一万打リクエストstory | ナノ

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月と太陽、恋物語。




 俺には想いを寄せる人がいる。それは野球部マネージャーの『ゆう』。彼女は極度の人見知りらしい。これは何故かゆうと仲が良い降谷からの情報。

 最初はただ人見知りの彼女が不憫で、克服させようと何かと構ったり話し掛けたりしていた。そうする内に彼女も段々と話し掛けてもくれたりして、それなりに親密になったと思っていた。

 しかし最近俺が話し掛けてもすぐに逃げるように立ち去ったり、俺を見かけると目を逸らしてそそくさと行ってしまったり。

 もしかして俺、嫌われた?

 いくら胸に手を当て考えてもそれらしい原因は思い当たらず頭を悩ましていた。

 この間もゆうが練習終わりに倉庫でボールを必死に磨いていた。だから俺も手伝おうと声を掛けた。

「お、ボール磨いてんのか? 俺も手伝う」
「え!? そんなの悪いよ。それにピッチャーは手を大事にしなきゃダメだよ?」

 と、やんわりと断られた。そう言われちゃ強引に手伝う訳にもいかず、俺は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

 それからも俺が近づくと何かと理由をつけて離れていく。

 ――あぁー! もう! ウジウジ悩むのはやめだ。そんなの俺の性分に合わねぇ!
 覚悟を決めてゆうを探していると、前方に降谷と笑い合う彼女の姿が――。

 なんで、降谷なんだよ……。


***

 私には想いを寄せる人がいる。それは――

「ガンガン打たせていくんで、バックのみなさんよろしくお願いします!!」

 今も試合中のマウンドで一際大きな声を出し存在感を示す彼、『沢村 栄純』君。
 彼と出会ったのは私が野球部マネージャーになってから。入部した初日の遅刻を咎められ、監督に「投手は諦めろ」と言われても、決して諦めなかった彼は今では野球部の立派な戦力にまでなっていた。
 私はそんな何事にも直向きで粘り強く努力し続ける彼から、いつからか目が離せなくなっていた。

 自覚したのはつい最近。けれどひとつ、私には克服すべき弱点がある。それは、『極度の人見知り』だということ。
 季節は秋、十一月。マネージャーになってから数えれば七ヶ月も経つというのに、未だに選手達とも目を見て話せない。唯一話せるのはマネージャーの先輩達と春乃ちゃん。それと何故か降谷君とは自然に話せるのだ。彼の醸し出す空気が私にとって居心地が良く無理に話さなくても大丈夫と言ってくれているような気がするから。

 練習が終わって選手達それぞれが寮に戻る最中、私は降谷君を呼び止めた。

「降谷君、これ新しいスポーツマニキュア。無くなったってこの前言ってたでしょ?」
「あ、そうだった。……ありがと」

 そう言って受け取った彼の背後からひょっこりと頭を出したのは沢村君で、

「あ、何もらってんだよ! ずりぃぞ降谷! ゆう俺にはねぇの?」
「え、えっと……」

 しどろもどろで目が泳ぐ。そして「ごめんなさい!」と言い逃げでその場を離れた私。自分の気持ちを自覚してから彼と話すという行為が私にはとても難易度が高く、失礼な態度を取ってしまうことに切実に頭を悩ましていた。
 そしていつも逃げた後で自己嫌悪に陥る。

 なんで普通に出来ないの? こんなんじゃ嫌われちゃうよ……。
 溜息で肩を落としてとぼとぼ歩いていれば後ろから勢い良くこちらに近づく足音。

「おーい! ゆうー!」

 振り向くと凄まじい勢いで駆けてくる人物が一人。

「さ、沢村君!」

 さすが毎日走り込んでいるだけあり、彼はこの程度では息も切らしていない。私の目の前で止まって一言。

「なんで無視するんだよ」

 狼狽する私を尻目に彼は唇を尖らせて不満そうだ。そして続けざまに

「降谷とは話すのに俺とは話せねぇの? ……俺、もしかして嫌われてる?」

 とんでもない誤解を招いていた。一刻も早く誤解を解かなければ。

「無視とかじゃなくて、沢村君と話すの緊張しちゃうから……」
「――え? 緊張すんのか? ……じゃあ嫌われてるとかじゃないんだな?」
「……うん……」

 私が言ってひとつ頷くと彼は盛大な溜息と共にその場にしゃがみ込んだ。

「なんだ、てっきり嫌われてると思って焦った。違うなら良かったー!」
「嫌うなんて、そんなことありえないよ」
「――じゃあ最近のゆうの態度はなんでなんだ? 俺のこと避けまくってねぇ?」
「そ、そんなことない、です、よ?」

