Liar of us 嘘つきな僕たち | ナノ

Liar of us 嘘つきな僕たち

いきなりピンチ!?





 入学式から数日が経ち、マネージャーとして仕事もテキパキとこなせるようになってきた。
 元々野球部のマネージャーをしてたので、道具の場所などを覚えれば後殆どする事は変わらない。

「鳴海くーん! 氷持ってきてくれる?」
「はい!」

 何が大変だったかといえば、青道高校のマネージャーは私を除いて四人全員が女子だった事。
 三年生で同じ学年の先輩達との絆が深く、髪の毛がロングで容姿端麗な藤原貴子先輩と明るくムードメーカーの二年夏川唯先輩、同じく二年、歌がめっちゃ上手いと噂の梅本幸子先輩。それに私と同級生の吉川春乃ちゃん。マネージャーで男(見た目)は男装している私のみ。だから最初はどのくらいの距離感で接したら良いのかと手探り状態だった。先輩達は面倒見が良く優しくてすぐに打ち解けられた。今はマネージャーの仕事をする時も楽しい。

 やっぱり、身近でサポート出来るのは嬉しいな!

 藤原先輩に頼まれてドリンクに入れる氷を取りに行く道中、グラウンドに差し掛かり選手達の練習風景を立ち止まって観ながら、マネージャーのやりがいや嬉しさを噛み締めていた。
 選手達の気合いの入った練習風景に、私も意気込み気合いを入れ直し、本来の頼まれた仕事に戻ろうと踵を返し走り出そうとした所で、前方ににやけ顔の御幸先輩が壁に凭れて腕を組み私を見ていた。
 最初はいい人だと思っていたこの先輩は、日にちが経つにつれ化けの皮が剥がれ、実は結構いい性格をしていると気付き、苦手意識が大きくなっていた。
 しかし無視して通り過ぎるのは失礼に当たるので、当たり障りのない会話でこの場を乗りきる事にした。

「御幸先輩、 何してるんですか。練習は?」
「ちょっとトイレにな」
「そうですか。じゃあ早く戻った方がいいんじゃないですか?」
「同室なのに冷てーな〜! さっきみたいな笑顔はどうした」
「……え? 笑顔?」

 私は練習を観ながら気付かぬうちに笑顔になっていたらしく、それを目撃したであろう御幸先輩は「気づいてねーのかよ!」なんてツッコミを入れてきたけれど。

「……野球、好きなので」
「……ふーん。まぁいいや、そんじゃ頑張れよ」
「はい、御幸先輩も頑張ってください。じゃあ失礼します」

 ひとつお辞儀を交えて挨拶をして、今度こそ、と藤原先輩に頼まれた仕事をこなす。少し遅くなって怒られてしまった。だから心の中で御幸先輩に悪態をついた。八つ当たりだけれどこのくらいは許される筈だ。

 御幸先輩は苦手だ。あの眼鏡の奥の眼で全て見透かされてるみたいで……怖い。

 その後もテキパキとマネージャー業務をこなし、あとは片付けをして今日の練習は終わった。
 女子マネージャーたちは女子更衣室に向かい、私は男子更衣室へと向かう。私の着替えは選手達が皆出ていってから、誰もいないのを入念に確認して着替えている。

「よし。誰もいない、今のうちに!」

 更衣室に入り、ロッカールーム一番奥の隅にある自身の荷物の元へと行き素早く着替えを始める。青道に入学してから、早着替えという特技を身に付けようとしていた私だ。
 後は制服のズボンのフックとファスナーを閉めるだけというとき、更衣室のドアが開き其方に目をやればユニフォーム姿の御幸先輩が入ってきた。

「おー、鳴海も今終わりか?」
「はい、お疲れ様です」
「お疲れ」

 御幸先輩も着替えを始めた。流石に男子の着替えている場所に留まっているのは気まずい。早く帰ろうと素早くファスナーを閉め、荷物をまとめていると御幸先輩から言葉が飛ぶ。

「なぁ、違ってたらワリィんだけどひとつ質問していい?」
「はい、なんでしょうか?」

 帰る支度をしつつまだ着替えの真っ最中であろう御幸先輩を見ないように返事をする。少しの間があり御幸先輩が口を開いた。

「お前さぁ、女だろ?」
「……え……?」

 ガツン、と頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、すぐに返事が出来ずにいた。私の沈黙は御幸先輩の疑問を肯定する事になってしまったらしい。

