Liar of us 嘘つきな僕たち | ナノ

Liar of us 嘘つきな僕たち

苦手なあいつは救世主




 今、私はさらなる窮地に立たされている。

 それは鉄心叔父さんからのありがたい提案で、お風呂は一人で入れるようにと大浴場は部員たちが午後八時半までに済ませるのでそれ以降であれば清掃中の掛け札を入り口に掛けて入れば誰も入って来ないだろうと言われていた為、その通りに清掃中の掛け札を入り口の扉に掛けたのを確かめ、脱衣所や浴室などに誰もいない事を念入りに確認した上で、棚上の籠を一つ取り出し着ていた服を全て脱ぎそれに丁寧に入れ、そしてまた棚上に戻した。

 もう何度か利用しているが、さすがに家の風呂ではないので全裸でうろうろするのは気恥ずかしさがあったため、身体の前面がギリギリ隠れる程度のタオルを胸から下を隠すように広げて持ち、浴室に繋がる引き戸をゆっくりと開けて中へとそろりと入っていく。もちろんそこには先客もおらず、貸切状態だ。
 いつものように先ずは身体の汗を流してしまおうと備え付けのシャワーがある洗い場で一通り全身を洗い、身体が綺麗になったところで浴槽の湯に浸かった。

「気持ちいー! 鉄心叔父さんに感謝しなきゃ、こんな大きいお風呂に貸切で入れるなんてないもんね」

 つい独り言が大きくなってしまった。常に気を張っている現状でこの時だけは誰にも邪魔されず、一人で心休まる大切な時間だからだ。
 ふー、と浴槽の縁に腕を預け項垂れていると、浴室の扉が開く音が聞こえ、そんなまさかとそちらに目を向けてみれば何と栄純が腰にタオルを巻いて入ってきたのだった。

「一希も入ってたのか!」
「え、栄純! なんで!? 清掃中って札かかってなかった?」
「掛けてあったけどよ、覗いたら誰もいなかったし入ってきちまった」
「えぇーー……」

 予想外の出来事に頭が真っ白になる私とは対象に、その顔はとても楽しそうな栄純は身体を洗い、浴槽の湯に浸かってきた。

「いやー、入ってたのが一希で良かった! 前なんか、あの監督と一緒になっちまってよー。気まずさで死んじまうかと思ったぜ!!」
「そ、そうなんだ。それは災難だったね……」

 湯に浸かってからもう何分経つのだろう。そろそろのぼせそうな私は失礼だが栄純に対し、早く出てくれないかな、なんて思っていて彼の話に相づちは打っているもののその頭の中はどうやってこのピンチを乗り切ろうという事で一杯だった。そんな様子の私に気付き、事もあろうに栄純が心配そうに近づいてきて、顔を覗き込まれた。

「ちょっとお前顔赤くね?」
「いや、大丈夫だよ」

 てゆうか、近いよー! ばれちゃうっ!
 冷静を装うが内心火の車でもうダメだと諦めかけたその時、浴室の扉が開き、聞き慣れた声が。

「おい、沢村! 片岡監督が呼んでんぞ! 早く行かなきゃどやされるぜ」

 それは御幸先輩で、いつもは憎たらしいあの先輩が今は神様にさえ見えるもんだから困ったものだ。

 その言葉に慌てた栄純は、「マジか! やばい、俺先に上がるわ!」と大きな波を立てながら立ち上がり急いで浴室から出て行った。
 はぁー、と大きなため息と共に項垂れ、のぼせ上がった私の意識はそこで途絶えてしまった。遠くの方で御幸先輩が私を呼ぶ声が聞こえた気がした――。



 目を開ければそこは見慣れたベッドの上で、一瞬安心して目を瞑ったものの、いつもと違うのは部屋の天井ではなくベッドの天井だという事。それは私の布団ではない事を物語っており、それに気付いた私は勢い良く起き上がった。が、頭がふらつきまた後ろへ倒れた。

「なに一人で遊んでんだよ」

 瞑っていた目を開ければ、ベッド脇から覗き込む御幸先輩がいて、その表情は苦笑いを浮かべていた。

「あ、いや、僕のベッドじゃないんで早く退かなきゃと思って起き上がったんですけど」
「別に良いぜ、そこ俺のベッドだし。それに良いもん見せてもらったしな!」

 意地悪な笑みを見せ言う先輩に、
 そういえばどうやって戻ってきたんだっけ? と考え、記憶がない事を思い出し全身の血の気が引いた。

「ぼ、僕、お風呂で倒れて――!」
「やっと思い出したか。さっきお前の戻りが遅いんで、風呂っつーのはわかってたから見に行ってみれば、案の定トラブってるし。沢村出て行かせた後お前のぼせて倒れちまったもんで、俺が着替えさせて運んだって訳。感謝しろよ? 沢村にもバレてねぇし」
「き、着替え!?」
「そうそう! お前、ちゃんと女だったんだな!」

 にしし、と笑う御幸先輩の爆弾発言に、恥ずかしさで一気に頭に血がのぼった私は大声で叫ぼうとするが、それは御幸先輩の手によって口を塞がれ阻止された。
口に人差し指を当て、しぃー、という仕草を見せた先輩に何度か頷くと口元の手が離れた。

「……見たんですか?」
「まぁ、あの状況じゃ仕方ねぇだろ」
「……変態……」
「お前なー! 感謝はされても変態呼ばわりはねぇわ」
「嘘ですよ、ありがとうございます。あの時、御幸先輩が神様に見えました! ……本当に助かりました」
「あのバカ(沢村)には清掃中は立ち入り禁止だって、俺から言っといてやるからよ」
「ありがとうございます」

 しょんぼりする私の頭を軽く叩き、御幸先輩は自身の机へ行き何かのノートを真剣に見始めた。その後ろ姿を目で追い、なぜそこまで助けてくれるのだろう、と考えるが、思考が全く読めない先輩の頭の中など理解出来るはずもなく、もやもやした気持ちを抱えながら下段のベッドから降り、上段の自分のベッドへと登った。横になると、余程疲れていたのかすぐに眠りについてしまったのだった。


 翌日、朝早く目覚めた私は顔を洗いに洗面所へ行くと、そこには栄純がいて彼は顔を洗い終えたようでタオルでその水滴を拭っていた。

「おう、一希おはよーさん」
「栄純、おはよう」
「昨日は先に出ちまって悪かったな! 一希と風呂で会うの初めてだったよな〜! てか、ここだけの話あんまり変な時間に入らねぇほうがいいぜ! 昨日も言ったように監督と鉢合わせるからよ!」
「あ、うん、忠告ありがとう。気をつけるよ」
「じゃあまた後でな!」

 そう言って出て行った栄純と入れ替わりにやって来たのは亮ちゃんと春ちゃんだった。

「へー、沢村と一緒に風呂入ったんだ」
「ふーん、栄純くんと。一希大胆だね!」

 二人とも怒りのオーラを見に纏い、黒い笑顔で言う。まるで双子ではないのかと疑う程に似通った顔で。

「り、亮ちゃん、春ちゃん! おはよう! 今の話聞いてたの?」
「聞いてたも何も、聞こえてきたんだよ。ね、春市」
「うん。栄純くんの声すごく良く通るし、廊下まで響いてたよ」
「そうなの!? いや、でもあれは不可抗力だし……」
「今日の昼休み空けといてよね」
「そうだね、詳しく聞かないと」

 有無を言わさぬ圧力に負け、その日の昼休みは二人の追及から免れる事は許されず、生きた心地のしない時間になったのだった。


to be continued……




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