Hanami series | ナノ

Hanami Series

彼の気持ちの確かめ方



 私は今、下級生のクラスに突入しようとしている。目当ての彼を見つけ走り寄る。

「つっねまっつくーん!」
「何スか? ……先輩すごい気持ち悪いですよ。顔」
「乙女に向かって何てこと言うの!? 酷すぎる!」

 ガタイが大きく声も野太い彼は『小川 常松』と言う。彼は一年生ながら野球部の主力選手。そして彼の尊敬する人物は『アンパンマン』。その経緯を話すと長くなるので端折るが、とにかく生意気な後輩なのだ。彼の言葉への反撃に背中を両手で交互に殴る。殴ると言っても触れていると言った方が正しい。

「何なんですか。俺今忙しいんスよ」
「すごく暇そうにに見えるけど……」
「彼の音楽を聴いて精神統一してんですから、邪魔しないで下さい」

 『彼』とはアンパンマンのこと。私はアンパンマンに勝てないのか。――いや、勝てないね。彼はちびっ子のカリスマだもの。

「ちょっと相談があったんだけど、少しだけ時間くれない?」

 椅子に座る常松を机を挟んで向かい合い、少しばかりの上目遣いをしてみればまた「気持ち悪いですよ」と一蹴される。

「それで、相談てなんスか?」

 私のしつこさに彼はやっとイヤホンを外して訊く体制を整えた。

「えっとね、枡君もうすぐ誕生日じゃない?」
「え!? そうなんスか? 知りませんでした」
「そうなの! ――とにかく、何かプレゼントしたいんだけど何がいいかと思って」
「そんなん知りませんっスよ。本人に訊いてみたら良いじゃないスか」

 最もなことを言いのける彼に溜息がでた。訊く相手を間違えた。

「もういいよ! 自分で考えるから!」

 言い残してさっさとその場を去った。
 枡君が喜ぶもの。全然思いつかない。常松だったら分かりやすいのに。だってアンパンマンのグッズをあげれば喜ぶだろうし。

 私は枡君が好き。それは一年生の時、私は入学式から一週間熱で寝込んで休んでいた。そしていざ気合いを入れて登校すると、既にグループが出来ていて、不貞腐れた私は一人窓の外を眺めていた。そんな時に声を掛けてくれたのが枡君で。それからも面倒見の良い彼は何かと気に掛けてくれたのだ。
 身体は小柄だが、器は人一倍大きい彼の優しさに救われ、そして惹かれていった。だから四月七日の彼の誕生日には、恩返しとして何かしたかったのだ。

 そして何がいいか迷いに迷った挙句、冒頭のやり取りに戻るのだ。

「ほんと常松は役に立たないんだからー!」

 廊下を歩きながら彼への理不尽な八つ当たり。心の中で言ったつもりが声に出てたようで

「常松がまた何かしたか?」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

「――っ、枡君!」
「おう、大丈夫か? でっけー独り言だったぜ」
「あ、うん。何でもないよ」

 心配そうに眉を下げる彼に申し訳なさと恥ずかしさが混合した感情が湧く。

 今は昼休み。近くの教室を覗き時計を見ればまだ時間の余裕がある。

「あの、枡君今暇してる?」
「そうだな。別に暇だけど」

 ちょっとこっちに来て、と彼の返事も訊かず手を取り強引に連れ出した。そして人通りのない裏庭へ到着。何も言わない私に怪訝な顔で彼が訊く。

「こんなとこまで引っ張ってきてどうした?」

 このまま無言の訳もいかず、意を決して言葉を発する。

「……枡君てさ、好きな人いるの?」

 違う、私が聞きたかったのはプレゼントの希望だったのに。
 彼の顔を見てつい口が滑ってしまった。

「俺? 俺は――」
「あ、その反応は……いるんだ。好きな人」

 いや、その――、と言葉を濁す彼。これはもう明らかだ。

「だ、誰? 私の知ってる人?」

 食い下がる私に彼は頭を掻いて目を逸らす。
 ここで逃げたら女が廃る。どうせ失恋するなら早いほうがいい。

「――お願い。教えて? 誰にも言わないから……」

 彼の手を握って少々強引に詰め寄る。彼は私の真剣な面持ちに白旗を上げたようで私と目を合わせた。

「こんな風に言うつもりなかったんだからな! ――俺の好きな人は……お前だよ星谷」
「……」

 耳を疑った。そして我にかえり両手で頬を包んで叫び声。

「えぇーーーーー!」

 手で耳を塞ぐ彼は眉間に皺を寄せている。

「驚きすぎだから。なんで気づかねぇのかこっちがえー! だわ」
「や、だ、だって――えぇ!? ほんとに? 今日ってエイプリルフールじゃないよね?」
「違うから……」

 なおもあたふたと右往左往する私の手を取って彼が落ち着かせる。

「ほら、深呼吸して」

 彼の声と共に深く息を吸って吐いた。

「それで? 返事は?」

 真剣な眼差しで私を見る彼に目を逸らさず見つめ返す。

「私も、枡君のことが好き……です」

 私の言葉に目を見開き、そして満面の笑みを見せる彼。

「よかった! ――これからもよろしくな!」

 そう言って手を出した彼の手に「はい!」と自分の手を重ねて握手。真面目な彼らしい、私達の新しい関係の始まりだった――。


Fin.





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