Liar of us 嘘つきな僕たち | ナノ

Liar of us 嘘つきな僕たち

天然? 無自覚小悪魔参上!




 朝練も無事に終わり、寮生は食堂で朝食を食べるのが日課。その朝食というのがまた量が多くて、選手は必ず三杯はおかわりをしなければいけないというルールがある。上級生たちは美味しそうに食べている中、目の前に座る栄純もその隣席の降谷くんも、私の隣の春くんも一年生全員皆、食が進んでいないようだった。それもその筈、朝練から嫌という程走らされて、それでさぁ食べろと言われても、入るものも入らないのだろう。

「……あの、みんな大丈夫?」
「お、おう。だ、大丈夫、だ」
「全然大丈夫じゃないじゃん!」

 栄純は今にも吐きそうに口元を押さえている。見兼ねた私は席を立ち三人分のお茶を汲み席へと戻った。そして栄純、降谷君、春ちゃんそれぞれ手が届く範囲に置いた。

「お、気が効くな! サンキュー一希」
「どうも」
「ありがとう一希」
「どういたしまして」

 三人とも一気にお茶を流し込んだ。そして三人が三人共同じタイミングでコップを机に置いたものだから可笑しくなってしまい、ははは、と笑った。すると今までガヤガヤと騒がしかった食堂内が一瞬静まり返った。異様な気配で辺りを見回すと、私から顔を逸らすように先輩達も一年生も皆顔を赤らめて下を向いた。一部を除いて。

「え、何?」

 素直な疑問を言葉にすれば、御飯を食べ終えたのだろう亮ちゃんがお盆を返却し、こちらにやって来たかと思えば腕を引かれ扉を開けて外に出た。未だに前方を向いて私に背を向けている亮ちゃんの顔色は窺えない。

「一希……その顔禁止」
「へ!?」
 
 亮ちゃんの言葉の意図が読めず、素っ頓狂な声が出た。それによりやっとこちらを向いた亮ちゃんの表情は明らかに不機嫌でいつもの癖で肩を竦めた。

「そんな変な顔してた?」
「うん、もう二度としないほうがいいと思うよ。みんな笑い堪えてるの分からなかった?」

 亮ちゃんによる辛辣な言葉を受け止めることができず、頭をトンカチで殴られた様な衝撃だった。ショックが大き過ぎて半ベソになりながら「これから気を付けます」と答えれば、「うん、気を付けて」とフォローも何もない。
 そんなに変な顔だったの……!?
 
「戻るよ」言われるまま食堂へと再び足を踏み入れた。先程の微妙な空気は緩和されており、安堵の息が出た。

「おかえり」
「ただいま……」
「兄貴、何だったの?」
「うん、さっきの顔は変だからもう二度としない方がいいよってアドバイスくれた……」
「あー……。そ、うなんだ」

 明らかな苦笑いを浮かべた春ちゃんにまたも肩が下がる。

「春ちゃんも笑い堪えてたんだ……」
「いや、そんなことはないよ」

 否定の言葉を述べた春ちゃんだったが、なぜか凄く裏切られた気分になった私は、残りの御飯を掻き込み、お茶を一気に飲み干してトレーを返却し、バタバタと食堂を後にした。



 私は思っているより根に持つタイプのようで、今日もいつも通り伊佐敷先輩が部屋へやって来たが、先輩を無視するわけにもいかず挨拶だけ交わしすぐに「洗濯物回してきます!」と洗濯物を持って勢い良く部屋を出た。

 洗濯室の先客には栄純がいた。

「栄純も洗濯物?」
「そぉーなんだよ! ま、これは一年の俺らの役目だから仕方ねぇーよな!」
「そうだね……」
「なんだ、一希元気ねぇぞ。どうした?」
「……なぁ、栄純。僕ってそんなに変な顔してる?」

 言いつつ栄純へと顔を寄せる。すると栄純は「ちょ、近い」とパッと顔を背けた。それが答えか、とさらに気分が落ち込む。

「やっぱり……。もうこれからずっとマスクしとこうかな」
「一希!」

 呼ばれると同時に両肩を掴まれ、反動で栄純の顔を見た。

「違うんだよ! お前が、その、なんか、可愛い、から……。――っだぁぁああ! 男相手に何を言ってんだぁー、俺はぁぁぁー!!」
「可愛い……?」

 可愛いという単語にサーっと頭の血の気が引いていく。普段ならば喜ぶところだが、男装をしている今、最も言われてはいけない単語だからだ。未だに叫んでいる栄純の肩を揺さぶって意識を戻し、「ありがと!」それだけ言い残し目的の部屋へと急ぐ。

 そっか、亮ちゃんはまた警告してくれたんだ!
 辛辣な言葉の裏に隠された意味に合点がいき、亮ちゃんを探した。しかしタイミングが悪くどこを探しても見つからなかった。仕方がないので洗濯が終了するまで自室に戻ることにした。

 自室のドアを開けると伊佐敷先輩はまだいたようで、こちらに気付き目線をやる。

「おぅ、鳴海。マッサージしてくれ」
「あ、はい。喜んで!」
「ははは、居酒屋みたいな掛け声だな」

 御幸先輩のツッコミはさておき、うつ伏せに寝転がっている伊佐敷先輩の横に座り、先ずは背中から腰、脚と揉みしだいていく。

「やっぱお前上手いわ!」
「ありがとうございます! でも、もっともっとたくさん勉強して少しでも皆さんの力になれたら嬉しいので。頑張ります!」
「新しい技試すとき、俺が実験台になってやってもいいぜ」
「ほ、本当ですか!? 伊佐敷先輩って見た目と違って優しいんですね」

 微笑みながら、つい思ったことを口に出してしまった。
 しまった! と思ったときには時すでに遅く
「それは聞き捨てならねぇな」伊佐敷先輩は勢いよく起き上がり怒りのオーラを隠しもせず、私にヘッドロックをかけてきた。あまりに痛いそれに涙目になり必然と伊佐敷先輩を見上げる形になった。

「せ、先輩……痛いです」

 その一瞬腕の力が弱まった隙に腕から抜け出した。首元を押さえ、何度か咳き込む私はそのまま目線を伊佐敷先輩にやる。心なしか顔が赤い気がする。

「伊佐敷先輩?」

 俯いている先輩が心配になり下から覗き込む。

「うわっ! ちょ、」

 先輩は仰け反りそのまま尻餅をつく。そして素早く立ち上がりズンズンと扉に近づきこちらも向かずに「じゃあな」と言い残して出て行ってしまった。

 何が起きたのか分からず咄嗟に御幸先輩の顔を見れば、呆れたような顔で「お前、それ天然? それとも計算?」と意味のわからないことを聞いてくる。

「何のことですか?」
「……天然かよ」
「ちょっと、もっとわかるように言ってくださいよ!」
「ははは! ま、頑張れよ」

 何の話だ、とモヤモヤしながらも洗濯物が気になるので見に行くことにし、洗濯物を無事に干し終わり部屋へ帰ると、御幸先輩はもう布団の中でこれ以上は聞き出せないと諦め、部員たちは終わっているだろう風呂を浴びに浴室へと向かったのだった。


to be continued……




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