short story | ナノ

焼きもちを妬いたんだ




 今日も今日とて煩わしい日が始まる。

 「オイ! 無視すんじゃねーよ!」眉間にシワを寄せ私の肩を掴んだこの人は、今年甲子園出場を果たし、その名が全国に知れた"成宮 鳴"だ。

「……無視なんてしてません」
「嘘つけよ! 完全に無視して素通りしようとしたじゃねーか!」

 その通り。鳴先輩が女の子に囲まれて鼻の下を伸ばしている現場なんて見たくないし、関わりたくもない。
 いわゆる『鳴ちゃんフィーバー』で女の子からの人気は右肩上がり。それを知っている彼は何故か見せつける様に私の行く所、行く所に現れるのだ。

「先輩も"そーゆー"の、止めたほうがいいですよ」
「……なに? 妬いてんの?」

 ニヤニヤしながら反応を楽しむ先輩に、一つ溜息を落とし呆れた様に言い放つ。

「なんで私が焼きもち妬かないといけないんですか! ほんっとどうしようもないですね!! そんな人は一生女の子とイチャコラしてたら良いんですよ!! ……じゃ、急ぐので失礼します!」

 言いたい事を息継ぎもせず言い終わった私は、後ろで喚いている先輩を見て見ぬ振りをして教室へと急いだ。



「おーい花咲ー! お前にお客さん」

 クラスメイトの声に反応し、教室の入り口に目をやると、
 委員が一緒だった気がする……。
 程度の認識の男の子が待っていた。何か用事かと問えば「ちょっと来て」と手を引かれた。
 そして今、私はこの学校で生粋の告白場所、屋上に連れて来られていた。
 これから起こる出来事は大体想像が付く。彼には悪いが私には兼ねてからずっと想っている人がいる。返事は決まっている様なものだ。

「あの……ずっと好きなんだ君が! 僕と付き合ってくれないか?」
「……ごめんなさい。好きな人がいるの。でも気持ちは嬉しかったよ、ありがとう」

 男の子は悲しそうな表情で「そっか……じゃあ行くよ」と言い残し去っていった。
 私はフェンスに凭れ掛かり、空を仰いだ。心とは裏腹に今日は嫌になる程の晴天だ。
 気持ちを伝えられるのは嬉しいけれど断るのは思った以上に神経を使う。それがわかっているから、野球に夢中なあの人の邪魔になるのではないかと未だに足踏みをしているのだ。

 そんな折、誰かが屋上の扉を開けた。ゆっくりと動く扉を見ていれば、鳴先輩が気まずそうに近づいてくる。

「……あいつと付き合うの?」
「えっ!?」

 心なしかいつもの元気がない様に見える。

「そんな事……先輩には関係ないじゃないですか」
「関係あるね!!! お前は俺のなんだから!」

 何を言い出すんだ、この人は。冗談も程々にして欲しい。

「私は鳴先輩の物でも、誰のものでもないですよ」

 私がどんだけ必死に好きな気持ちを抑えようとしているか。怒りと悲しみが入り混じった感情が心を渦巻く。このままでは八つ当たりしてしまいそうだ。

「正直になんなよ。気持ちだだ漏れだよ?」

 相変わらずのオレ様発言に、私の怒りは爆発した。

「もう! 何なんですか! 私が必死に我慢してるのに! いつもそう! 私をからかってそんなに楽しいんですか!? ほんと悪趣味……」
 言い終わらない内に、腕を引かれ、温かい腕に包み込まれた。一瞬、何が起きたのか理解が出来なかった。今鳴先輩の腕の中にいるのだと。

「我慢しなくていーよ。野球の邪魔になるって……俺がそんなに弱いと思ってんの? 失礼だな!」
「私は……野球に夢中な先輩が好きなんですよ……。それ以外に気を取られたくなかったんです……」
「バカだな〜花咲は! そんな不器用じゃありませ〜ん!」

 「どっちも中途半端はしないから」と言う鳴先輩の言葉に今は素直に頷いておこう。


Fin.

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