Liar of us 嘘つきな僕たち | ナノ

Liar of us 嘘つきな僕たち

漫画仲間が出来ました!




 『風呂場事件』を小湊兄弟によって、問い詰められさらにこってりと絞られたその日の部活は憂鬱でしかなかった。なるべく二人に遭わないように裏方にまわろうと試みるものの、部員たちは女子マネージャーに頼むよりも男の姿の私に頼み事をしやすいのか、トスバッティングのトス上げやタイマー読み上げなど、なぜか今日に限ってグラウンドでの役割を任された。

 何かの陰謀だー! と、心の中で嘆きながら、どうか二人に遭いません様にと祈っていた。その祈りが通じたのか、何度か遭遇はしたものの何事もなく(練習中にそんな時間ないので当たり前だが)部活動は終わった。そしてマネージャー全員で用具などの片付けの時間。女子マネージャー達は少女漫画の話で盛り上がっていた。

「あー! 風早くんのような爽やかイケメンがどこかにいないかなー!」
「私は龍の方が良いけどー! 春乃は誰がタイプ?」
「私は猛男くんが良いです!」
「「いや、それ違う漫画だし!!」」

 同じクラスの春乃ちゃんはとっても天然でドジっ子な可愛い女の子だ。今も梅原先輩と夏川先輩は『君に届いて』という漫画の登場人物の話をしているのに、春乃ちゃんだけは『俺の物語!』という、ワイルドな男の子が主人公の漫画の話で、噛み合っていない。先輩二人の同時のツッコミに思わず「プっ」と吹き出してしまった。

「春乃ー、あんたの天然っぷりに鳴海くんも笑ってんじゃん」
「あ、ごめんね春乃ちゃん。ボケっぷりが潔すぎて面白くて……! はははっ!」
「一希くん酷いよ!」

 未だ笑いが収まらない私に、春乃ちゃんは近付き背中をぽかぽかと叩く。全く痛くはないが、そろそろ笑いを止めなければ、と何度か深呼吸をして落ち着かせる。

「てか、あんたら仲良いの? 今名前で呼んでたし」
「はい、同じクラスなんで。しかも僕と春乃ちゃんは漫画仲間なんですよ! 僕も少女漫画すごい好きで読むんです。こっそり読んでるとこ春乃ちゃんに見つかっちゃってそれからです」
「へー、鳴海くんも漫画読むんだね! しかも少女漫画!!」
「はい! 特に『君に届いて』が一番好きなんで、さっき話題になってた時話に入りたくてうずうずしてました!」

 私は入学時に少女漫画も封印すると決意した筈なのだが、同室の御幸先輩には女だとバレ、もうこの際少女漫画好きで通そうという開き直りのもと、教室でこっそり読書に勤しんでいたところ春乃ちゃんに見つかってしまい、それから二人で話が弾み漫画の貸し借りを経て、名前で呼び合う程の仲良しになったのだ。けれど一応部屋にはあまり置かない様に、本当に欲しいものだけ買う事にしている。

 片付けの最中も終わるまでその話題で盛り上がり、気分上々のまま更衣室で着替え自室に帰れば、そこには数日前不自然に部屋を出て行った後、なぜかよそよそしくなった伊佐敷先輩がいた。

「こんばんは、伊佐敷先輩。今日もマッサージしますか?」
「お、おぉ。頼むわ」
「はい!」

 数日間避けられている様な気がしていた私は、またマッサージをさせてもらえる事が素直に嬉しく、意気揚々と床に寝転がる伊佐敷先輩のマッサージを始めた。

「ところでお前、少女漫画好きなのか?」

 唐突な伊佐敷先輩の質問に素直に「はい」と答えれば、勢い良く先輩は起き上がった。

「俺も好きなんだわ。けど、男でなかなか好きな奴いなくてよー!」
「い、伊佐敷先輩がですか!?」
「おう……。なんか悪ぃかよ」
「いえ、嬉しいです! ここじゃ語り合える人いないと思ってたんで! 同室だから御幸先輩も巻き込もうと思ったんですけど、全然相手にしてくれなくて……」
「だーかーら、俺漫画読まねーからわかんねぇんだって!」

 涙を拭う仕草で泣き真似をして訴えれば、御幸先輩からの反論が飛ぶ。それに反応したのは伊佐敷先輩で、「わかんねぇ奴はほっとけ! それより今度俺の漫画貸してやるよ」とそこから少女漫画談義が始まった――。