「ハ、ハハ……マジで……?」
「い、嫌だなー! そんなわけないじゃないですか!!」

 口元に手を当て苦笑いをする御幸先輩に否定の言葉を述べてみるが、不意打ちの出来事に上手く対処ができず、しどろもどろになる。

「変なこと言わないでくださいよ!」

 必死に誤魔化そうとするものの、御幸先輩は真剣にこちらを見たまま目を離そうとしない。

「誤魔化さなくていいぜ。本当のところはどうなんだよ」

 真剣な表情の御幸先輩に私はこれ以上の誤魔化しは効かないと思い、ここでは誰に聞かれる可能性を考え、部屋に戻ってから正直に説明すると伝え、更衣室を後にした。寮へと足を進める中、気分は落ち込みと焦りで冷や汗が止まらない。

 こんなにあっさりバレてしまうなんて。よりにもよって苦手意識の強い御幸先輩に。

 頭を抱えながらどう対処すべきか考えながら歩いてたから、前方の壁が目に入らずに顔面を直撃してしまった。ズキズキと痛む額をさすりながら、今はそれどころではない、と頭では別の事を考える。
 御幸先輩には本当のことを言わなければいけないのか。入寮して数日でもう青道高校を去らなければならないのかとその事ばかりで本来ならば激痛であろう額の痛みも鈍かった。

 しばらく歩き寮に辿り着いた。
 普段なら荷物を置いてすぐに食堂に行き、夕食を食べるのだが、これから待ち受ける現実を考えると食欲が沸かない。それに今は御幸先輩と顔を合わせづらく、ほんの一時でも間をあけておきたい気分だった。

 まぁ、あとで嫌でも顔会わすんだけど……。

 夕食前に御幸先輩も荷物を置きに帰ってきてはいたが、私は勉強机へと向かいうつ伏せになり狸寝入りも決めていたので一言も交わさずに済んだのだ。

 彼が帰るまでに必死に言い訳を考える。あーでもない、こーでもないと頭を悩ませているうちに、御幸先輩が夕食を終えて部屋へと戻ってきた。

「お、お帰りなさい……」

 気まずいがこれ以上は狸寝入りも決められない。

「おー。あ、コレ食堂のおばちゃんがお前にって」

 御幸先輩は、おにぎりが3つと、少量のたくあんが乗ったお皿を私の机に差し出してきた。

「……ありがとうございます」

 受け取りながらお礼を言って、おにぎりをひとつ口に運んだ。それを見ていた御幸先輩だったが、口を開けば先ほどの話題へと戻る。

「なあ、さっきの話だけど、お前なんで男の振りなんかしてんだ」

 遂に来た! 冷や汗が止まらない。おにぎりを頬張っていた私の手は止まり、咀嚼している物を飲み込む。もうこれは逃げられないと、食べかけのおにぎりをお皿に戻し、意を決して話し出した――。


「……そっか。そーいう事情だったんだな」
「はい、なので出来れば内緒にしていただけるとすごく助かるんですが」

 一通り事情を話し終え、恐る恐る御幸先輩の顔を見た。少し思考するそぶりを見せ、すぐに真剣な表情で私を見やる。その仕草に一瞬胸が鳴ったけれど、彼の一言ですぐにその考えは打ち消された。

「いいぜ、黙っててやっても」
「ほんとですか!?」
「おう」

 まさか黙ってくれるだなんて考えもせず、ここから立ち去る未来ばかり思い描いていた私は素直に歓喜した。

「あ、ありがとうございま――」
「これでお前、俺に頭上がんねーな!」
「……えっ!?」

 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる御幸先輩に、ドキッとしたさっきの自分を殴ってやりたい気分だ。

「はっはっはっ! これからよろしくな、"一希"くん!」

 やっぱりこの人性格悪い!
 胸の中で悪態を吐くが口には出せない。とんでもない秘密を隠してくれるというのだから。
 こうして私の秘密は守られたものの、その代償は思っていたよりも大きかった。


to be continued……




prev | next


back | top








「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -