Liar of us 嘘つきな僕たち | ナノ

Liar of us 嘘つきな僕たち

思い出のリストバンド




 これはまだ私達が中学生の時の話。

 私と春ちゃんは四月六日の亮ちゃんの誕生日にサプライズを計画していた。もちろん亮ちゃんには気づかれないように細心の注意を払って。

「ねぇ春ちゃん、亮ちゃんのプレゼント何が良いと思う? やっぱり野球道具かな?」
「そうだなー、兄貴の好きな物……」

 二人して頭を捻る。そして二人同時に閃いた! と顔を上げる。

「もしかして春ちゃんも、『アレ』?」
「絶対『アレ』しかないよね!」

 じゃあせーので言うよ! と合わせて

「せーの、」
「「オカルト本!」」

 合致した答えに顔を見合わせ笑う。
 お互い中学生の身。無い袖は振れないのでお小遣いを遣り繰りしてプレゼント代や部屋の飾り代を捻出する。一ヶ月程前から計画していた甲斐があり、そこそこ貯金が出来た。

「春ちゃんさ、それとなく訊いてくれない? どんなのを欲しがってるか」
「難易度高いけど、頑張ってみる! 兄貴勘がいいから慎重に行かないとね」

 春ちゃんにリサーチは任せた。部屋の本棚も調べてもらう。

 毎年私達三人の誕生日はお互いに祝いあっている。三月の私の誕生日には最も苦手なジャンル、ホラー小説を亮ちゃんからプレゼントされた。小説を読むのは好き。それそこ色んなジャンルを読み漁っているが、ホラー小説だけは苦手で読んだ日には夜一人でトイレに行けない程怖がり。だけど好意を無駄にしてはいけないと、しっかりと最後まで何日もかかって読み終えた。案の定、夜一人で部屋にいるのも怖くなり、目を瞑るのが恐怖でなかなか寝付けない日々が続いた。

 亮ちゃんに感想を述べると、「あれ冗談だったのに。本当のプレゼントはこっち」と、月のモチーフが付いた可愛らしいネックレスを渡された。それならそうと全部読み切る前に真実を聞きたかった。

 春ちゃんと共に購入する物は決まったが、自分個人でも何かプレゼントしようと考えていた。ない知恵を絞り頭に浮かんだのは試合中でも身につけられるリストバンド。我ながら良い案を思いついたと自画自賛。
 買い物は明日、春ちゃんは部活に行くことになっているため私が代わりに買い物を済ます。自室で飾り付けの準備に勤しむ。

「亮ちゃん喜ぶかな? ――楽しみだなぁ」

 一人部屋で呟いた。
 亮ちゃんの笑顔を思い出し、にやけ顏でまた黙々と作業に戻った。

 翌日、張り切って買い物に出掛けた。先ずはオカルト本を探しに本屋へと出向く。春市と決めていたタイトルの本を見つけて購入した。何軒か回る予定が一軒目の本屋で早々に調達出来たので次はスポーツ用品店へ向かう。
 向かったのは街で一番の品揃えに定評のあるスポーツ用品店。広い店内なこともあり、目当てのリストバンドは色、大きさなど豊富にずらりと並んでいる。
 亮介のイメージに合う色、彼がつけてる姿を思い描いて一目見て気に入った。それを購入しプレゼント包装もしてもらう。後は本の包装紙を調達するのみ。百円均一では味気ないので前から目をつけていた可愛い装いの雑貨屋へ。誕生日の包装紙とメッセージカードも一緒に購入した。カードは私の趣味満載の物になった。
 思ったよりも買い物が早く終わった私はふらりと目についたガラス越しのマネキンに釘付けになった。

 大人っぽい……。私も将来はこんな服似合うようになるのかな。その時隣に居るのは誰なんだろう。
 未来を思い描いてみる。願わくば隣には――。

 自宅に帰りすぐリストバンドにプレゼント包装を施す。そしてメッセージカードにも伝えたい想いを込めて。


 そして四月六日亮介の誕生日当日。平日であるため学校の授業が終わると友人達に別れを告げ、早々と帰宅。そしてこの日のために用意したワンピースに着替え、飾り付けの小物とプレゼントを持って亮介の家へ。インターホンを鳴らすと亮介の母が出迎える。もちろん予め話は通してあるのでリビングに招かれた。

「これ、ここら辺でいいかな?」
 椅子に乗って壁に飾り付け。
「いいんじゃない? すごく可愛いわよ!」

 亮介母と一緒になって部屋を賑やかにしていく。彼女もお祝いごとやパーティが好きで、料理は全て任せてある。これも毎年恒例。
 着々と準備は進み、ようやく全てが完成したところで時刻を確認するとそろそろ二人が帰宅する時間に近づいていた。部屋の電気を消してスタンバイの予定なので、私が外で二人が帰宅するのを確認し伝える係。今か今かと待ちわびて小さく見えた彼等の姿。急いで家の中に戻って亮介母に伝える。

「じゃあ電気消すわよ? 準備いい桜ちゃん」
「オッケーだよ!」

 その声で部屋は暗転。静寂に包まれた。そしてすぐに玄関扉が開く音。

「ただいまー。母さん? いないの?」

 亮介の探るような声。足音がリビングに近づく。
 彼の驚いた顔がもうすぐ見れる。胸が高鳴って仕方ない。
 サプライズとは楽しいものだ。
 そして金属の音と共にリビングの扉が開く。そこですかさず亮介母が部屋の電気を点けた。その瞬間桜はリビング入り口に向かってクラッカーを鳴らした。

「「「Happy birthday! 亮ちゃん!」」」

 それを皮切りに三人で声を合わせ祝いの言葉と拍手を送る。彼は呆気にとられた表情。

「――そっか。今日は俺の」
「そうだよ! 亮ちゃんの誕生日! 忘れてたの?」
「すっかり忘れてたよ。びっくりした」

 彼は頭に付着したクラッカーの中身の紙テープを外し集めながら飾り付けで賑やかなリビングに足を踏み入れた。部屋を一回り見た彼は「飾り付け頑張ったんだね」と他人事。

「すっごい前から用意してたの!」
「桜ちゃんが頑張ってくれたんだよ。僕の分まで」

 亮介は桜の頭を撫でながら「へー。すごいじゃん」と褒める。彼に褒められて得意げの桜は彼の手が頭から離れたところで背後に回り背中を押して席に着席させた。

「待って、二人共先に手を洗って着替えてきてね」

 亮介母に促され二人は洗面所で手を洗い用意された部屋着に着替えリビングに戻ってくる。それぞれが席に着席し、パーティの始まりだ。
 手の込んだ料理の数々は食べ盛りの二人の胃にどんどん吸い込まれていく。桜は食べっぷりの良い二人を眺めて嬉しそうに自分も頬張る。時折亮介や春市から「これも食べなよ」と取り皿に分け与えられたりして賑やかな食卓はあっという間に終わりを告げ、次はお待ちかねのバースデーケーキの登場だ。

 冷蔵庫から大きめのホールケーキが出される。苺が沢山乗せてある真ん中に誕生日特有のチョコプレート。メッセージは『亮ちゃんHappy birthday』と書かれている。ろうそくは一の数字と五の数字で十五と読めるように挿して、ライターで火を点けた。もちろんこれは母の役目。そうしておいて再び部屋は暗くなる。
 亮介以外の三人でバースデーソングを歌って亮介が息を吹きかけ火を消した。母は電気を点けに、桜と春市で精一杯大きな拍手を送る。

「亮ちゃんお誕生日おめでとー!」
 満面の笑みで言う桜に亮介も穏やかな笑顔で返す。

「ありがと。さ、ケーキ食べよう」
「わーい! ケーキ、ケーキ!」

 ケーキも食べ終えていざプレゼントを渡す時間。先に二人からの物を春市と一緒に亮介へ。包装を解いて亮介が笑う。

「――これ、欲しかったやつじゃん。よく分かったね」
「春ちゃんにリサーチ頼んだの! これは春ちゃんの手柄だよ、ね! 春ちゃん」
「そ、そうかな」

 赤面して答える春市。

 続いて桜個人で用意したプレゼントを取り出す。

「これは亮ちゃんに似合うと思って。――どうぞ」

 緊張の面持ちで亮介の反応を待つ。包みを開けた亮介は

「ありがとう、嬉しいよ」

 言って手首に着けて見せた。
 ――やっぱりすごく似合ってる。

「その色亮ちゃんにピッタリだね! それなら試合中も付けれると思って――それ選んでよかった」

 Happy birthday、亮ちゃん!



(*bonus→)

 懐かしいな。あれがもう三年前か――。
 桜にもらったリストバンドを寮の自室で眺めながら昔を思い出す。頻繁に使ってたもう傷んだそれをあの日のように手首に着けて。

「まさか桜まで追ってくるとはね。ほんとバカな奴――」

 手首のリストバンドを見つめて呟く亮介の表情は穏やかだった。


Fin.




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