 あれから一時間程話は止まらず、キリがないから明日の昼休みにまた話そう、という事になり私と伊佐敷先輩は携帯番号を交換したのだった。携帯のメモリーが増えた事が嬉しく、画面を見つめにやにやする私に御幸先輩が冷ややかな視線を注いでいた事は気づいていたが、敢えて触れないようにして、予期せぬ漫画友達の出現でその日は幸せな気分で眠りについた。

 翌日の昼休み、約束通り伊佐敷先輩とランチを楽しもうと屋上で待ち合わせをした。実は密かに寮母さんの了承を得て、お弁当を自作して持ってきている。毎日は体の疲れもあり無理なのでたまにだが。今日はそのお弁当の日だ。私は栄純たちに先輩とお昼だと別れを告げ早々に屋上へと向かった。

 屋上の扉を開けるとそこは開放感で溢れていて、まるで空を独り占めした気分になる。

「屋上ってこんななんだー! 気持ちいいー!」
「だよね。俺もこの場所好きなんだ」

 この場所にいるはずのない声が聞こえ、勢い良く顔を横に向ければそこには亮ちゃんが隣にいて、手すりにもたれ肘をついた体勢で私を見ていた。

「りょ、亮ちゃん! なんでここに?」
「純に一希が屋上にいるから、先に行ってやれって。純、ちょっと遅くなるみたいでさ」
「そうなんだ……」

 想定外の亮ちゃんの登場に心拍数が上がる。また何か問い詰められるんではないかと悪い事はしていないはずなのに少し息が詰まる。

「純と仲良くなったんだね。いつの間に?」
「昨日だよ! 伊佐敷先輩毎日の様に僕たちの部屋に来るんだ。それでマッサージしてるんだけど、漫画の話題で盛り上がっちゃってそれでだよ」
「純にマッサージしてるんだ。……ふーん」
「亮ちゃんにもしたいけど、タイミングわかんないんだもん」
「別にいつでも部屋に来ればいいじゃん。同室木島だから何にも言わないと思うし」
「そうなの? じゃあ行くときは前もって言うよ。亮ちゃんもマッサージして欲しいときは言ってね」
「うん、わかった」

 まるでテストで満点を取り褒められた子供の様にはしゃぐ私を優しい目をして見る亮ちゃんに胸が締め付けられる。

「亮ちゃんにとって私って――」
「遅くなってすまねぇ! ちょっと野暮用で――ってどうした?」
「え! い、いえ、なんでもありません!」

 余程異様な空気を醸し出していたのか、遅れて屋上にやってきた先輩は訝しげな表情を浮かべる。私は誤魔化すようにわざとらしく「早く食べましょう」と話題を変えた。

 今私は何を訊こうとした?

 伊佐敷先輩のタイミングの良い登場に私は救われた。もしあのまま続けていたら、自分が何を言うかわからなかったからだ。気まずさで亮ちゃんに目を合わせず、伊佐敷先輩と並んで座り、お弁当を広げて食べ始める。亮ちゃんも私の隣で購買で買ったのだろうパンの袋を開けた。

「伊佐敷先輩のおすすめ漫画今度貸してください!」
「いいぜ、今度持って行ってやるよ」
「ありがとうございます!」

 二人でやり取りしていると伊佐敷先輩が亮ちゃんの顔を見やり、そしてまた私に視線を戻した。

「てかお前ら幼馴染みなんだよな? 亮介も大変だな。弟が二人も追っかけてきてよー」
「……『弟』、がね。まさか追っかけてくるなんて思ってなかったから」

 亮ちゃんが『弟』という単語を強調して言った事は伊佐敷先輩は気付いていないようで、内心ホッとする。

「僕必死で勉強頑張ったんだよ? 春ちゃんは野球推薦で何とかなったけど、僕は一般入試だったから……。てっきり近場の高校行くと思ってたから、亮ちゃんから青道に行くって聞かされた時ショック過ぎて何日か寝込んだんだから!」
「そうなんだ。それは悪かったね」
「絶対悪いと思ってないよね!? 亮ちゃんはいっつもそうやって飄々とかわすんだからさー」

 頬を膨らまし文句を言う私を亮ちゃんは真剣に相手にはせず、笑顔のまま。そんな彼はほっておいて、伊佐敷先輩との少女漫画談義に花を咲かせた。そのおかげか、伊佐敷先輩の意外な趣向や見た目とは違った印象を持て、この一件以来恐れ多かった先輩だったが、怖さがなくなり仲良くなれたと感じた。


to be continued……




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