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隠れた瞳は空の色 ‐エピローグ-




 凛と付き合うようになってからも降谷君とは相変わらず三人で行動している。
 僕は知らなかったけど、凛は降谷君に恋愛相談していたらしい。だから最初から降谷君はライバルになるわけはなかったようだった。

 そして降谷君念願の凛が働くカフェへ兄貴も誘ってやってきた。
 凛はウエイトレスの姿で、制服がよく似合って可愛い。

「春市、顔が緩んでる」
「あ、ほんとだ」

 兄貴と降谷君に突っ込まれながら、「そんなことないよ」と否定するけど恥ずかしさで顔が熱い。
 そんなやり取りしていたら凛がメニューを持ってやってきた。

「みんな来てくれてありがと。亮介君も忙しいのにごめんね」
「いいよ、なんか面白い春市見られるかもだし」
「ちょっと、兄貴!」
「面白い?」
「……うん、面白いよ」

 降谷君まで兄貴の悪乗りに便乗して。よっぽど嬉しいんだな『しろくまラテアート』が見られるの。

「ご注文はどうしますか?」

 彼女の声にいち早く反応した降谷君は

「しろくまラテで」

 と間髪いれずに言った。その後で兄貴はアイスコーヒーと僕も降谷君と同じものを頼んだ。凛が奥に引っ込んでからすぐに兄貴が口を開いた。

「で、春市と凛はどこまでいったの?」

 ちょうど水を口に含んでいたから勢いよく噴き出してしまった。

「春市汚い」
「ご、ごめん! でも兄貴が……」
「俺がなんだって?」
「――なんでもない」

 凛との進展を探られながらもかわしつつ待っていたら、しばらくして注文していたものを凛が持ってきた。

「お待たせしました。こちらがしろくまラテです」

 そう言って僕と降谷君の前に置かれた立体のラテアートはすごかった。

「ほんとにしろくまが乗ってるじゃん」
「すごいよね! 降谷、君……」

 降谷君は喜んだのもつかの間、ラテアートと睨めっこして固まっている。

「どうしよう……しろくまさん、飲めない……」
「いやそこはもう、飲もうよ。冷めちゃうよ」
「何? 降谷ってしろくまが好きなの?」
「そうなんだよ。ほら、降谷君飲まないと」

 降谷君は目をギュッと瞑って「しろくまさん、ごめんなさい」と呟いてふうふうと息を吹きかけて一口。そして驚いて目を見開いた。

「……おいしい」

 そう言って今度はゆっくりと味わっていた。
 その後兄貴からの尋問は続いて、カフェから出た時には僕はぐったりと気疲れしていた。
 兄貴達は先に寮に戻って、僕は凛のバイトの終わりを待っている。暇つぶしに携帯のゲームをしていたらバイトを終えた凛が出てきた。

「お疲れ様」
「春ちゃん、ありがとう待っててくれて」
「ううん、じゃあ行こう」
「うん!」

 そう言って凛は僕の手に自分の手を重ねて歩き出す。彼女は上機嫌でにこにこ笑っている。それに僕もつられて笑顔になる。

「どこ行くの?」

 僕が訊いたら凛は人差し指を唇にあてて「内緒っ」と言った。
 なんか、一々可愛く見えるのは僕がおかしいからじゃないはずだ、きっと。
 彼女に連れられてやってきたのは暗くなった空に一際輝くイルミネーションが光る観覧車で、僕は彼女に言われるがまま乗り込んだ。

「きれいだね……」と夜景を見て隣に座る凛が呟いた。僕は夜景を見るふりで彼女を見つめてた。そしてひとしきり夜景を楽しんだのか彼女はこちらを向いて僕に笑いかけた。

「春ちゃん」
「なに?」
「私ね、春ちゃんとはずっと離れたくないの……」
「そんなの僕もだよ!」
「ありがと。……だからね、こんなジンクス効果があるかわかんないけど、何でも試しておきたいの」
「うん」
「――じゃあ、目を瞑って? 良いって言うまで開けちゃダメだよ?」
「うん? わかった」

 凛の要望通り目を瞑った。少しして彼女の両手で頬を包まれたと思ったら、唇に柔らかい感触があった。驚いて目を開けると目の前で彼女が愛おしそうに僕を見つめていた。

「凛?」

 僕が名前を呼ぶと凛は隣に座りなおして、恥ずかしいのか窓の外を向いた。

「ここの観覧車の一番上でキスすると永遠に結ばれるっていうジンクスがあってね。今日はそれをしたかったの」

 矢継ぎ早に言って、なおも顔は窓に向いている。

「こっち向いてよ」

 僕が言ったら「やだよ、恥ずかしいもん……」って向こうとしないから、僕は凛の肩を掴んでこちらに向かせた。
 彼女の顔は暗がりでもわかるほど真っ赤に紅潮していて、まるで照れたときの僕みたいだ。

「ジンクスに頼らなくったって僕は凛のそばから離れないよ。――これは絶対だから」

 離れるわけがない。僕の好きな人は昔から凛なんだから。
 僕の言葉に目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ凛に今度は僕から不意打ちのキスをした。
 顔を離すと凛が僕の胸に顔をうずめて、くぐもった声で「大好き」って呟いた。
 そして僕も「大好きだよ」って言いながら凛を強く抱きしめた。


Fin.





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