 誤魔化そうとして変な敬語になってしまった。そこにすかさず沢村君のツッコミが入る。

「ほら! それ! 怪しいな……! 何か隠してんだろ!?」
「えっと、そ、それは……」

 頬が熱くなって言葉に詰まる私に彼は「ほれ、言ってみ? 悩みなら聞いてやるから!」と更に追い討ちをかける。
 
「や、でも――」

 見つめる彼の視線に茹で上がりそうなほど身体が火照り、身の置き所がなくなった私はまた「――ごめんなさい!」と彼に背を向け走り出そうとした。けれどその行動は彼の手が私の手首を掴んだことで失敗に終わった。

「今度は逃がさねーぞ! ちゃんと理由訊くまではこの手離さねぇからな!」
「……困るよ……」

 掴まれた手首がそこだけ熱を帯びたみたいだ。熱い。

「嫌われてねぇならなんでそんな態度……」

 私の手首から自身の手を離し眉を下げる彼に心臓が締め付けられる。
 もういっそ伝えてみようか。私の想いを――。


***

 逃げようとした彼女の手を今度は咄嗟に掴んだ。「今度は逃がさねーぞ!」と。
 彼女は困惑した表情で「……困るよ……」と言った。

 もういいんだ。困らせても、これ以上今のままの関係は嫌なんだ。

「ずっとこのままは嫌だ。降谷にも渡さねぇ」
「……降谷君? 何を、渡すの?」

 ここまでしても気づかれもしない。彼女は鈍感なのか、それともわざと惚けているのか。
 しかし肝を据えた男は強い。

「……だから、ゆうをだよ」
「え?」
「俺はゆうが好きなんだ。ゆうが誰を好きでも関係ねぇ。絶対ェに振り向かせてみせる!」

 最後の方はほぼ叫び声。もう、体裁なんか気にしねぇ。
 案の定目を丸くする彼女の顔から目を逸らし次の言葉を待つ。

「……それ、本当?」

 声に反応して再び彼女に目をやると、彼女の瞳からは大粒の涙が流れているのを見て息を呑む。

「――すまねぇ困らせて。けど、そんなに嫌がられるとは思わなくて――」
「違う! ……嫌なんじゃなくて、これは――嬉し涙なの」

 流れる涙を指で拭いながらもその表情は微笑んでいて、思わず見惚れる。

「私も、沢村君が好きだよ……」

 彼女の言葉を聞いた彼は無意識に彼女を腕の中へと抱き寄せた。
 耳元で困惑して硬直している彼女の声。
 だけど今だけは許してほしい――。

 彼女は月で彼は太陽。
 正反対の二人の恋が成就した瞬間だった――。


*bonus→

 建物の物陰で二人を覗く人物が三名。

「先輩達、趣味悪いですよ」

 早く帰りたい、と二人を説得する降谷と

「いいんだよ、ほらお前もちゃんと隠れろって!」

 その降谷を隠れさせようと肩を抱いて屈ませようと苦戦する御幸。

「そうだぜ。あいつが振られるところちゃんと見届けてやろーぜ!」

 悪者面で言いのける倉持の三人だ。

 御幸と倉持は今、正に帰ろうとしていたところで沢村の叫び声に振り向き、全速力でゆうに近づく異様さにつられて舞い戻って来た。そして降谷まで巻き込んで今に至る。

「あ!」

 倉持の声に反応して降谷と御幸も沢村達に目をやった。それは沢村がゆうを抱きしめた瞬間だった。

「おい、あれ……」

 その光景にただ驚きで目を見開く御幸と

「沢村の癖に生意気な! あんっのヤロー、後でシメてやる!」

 こめかみに血管を浮かびあがらせ戦闘態勢を整えんばかりに指を鳴らす倉持と

「もう帰りましょうよ……」

 と、呆れで溜息を吐く降谷。

 この後、恋が成就し天にも昇る心持ちで部屋に戻った沢村が、倉持によりプロレス技で締め上げられたのは言うまでもなかった――。


Fin.





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