒に行こ」

 僕がそう言うと彼女は嬉しそうに微笑んで、「ありがとう」と言った。
 その笑顔はあの時と変わらないけど、昔よりも格段に子供っぽさが抜けてもう彼女は女性になっていた。

「あれ……? 初めて見る顔だ」
 と降谷君が呟く。
「さっき紹介されてたでしょ。転校生の有栖川凛さんだよ」
 僕が紹介すれば、続いて彼女も軽く会釈する。

「有栖川凛です。これから宜しくね! えっと……」
「降谷。降谷暁……。よろしく」
「降谷君だね」

 彼女は降谷君を見て、ふふ、と笑った。それを見た僕は心が痛かった。笑いかけるのは、僕だけでいいのに。醜い嫉妬心を振り払うため彼女の腕を取って「早く行かないとほんとに遅れる!」と無理やりその場を収めた。

 授業にはなんとか間に合ったけど、心のもやもやは晴れないまま上の空だった。

 昼休み。僕と降谷君は今日は学食に行こうと教室を出たら凛がどこかから戻って来たようで「春ちゃんどこ行くの?」と僕等の前に駆けてきた。

「僕達これから学食なんだよ。凛はお昼どうするの? よかったら一緒に行く?」
「うん、行きたい! ちょっと待ってて、すぐ準備してくる」

 彼女は教室へ入っていった。それを見届けて、勝手に誘ってしまったことを降谷君に謝罪したら「別に大丈夫だよ」とすんなり了承してくれた。こういう時、降谷君の懐の深さに感服する。

 彼女が戻り、食堂へ向かう。食堂はお腹を空かせた生徒で溢れていた。食券を買うための列に並んで悩んだ末、僕はA定食で降谷君も同じもの。彼女はB定食を頼んだ。
 降谷君は僕の隣で、凛は僕の正面で座って食べていた時「え!? 降谷君って北海道なの?」と彼女が驚きを隠せない表情で言った。それに降谷君も「うん」と頷く。

「私も北海道からこっちに来たの。元々は春ちゃんと同じ神奈川県だったんだけどね」
「へー。だから『春ちゃん』呼びなんだ。そういえば凛って呼んでるもんね」
「うん。でもまさか凛が青道に転校してくるなんて思わなかったからびっくりしたよ」
「だよね。私も自分の行動力に驚いてるとこ」
「そうなの?」
「そうだよ! だって無理言って一人暮らしさせてもらってるんだもん」
「一人暮らししてるんだ……」

「うん、だからバイトもしてるんだよ?」と彼女が言った。場所を訊くと駅前のカフェで働いているらしい。
 頼りなかった彼女がいつの間にかしっかりと地に足を付けて進んでいることに安堵した。二年前の彼女は今にも壊れてしまいそうで、僕が彼女を護らないと飛んで行ってしまいそうだったから。

「今度みんなで行くよ。また場所教えて」
「うん! 待ってる。その時は亮介君も連れてきてね」
「え……兄貴も?」
「うん。何年も会ってないから、私だけじゃ話しかけづらくって……」

 なんだ、そういうこと。
 あからさまにホッと胸をなで下ろす。

「兄貴にも言っとくよ。凛がこっちに帰って来たって」
「春ちゃんありがとう! ちなみにこのカフェなの。今流行りの3Dラテアートとかもやっててね、しろくまとか可愛いの」
「……しろくま?」

 僕達のやり取りを見ていた降谷君が一言。

「それ、僕も行きたい」

 無表情だけど目をキラキラ輝かせているのはわかる。案外分かり易いんだよね、降谷君って。

「もちろん誘うつもりだったけど、急にどうしたの?」
 僕が尋ねれば
「だって、しろくまのラテアートあるんだよね」
 と降谷君。その言葉に反応したのは彼女で
「もしかして、降谷君ってしろくま好きなの?」

 彼女の問いかけに深く頷く降谷君。僕はそうだったんだ、と彼の新しい一面に驚いた。

「じゃあこれあげる。私何枚か持ってるから」

 と彼女が取り出したのはしろくまのポラロイド風のカードだった。受け取った降谷君はほくほくと嬉しそうにしている。

「ありがとう……」
「ううん。まさかのしろくま大好き仲間がいて私も嬉しい」
「え? 凛もしろくま好きなの?」
「そうなの。向こう(北海道)に住んですぐ、動物園に行ったんだけど、そこにいるしろくま達が可愛くて」

 それですっかりハマっちゃったの、とペットボトルの蓋を開けながら言った。

「凛さんっていい人だね」
「それってしろくまが好きだから?」
 僕が訊くと降谷君は
「うん。動物好きの人に悪い人はいない」
 と凛々しい目つきで言うもんだから、凛が吹き出した。

「降谷君って面白い人なんだね。それに無表情だけど分かり易い」

 それから二人はまたしろくま談義に花を咲かせて、僕は複雑な感情でそれを見ていた。

 降谷君がこんなにも女の子と話すのも初めて見たけど、凛も初対面なのにこんなにも打ち解けてるのもなんだか新鮮だった。北海道に行ったことは、彼女にはいい影響を及ぼしたのかも、とそんなふうに思った。


to be continued……




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