short story | ナノ

キミの世界まであと少し




 あなたはとっくに此処に居ないのに、私の心はずっと他には響かない。この気持ちを何処に持っていけば良いのか未だに解らないままで、今日も日々が淡々と過ぎていく−−。



 今日も通い慣れた通学路を歩く。去年までは一緒に通ったこの道も、今は寂しさが残る。

 御幸一也は私の幼馴染み。小さな頃から一緒に育った私たちの間には、甘い空気など一切なく、いつも兄妹の様で。
 少なくとも私は兄妹なんて思った事は一度もない。ずっと、幼い頃からずっと好きなのに。一也はそんな私の気持ちには気付きもせず、この春高校入学と共にさらに遠くに行ってしまった。季節はもう冬だ。

 もうこの気持ちは諦めなければならないのだと、好きだと打ち明けてくれた男子と何度か付き合ってはみるものの、やはり心は動かず、すぐに終わりが来てしまった。
 どうしても一也以上に好きになれる人が現れないのだ。

 「ただいま」誰もいない空間に一人呟く。するとすぐに返事が返ってきた。

「おかえり」

 私は目を疑った。今まさに心の中で噂していた人物が目の前にいるのだから。

「え!? 一也!? どうしたの?」
「久々のオフだし、奏の顔でも見に来てやろうかと思ってな!」

 ニヤリとからかう様に笑う一也に
 変わってないなぁ……
 少し安心した。
 メールで連絡は取り合うもののその頻度は少なかった。やはり部活が忙しいのだろうし、頻繁にメールなど送ってしまえば、きっと邪魔になる。

「変わってねぇな〜奏は! 元気だったか?」
「元気だったよ……」

 拗ねた様にそう言えば、一也は「なんだよ、寂しかったのか〜?」なんておちゃらけて頭をわしゃわしゃしてきた。

「もう! 髪の毛ぐちゃぐちゃになったじゃない!」

 怒った素振りを見せるけど、内心嬉しくてたまらない。やっぱり私は一也じゃないとダメなんだ。改めて思い知らされてしまった。

「野球部はどうなの?」
「夏大が終わって、先輩たちも次に向かってるよ。俺も気合い入れて頑張らねーと!」
「そっか! 一也、正捕手って言ってたもんね!」
「おう! それより奏はどうなんだよ? 進路決まったのか?」
「うん、決まったよ。でも今はまだ内緒! 受かるかわかんないし!」
「オイオイ、大丈夫か〜?」

 一也の心配そうな表情に私は内心
 もちろん受かるけど! と思っていた。
 この一年、必死で勉強した。それは誰よりも近くで一也を応援するために。
 
 春には私も青道へ入学する予定だ。もちろん、一也には内緒で。

 今から驚く顔が楽しみで仕方ない。
 待ってて。あなたの世界に行くまであと少し−−。


Fin.

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