Liar of us 嘘つきな僕たち | ナノ

Liar of us 嘘つきな僕たち

さっきのドキドキを返して!




 御幸先輩に事情を打ち明けてからと言うもの、特に代わり映えのない、だけど充実した日々を過ごしていた。
 あの発言からして下僕のごとく色々と要求されるだろうと覚悟していた私は少し拍子抜けしてしまった。否、望んでいたわけではない、決して。

 今は昼休み。
 入学式の次の日に席替えをしたにも関わらず、前回と同様に私の前の席には何かと騒々しい栄純が座る。当然の如く私の机に体を向け昼御飯を広げ、ガツガツと平らげていく。

「なぁ、御幸先輩ってどんな人なの?」

 変わらず勢いよくご飯を掻き込む栄純に、ふとした疑問を投げ掛けてみる。栄純は咀嚼しているものを飲み込み、みるみる眉間に皺を寄せ嫌な顔をする。

「御幸一也! あいつはヤな奴だ!」

 大声でいう栄純に周りの視線が集まった。聞く相手を間違えたのだろうか。

「ちょ、もうちょっと声抑えてよ!」

 慌てて栄純の口を塞ぐ。静かになった所で手を離した。

「すまん!」

 謝る素振りでいう栄純は再び昼御飯を再開する。

「まぁそれは何となくわかるんだけど、そうじゃなくてもっと具体的に――」
「へー、何がわかるって?」

 後ろから唐突に発せられた声に反応し、背筋が凍る。恐る恐るそちらを向くと案の定、御幸先輩が嘘臭い笑顔を貼り付け、扉に手をかけ凭れかかって立っていた。私の席は運が良いのか悪いのか、廊下側の一番後ろの席なのだ。

「あっ、御幸一也! なんでお前がここに――」

 後ろで叫んでいる栄純は無視で、先輩は私に話しかけてくる。

「んで、何がわかるって? 一希くん?」
「あ、いや……御幸先輩ってカッコいいなーと言う話をですね……」

 しどろもどろになりながら嘘を並べる私の考えを見透かすかのように御幸先輩は相も変わらずニコリと黒い笑顔のまま。

「へー、そっかそっか〜。――沢村、ちょっとこいつ借りるわ!」
「へっ!?」

 栄純の返事も聞かず、私の襟を掴み引っ張り廊下を歩き出す先輩。首が絞まってこのままでは酸素不足で落ちてしまう。

「ちょっ、御幸先輩! どこ行くんですかっ!?」
「来ればわかる」
「っていうか、離してください! 苦しいです!」
「おっ!悪ぃ、悪ぃ」

 そう言うと御幸先輩は襟首を離し、ゆっくりと歩みを進める。私は歪んだ襟を直し、遅れないようにと後ろに並んで歩く。しばらく歩いて、人気のない階段の踊り場へと到着し、何も言わない御幸先輩に質問を投げかけた。

「えっと、御幸先輩。どうしたんですか?」

 声をかけた瞬間、勢いよくこちらを向き私の肩を押し背中が壁にぶつかる。自身の右手を私の顔の横につき壁と体で私を挟み込んだ。今話題の『壁ドン』という体制だ。
 普通の女子ならば胸をときめかせるこのシチュエーションも、見た目が男同士の私たちには無縁な話だ。

「『どうしたんですか?』じゃねーよ! お前ほんとに『それ』隠す気あんのか?」

 イライラした様子の御幸先輩に私も応戦する。少し背の高いその顔を見上げながら反論を述べる。

「ありますよ! 必死です!」
「じゃあコレはなんだよ!」

 言うとポケットの中から取りだし私の顔の前へと差し出す。御幸先輩が取り出した物は私がお守り代わりに大切にしている花のガラス飾りが付いたヘアピンだった。

「あ、それは……」
「こんなもん見えるところに置いとくなよ。 普通の男子高校生は持ってねーからな。それに、俺たちの部屋は何かと溜まり場になるんだし」
「はい、スミマセン……」

 御幸先輩の手からヘアピンを受け取り、先程の勢いをなくした私はただ謝るしかできない。 大事そうに胸の前で手の中のヘアピンを両手で握り締めながら。

「そんなに大事なものならもっと大切にしろよ」
「はい……」

 御幸先輩にはこの男装のことを知られてしまったけれど、秘密にしていてくれると安心して気が緩んでしまったみたいだ。前まではこんなことはなかった。バレないように常に気を張っていたから。

「ずっと気になってたんですけど、何で御幸先輩は僕のこと黙っててくれるんですか? それに今だって、」
「……そんなの一々言わなくても解れよ」

 首に手を当て俯き、少し照れくさそうにする御幸先輩に、まさかの考えが頭をよぎる。またもや不意打ちのその態度に、私はこれ以上ない位顔が真っ赤に紅潮し慌てふためく。

「そ、そんな……! こ、困ります……」

 そんな私の様子に堪えきれなくなったのか、御幸先輩が盛大に吹き出した。そこでやっと自分はからかわれていることに気付いて恥ずかしくなった。

「ハハハハッ! お前サイコー! そんなん面白いからに決まってんじゃん!」

 お腹を抱えてヒーヒーと笑う御幸先輩を、心の底から殴り倒したいが、一応尊敬する先輩で、しかも秘密を知りながらも隠してくれているのだから、そんなことが出来るはずもなく。ただ拳を握りこの衝動を抑え込むばかりだった。

「……御幸先輩って、本当に性格悪いですよね」
「おー! よく言われる」

 ようやく落ち着いたのか、笑い涙を指で拭いながら飄々と答える。

「まぁ、次からは気を付けろよ」

 そう言うと私の頭を軽く叩きそのまま去っていってしまった。そこに取り残された私は、優しいのか優しくないのかよくわからない御幸先輩の後ろ姿をただ見送るだけだった。


to be continued……




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